- walpurgis_marry
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善良なることが美徳であるのではない その命の在り方に沿うことこそが美徳である 命は廻るためにある 力は廻すためにある その招待状はその命に捧げた献身に対する報酬である そして来たれよ強者共よ その命の在り方に沿う者等こそをこの地は歓迎し、祝福するだろう #ヴァル華
2016-08-01 20:00:01男がつかつかと不揃えな足音で迫ってくる。 そして、豚肉店と果実の置き去りにされた無人商店街の通りで、止まる。 「いい匂いだ。俺も、腹が減った 斬り終えたら、豚肉でも食うか」 礼服(スーツ)を着た者は、刀を納めた鞘を、ぬぐう。
2016-08-01 21:29:36抜刀。きらりと輝く日本刀。相当血を吸ったであろう、妖しい黒。 「山名(ヤマナ) 能登路 いざ参るぞ……!」 くつくつと笑い、刀を納めた。 「いきなりの第一声は、これだな。女子(おなご)も喜ぼう」 日差しをたっぷりと浴びて、その男は、待ち構えた。
2016-08-01 21:38:43ドルン。音が聞こえただろう。 それは水冷4ストローク並列4気筒エンジンの嘶きである。 ZRX1200の艶やかな黒い体躯は今日も照る光に輝きで応じ、風の中で疾駆していた。 「良きかな」 くちなわは満足の表情で全長2mの荒馬に騎乗する。最新技術、大好き。 そこに、声が聞こえた。
2016-08-01 22:17:40正面、500m。黒いスーツの男。しかし車は急には止まれない。何しろこちらは時速160kmであるからして。 仕方無く、一度男の脇を通り過ぎることにした。車体を横にし、ブレーキを掛けて停止。 「後方より失礼。くちなわ、と名乗らせて頂く」 ライダースーツの前を開けながら、女は言った。
2016-08-01 22:18:01びっくりとした表情で、振り向く。 「ほう、それは現世のカラクリか? 面白いな。かつて俺が鞍を乗せた愛馬、鉄鯨鬼(てつげいき)ですら、それほど疾くはなかったぞ……ッ!」 武人は、少しばかりの嫉妬を浮かばせた。
2016-08-01 22:30:20そして、鞘を両手に持つ。 「俺の名は」 抜刀。鞘を手早く腰に差し直す。 「……山名」 噛みしめるようにいう。憎悪と、少しばかりの愛着を込めて。 「俺の名は、ヤマナだ。山名能登路 いざ、参るぞッ」 黒々とした日本刀を突き向ける。
2016-08-01 22:33:58「うん、バイクと呼ぶ。これには当ててくれるな。泣くから。山名能登路。その名、確かに記憶した」 この場にいるなら、それだけの者であろう。 右手を横へ。開いた手に鋼剣がふわりと吸い付く。 「汝が人か、英雄か、神か、怪物か、知らぬがやろう。いずれも我の敵ならば」 剣を真一文字に振った。
2016-08-01 23:14:19剣先が描いた形に鎌鼬が成って飛んだ。風の権能である。 「場所を変えんと欲す」 続けざま次を放ちながら静かに言った。この程度は呼吸の延長であるが故。 くちなわはバイクから遠ざかるよう、路なりに移動を始めた。鎌鼬は射出し続けている。 風を体へ纏わせ跳ぶ。ビルの外壁を踏み台にして宙へ。
2016-08-01 23:20:20刀の切っ先で、鎌鼬を切ってみせる。が、されど。鎌鼬は無形のように直進する。山名は、地面、そして壁を蹴り、屋根を踏んだ。 首裏で結っていた髪の毛が、ごっそり持って行かれた。 「いくらか相性が悪いか。いや、魔法の出し惜しみはよくないな。次から、出し惜しみせずにいくか」
2016-08-01 23:42:53「しかし、高いな。燕のようだ」 山名はくちなわを見上げる。 「あれが、風魔法。くちなわが最も得意な技か」 すっと目を細めた。そして、名残惜しそうにバイクへ振り向く。 「……どうやって乗るんだろうな」 再び山名は、小高い屋根や窪んだ壁を蹴って、追う。
2016-08-01 23:50:17ただ、大人しく追うだけではなかった。 「闇色の、矢……ッ!」 闇の魔力を加工せずに、矢として射る。魔力それ自体なので、抵抗(レジスト)は容易な部類だ。 山名の刀から、それは放たれた。黒い光は、くちなわの手首へと一直線だ。
