稲川淳二の『つぶやき怪談』(2016.07.26)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「うん？」 「いやさぁ、あの車ってさ、運転席のすぐ後ろがエンジンじゃない？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「うん」 「でね、古い車なもんだからさ、 飛ばすとすんごいうるさいんだそうなんだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ワーーン、とね、耳の側で相当エンジン音がするんだけど、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なおもスピードをあげると、まるで人の悲鳴のように、 ”ぎゃーー”って声が耳元で聞こえるんだって。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、なんだか知らないけど、 雨が降ると、フェラーリって、調子悪いらしいんだよね、 エンジンのかかりが。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でね、そういう日に限ってなんだけど、 生ぐさーい血のような臭いがね、 どっからともなくなんか漂って来るって黒川さんが言うんだよね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だけど本人は、まぁ好きな車だし、 せっかく手に入れたからってねぇ…。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

変だと思うんだけど、 手放すのはどうかなって考えてるみたいなんですよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「へぇー」 「でもね…。こんな話、聞いたんだけど……」 ってＡさん、続けて話してくれたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その話って言うのがね、 この黒川さんて人が、深夜、東名高速を静岡から東京へ向かって、 帰って来た時の事なんですがね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

フェラーリを走らせてた訳です、 バーーッ、と。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

遅い時間だし、もう眠いし、 『あー、早く東京帰りたいなぁ』 って思って、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ブーーーッ、 と飛ばしていたんですよね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そしたら、雨がぽつりぽつり、降って来たんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『いやぁ、この車、雨には弱いんだなぁ、 どうしようかなぁ、弱ったなぁ』 と思いながら、走らせていたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのうち雨は、だんだんだんだん、強くなってくる。 そうこうするうちに、長いトンネルに入ったので、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あっ、トンネルなら、雨は関係ないから、 少しここで時間稼いでやろう』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思って、ギヤをトップに入れて、アクセルを、 ゥウワンッ！　 と踏んで、トンネルの中を走り始めたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、案の定、車内がね、 なんとなく血生ぐさい臭いが、 すーっ、と漂い始めたんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あぁあぁ、始まっちゃったなぁ』 そのうち、エンジンが後ろで、 ゥウウワーーン、て鳴り始めて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あぁあぁ、唸ってんなぁ』 って思っているうちに、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

”ぎゃぁーーーーーー！！” 耳元でもって悲鳴のような声がしたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『うわぁぁ、始まった』 と思ったんですが、だんだん、 『おっかしいなぁ』 と思ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

日頃は、街の通りを走ってる訳ですよ。 そう飛ばした事も無い訳です。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、今日は前後に車が無いトンネルの中を、 思いっきり飛ばしているものだから、 エンジン音が全部響く訳です。