【ヴァルプルギスの華燭】一日目昼――第三の間

昼フェイズ、戦闘
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くちなわ @cuchinawa

「ははは、あははははは!」 くちなわは遂に相好を崩した。腹を抱えて笑った。炎を、己を斬られた。一度ならず、二度までも、搦め手ではなく、真っ向からだ。 蛇目の女は子供のように、呵々と笑った。 「良い、良い、良いな、汝は、凄いなあ!」 ふぅ、と息を一つ吐いた。もう一度、深呼吸をした。

2016-08-02 22:39:45
くちなわ @cuchinawa

「汝、あるいは英雄より英雄やもしれぬ」 くちなわの笑みは、落ち着いたものへと変化した。 「かつて我の首を切り落とせし者もいたが、それは実を言えば酒を仕込まれての騙し討ちであったよ」 恨みはない。何をしようと勝ちは勝ち、負けは負けである。悪いのはむしろ酒に誘われたくちなわだ。

2016-08-02 22:39:51
くちなわ @cuchinawa

くちなわは大人しく微睡んだ。次に目を覚ました時、己と相対出来る者さえ居ればそれで満足であったのだ。 しかし、 「それから生き返って待てど暮らせど、我に適う者は現れんかったがな」 一吹きで有象無象を蹴散らす快感はあったが、くちなわが真に望んでいたものではない。

2016-08-02 22:39:58
くちなわ @cuchinawa

「山名能登路。負けずの武人よ。1000年、汝を待っていたのかもしれん」 くちなわは剣を納め、左足を引いて片膝を突いた。 「汝…卿、卿よ。我蛙也。我卿に大海を見ゆ。最早一度と言わず。我に力有る限り、卿に剣の術を請わんと欲す」 卿の返答や如何に?

2016-08-02 22:40:04
ヤマナ @akumayamana

左頬を引きつらせ、息をわずかに荒げる山名。しかし、その礼にはしっかりと頷いた。満足気である。 「君ほどの武人であれば、喜んでお受けいたす」 軽く、上半身を曲げて、礼をとる。

2016-08-03 08:39:31
ヤマナ @akumayamana

「だがまあ、酒はほどほどにな。呑んでも、呑まれるな……ということだ」 刀を突きの構えにとる。片腕がなく、少々バランスが悪い。 「いま最も思うことは  全能を振るう君を、初めて討ち倒した男になる栄誉が……目の前に転がっているということ――!」 力強く、礼服の男は、吼えた。

2016-08-03 08:55:18
くちなわ @cuchinawa

破顔一笑。それが合図だった。 左膝を地に着けた状態から両手を、立てた右足の横へ突き、左膝を地から浮かせればクラウチングスタート。放たれた矢のように、くちなわは疾走する。 「お頼み申す―――――――」 後を追い来た鋼剣をひっ掴み、力任せに切り掛かった。縦一文字。

2016-08-03 09:20:32
ヤマナ @akumayamana

山名は突きをもって、縦斬りをいなす。だが、勢いを殺しきれずに、太腿が裂かれる。不敵な笑みで、切っ先を翻す。 「光栄だ」 翻した切っ先はそのまま、縦一文字を描く。 「君の綺麗な剣筋には見劣りするが……!」

2016-08-03 10:30:51
くちなわ @cuchinawa

「片腕で之とは…!」 鋭い。剃刀のような一撃が、くちなわの左肩口に潜り込んだ。腕が、飛ぶ。 「はははは、まだまだ!」 熱の血飛沫を散らしながら、吼えた。 剣の返礼は剣だ。下から伸び上がるような打突を放つ。 「卿、之はどう防ぐ!?」

2016-08-03 11:09:29
ヤマナ @akumayamana

手首を反らせた男は、自らの首元に刀身を掛ける。そして、上体をあえてくちなわの剣に寄せる。 剣を受けた刀身は、レールのように剣を滑らせる。 だが、打突は深い。力を反らせてもなお、肋を三本切り裂く。

2016-08-03 11:28:19
ヤマナ @akumayamana

重量を受けた左首元から、血が噴き出す。ここは、先ほど火蛇が食らった場所でもあるのだ。 「面白いぞ、君――!」 そのままくちなわの腹の辺りまで屈み込みながら、打突を頭上へと逸しきる。

