ストレイトロード:ルート140(21周目)
- Rista_Bakeya
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カーラジオが誰かの声を拾った。広大な平原のハイウェイを走る今は雑音がひどく、情報を拾えない。「どこの電波?まだ街まで距離あるはずなのに」気象条件次第では想定より遠くまで届くこともある。私が説明を考える間に、藍は周波数を変えて耳に痛くない雑音を探した。やがて耳慣れない言語が現れた。
2016-06-27 19:26:02藍は市場で買い込んだ食材を宿に運び、すぐにその一部をキッチンへ持ち出した。ある食堂で先日教わった料理を試作したいようだ。妙に張り切っている彼女を手助けせず様子を見ていると、下拵えに随分時間がかかっていた。慣れない切り方や味付けだけでなく、大皿で振る舞う分量までも真似ていたらしい。
2016-06-28 18:57:00祭の後の混雑に揉まれながら車へ戻る途中、私達とすれ違った男が、明らかに敵意のある目で藍を見下ろしていた。身長差の為に彼女は気づかなかったのだろう。後で私から報告した時には軽く受け流されたが、落書きまみれの車を見た藍はすぐに顔色を変えた。「さっき言ってた敵の特徴。もう一回言って?」
2016-06-29 20:10:00売り物の壺を不注意で割った藍に、店主は無言で接着剤を渡した。一度失った物を蘇らせる困難さを教えたかったのか。苦闘の末、藍は壺をほぼ元通りに組み立てた。「出来た!」藍は自信作を見せつける顔で私を見上げたが、修理品を持った途端に笑顔が凍った。溢れた接着剤が壺をテーブルに固定していた。
2016-06-30 19:05:42「警察から連絡が来た」藍の父親から電話があった。夜の繁華街を出歩く娘を善良な市民が心配して通報したらしい。「まさか君が何か教えたのか」「私は何も。本人は目当ての店が見つかるまで帰らないと言っています」絶句する父親の恐らく隣で、不安を掻き立てる物音が聞こえた。母親が卒倒したらしい。
2016-07-01 19:47:45怪物の一撃で倒壊した建物から、藍が何かの卵を発見した。それも自ら瓦礫の下に入ることなく見通してみせたもので、実際に発掘した調査関係者は風の魔女の実力に驚嘆した。「これ作り物ね」「住人は誰も心当たりないそうだ」人々の頭上を影が横切った。この後私達は卵を手放すまで怪物に追い回された。
2016-07-02 21:50:26「良くも悪くもお前は目立つ」真紅の女が血眼になって追う対象は風の魔女だけではない、と情報屋は言う。「探す手間が省ける分、大胆な行動が取れない」「そうじゃなかったら?」藍の問いに答えはなかった。悪い仮定が幾つも浮かぶ私と対照的に、藍は楽しい遊びを考えついた顔で携帯端末を取り出した。
2016-07-03 21:18:07車に積んだ冷蔵庫の隅に買った覚えのない蓋付きの器を見つけた。中には野菜を切って焼いたとおぼしき物体が入っていた。「この前あなたがやった方法を参考にしてみたの」藍が平然と生成を認めた。多くの焦げ目が火加減の失敗を証言している。「強火で加熱を?」「生だと日保ちしないって言われたから」
2016-07-04 19:24:08広げた翼を振り回し暴れる怪物を街から引き離す為、私達は住民に協力した。藍が追い風で背中を押す作戦がうまくいき、ようやく川岸まで追い込んだ。すると怪物は堤防を滑走路代わりにして空へ帰っていった。建物を壊した後も同じ地区を何往復もしていた理由が解った。「風に乗れる場所を探してたのね」
2016-07-05 18:56:00滞在中の町で住民投票の立会人を頼まれた。町の将来を決める一大事に何故部外者を呼ぶのか。聞けば前回は投票を仕切る側に不正があったらしい。「私の施策は役所の人間には受けなくて」嘆く町長に藍が尋ねた。「不正って例えば?」「開票後に用紙を差し替えたとか」何がそこまでさせたか想像できない。
2016-07-06 19:44:49常に自分の目的を優先して先を目指す藍が、今日に限って大人しい。可愛らしい飾りを満載した服装で祭りの会場を歩き、今は棒つき飴を舐めている。「今日は何をお探しですか」「別に」藍の返事は素っ気なかった。舐めるような視線に落ち着きを削がれる。「わたしが普通にお祭りを楽しんじゃいけない?」
2016-07-07 19:29:16藍の力を金儲けに利用しようと企んだ人々がいた。彼らは当然魔女の機嫌を損ね、今は自分達が棄てたゴミに埋もれている。「あれで足が止まるなら二流だから放っておきましょ」悲惨な罠を仕掛けた張本人は無邪気な笑顔で車に乗り込んだ。「まだ脱出しないでわめいてる。二流かどうかも怪しいところね!」
2016-07-08 19:27:48晴れた空を飛び去る大きな影を見送ると、街の人々は手を取り合った。そのまま祝賀会でも始まりそうな熱気の中、藍は一人、怪物から取り返した塔の階段を駆け上がった。ふらつく足で最上層まで辿り着いた私に、藍はうずくまる怪物の幼体を示した。「お迎え、来ると思う?」「ぬか喜びになりそうですね」
2016-07-09 21:19:58