2016-08-01 23:55:49「む」 弓無くして矢飛ぶとは面妖な。しかも速い。回避は間に合わず、剣の腹で受ける。 「ぬ!?」 闇色の矢は速いだけではなかった。強く、重い。構えた剣は弾かれた。バランスを崩したくちなわは落下。風を姿勢制御に総動員しても間に合わず、胴からの無様な着地となった。 「成程」 彼は強い。
2016-08-02 09:53:23しかし、これで十分離れたろう。加えて相手が久方振りの好敵手なれば。 片膝立ちとなったくちなわは、剣を己の眼前に突き立てる。刃に親指の腹を乗せ、刃を押した。皮は圧力によって破け、肉は裂け、道理として、血も出る。 彼女の本質は火だ。火、風を呼び、叢雲産む。叢雲水湧し、水、陸海分かつ。
2016-08-02 09:53:30その海より生物生ずるのなら、火こそ原初の徴なり。 炎熱の威たる彼女は血すら燃えるが道理。炎、剣を巻き、刃と化す。 「之成るは国母より出、国母を焼きし炎。その残滓也。努々覚悟せよ」 炎剣振るえば波となり、山名を襲う。その熱、万に達すなれば、路材も、建材も一切合切舐め溶かしていく。
2016-08-02 09:59:11山名は小さく笑んで、横向きに刀を構えた。 「この刀は、斬り殺した獣を記録していく。その魂の闇を、怨みを、痛みを」 ゆえに、と 「ゆえにこの刀を『呪怨』という」 刀を身に寄せて、魔力を溜める。
2016-08-02 10:55:05「稀代の火術師よ」 刀を解放した。 「この手で斬ったのは、まさしく龍 龍を水に宿すと、……驚くぜ」 龍形の水が、山名から放たれる。 一直線に、くちなわへ向かう。
2016-08-02 10:59:06「おまえの火はまさしく神のもの であれば、神獣でも不足かもしれぬが」 水龍が、火の波と激突する。 「お前は一点だけ、愚かよ 面は力が全体に分散するゆえ、こうして一点のみに力を絞れば。 神格が一つ劣ろうと、突破できるのだ」 龍の水面、火の揺らめきにも、山名の自信げな表情は映る
2016-08-02 11:06:47「神に獣も何も有ろうものか」 炎を切り裂いて水龍が来る。 「蛟を喰らうとは見事也…!」 炎波の引き戻しは間に合わず。ならば風で防壁を編むのみ。 「払うは成らず。なれど」 勢いを幾らか減じることは可能であろう。 そう思ったのが間違いであった。 風は、紙のように吹き刻まれた。
2016-08-02 13:52:21鉄砲水に噛みつかれたくちなわは100m道路を引きずり回された。裂傷多数、打撲傷多数、ライダースーツの裂損。散々だ。肋骨にも多分ヒビが入っている。 「気合い也」 笑う以外ない。痛みも傷も、熱を持つ。それは歓喜の灯だ。 己に届く刃の振るい手を、見つけたのだから。
2016-08-02 13:53:25「威に刃を。成程」 ゆっくりと起立。炎剣を右腰に構え、くちなわは山名に一礼をした。 「汝に感謝を。汝正に武の極。我もその階へ脚を掛けんと欲する者成らんや」 斬撃と共に再び炎を放った。今度は波ではなく、蛇。頭の数八つ。それぞれが頭、首、四肢、胴、刀を狙う。
2016-08-02 13:53:31大きく頷いて、目礼した。 「だが、おまえもまた、武の果てにおる」 迫り来る、八の蛇。 「『永年流転』。そして、『霧上斬』」 水柱が立つ。それも、三つ。
2016-08-02 15:55:13三つの水柱が、絡みあうように山名を包む。 「来るか、大蛇よ」 火勢止まることを知らず。水を食い破り、蒸気をあげて蛇は来る。 「『霧上斬』――!らぁああ――ッッ」 蒸気を日本刀の延長上に延ばし、刃渡りを拡張する。
2016-08-02 15:59:39その伸びた霧の刀身で、蛇を切り伏せる。 一つ、斬った。満足気な吐息。二つ、三つ。何かを悟ったように、眉根を寄せる。 四つ、五つ。火蛇を両断する。山名は吼えた。 「八つはつらいな。お嬢さん」 六つ。水柱が消滅し、蒸気をも大気に溶けてしまう。
2016-08-02 16:04:15七つ目。蛇の頭が、山名の左腕を奪い去る。じゅうじゅうと、切断面が音を発てた。 そして八つ目。刀に食らいつく火蛇。 「霧上斬――!」 それは、左腕が残した霧。赤き刀身が延びる。 そして、烈火を、赤き斬撃が切り裂いた。 「どうだね、見たか、この俺を。……決して負けぬ、強き武人をだ」
2016-08-02 16:14:35