2016-08-03 11:32:24
ヤマナ @akumayamana

「こんな楽しい闘いがあろうか!」 屈んだ体を起こしながら、下方からの斜め斬り上げを放つ。 「君の打突も見事。だがこれは防げるか!?」 黒い日本刀は、少なくない両者の血を吸って、日光に燦めく。

2016-08-03 11:39:08
くちなわ @cuchinawa

「成程、滑車か!」 快哉を上げた。この武人からは、まだまだ学べる事が多くある。 左方より弧月の斬撃。 打ち上がった己の剣を力強くで引き戻す。当てるなら、剣の腹だ。 「こうか!」 教練の成果を見せるように、手首を返し、刃に沿って。 ――僅かに浅い。 弾かれた。

2016-08-03 13:16:21
くちなわ @cuchinawa

左肋骨を断ち割られ、左目すら持って行かれた。 「我の未熟さを痛感する!」 しかし、尚もくちなわは口を弓にした。 当然だ。まだまだ、道があったのだ。己はもっと強くなれるのだ。 「卿!もっと、もっとだ!」 二合、三合、斬り合わせ、その度に炎が舞う。 「もっとくれ!」 袈裟懸けに二閃。

2016-08-03 13:16:25
ヤマナ @akumayamana

袈裟懸けの剣に、突きを打つ山名。 それだけで、一撃目を防ぐ。 だが、二撃目。突きは間に合わず、左肩から鎖骨の下までを断たれた。 そこで、武人は一歩引いた。 「君の剣は、思う以上に、重い……  まだだ……ッ!まだまだ、まだ――!」

2016-08-03 13:59:27
ヤマナ @akumayamana

喧嘩剣術の一種だ。くちなわの剣に対して、外へ飛ぶように蹴りを持ち上げる。 同時に、突きを三連放つ。 「まだだッ――!  君をここで倒す!全力の、君を!」

2016-08-03 14:08:18
くちなわ @cuchinawa

「そんなものもあるのかーー!」 剣を跳ねられた。無防備な身体に光速の三段突が迫る。 敢えて、一撃目を正面から受けた。鋼が肉を貫き、胃を破り、そこで止める。一撃のみに留める。 「吁!」 踏み出す。簡単には抜けぬように、 「我の五体を千散に裂いてみよ!」 剣が戻ってくる。

2016-08-03 21:31:10
くちなわ @cuchinawa

「我も…卿の首を望む!」 それを、口で捕まえた。 首の筋肉を酷使、左から右へ振る。 鋼の牙は、山名の首へ。

2016-08-03 21:31:55
ヤマナ @akumayamana

山名は大きく破顔した。くたびれた顔は、子供に戻ったように。 「こんな良い日はない  本当に」 柄から手を離して、右手でくちなわの顎を掴む。 「ふぬぬ……」 握力と、首の筋肉は、釣り合う。

2016-08-03 22:43:50
ヤマナ @akumayamana

止めた。止めたのだ。 「俺の勝ちだ、くちなわ……!  君の刃は届かなかった。このまま蹴りを心の臓に向かって、刀に掛ければ――!」 ぽたり。

2016-08-03 22:45:54
ヤマナ @akumayamana

柄が、血と体液に濡れる。 愛刀『呪怨』の柄は、誰にも汚させてこなかった聖域だ。 ぽたり。 それは、あくまでどちらの血だったか分からない。ただ、山名は手を離してしまった。顎から手を、離したのだ。

2016-08-03 22:49:44
ヤマナ @akumayamana

一閃。 鋼は、男を裂いた。 男は、喉を押さえる。右手で、押さえた。 「待てやおい、離れるには惜しすぎるだろうがッ!!!」

2016-08-03 22:51:25
ヤマナ @akumayamana

くちなわから、今までにない、人や悪魔の渾身というべき力で、日本刀を引き抜く。 声にならない雄叫び。 日本刀はしたたかに振り下ろされた。

2016-08-03 22:52:44
ヤマナ @akumayamana

振り下ろすさなか、頭は離れて転がった。日本刀は、くちなわの額で止まる。 この一瞬に全てを投げ打って、その闘いを愉しむ男は、 「惜しいって言ってんだよッ」 という言葉を逸して、転がった。

2016-08-03 22:58:56
くちなわ @cuchinawa

「卿よ」 転がった首を見た。 「惜しいと言うたな」 血が、炎が身から零れ続ける。 「我も惜しいと、思うたよ」 勝手な奴よな。 「いかほど微睡めば、卿とまた死合えるのだろうか」

2016-08-03 23:58:29