- shitaratsukushi
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@ts_p冷房を強めにする。葉子が寒がりで今まで冷房を強くするのを我慢していたのだ。首筋が汗でべたつく。 徐々に部屋が涼んできて、肌のべたつきもなくなる。うとうとと心地いい眠気に体をゆだねた。 (改行3)
2011-03-01 03:04:55@ts_p葉子は掃除機を取り出した。 掃除と洗濯をしていると、あっという間に時間が過ぎた。小西は早く戻ってきてほしいといっていた。もう大丈夫なのにと葉子は笑ったが、告白した余韻を楽しみたいのだろう。小西は堂々と気遣わずにいちゃつきたいようだった。
2011-03-01 03:06:01@ts_pなんだかその様子がくすぐったく感じられる。思い出すたびにくすくすと笑いが漏れた。 携帯電話を半日ぶりに確認すると、実家の母からの電話で埋め尽くされていた。母親に電話をしてやらねばならないだろう。 葉子は時計を見た。もう午後の一時を過ぎている。
2011-03-01 03:06:21@ts_p 葉子がマンションに戻ると、郵便がポストに入っていた。差出人は神山敦子だった。 例のオカルト雑誌を送ってくれたのだと分かり、葉子は気楽な気分で雑誌を手に部屋に入った。 まずは部屋をきれいにしてから落ち着いて雑誌を見ようと思い、封筒をベッドの上に置くと、
2011-03-01 03:05:48@ts_p「先輩、待ってるかな……」 つぶやいてみて、胸がきゅんとときめく。先輩って呼ぶよりももっとふさわしい呼び方を考えなければ……と、葉子はうきうきとした心持ちで考えた。 葉子は最後に風呂に入って、ようやくベッドに腰掛けると、敦子からの郵便物を手に取った。
2011-03-01 03:06:31@ts_p 封筒の口をびりびりと手で破っていく。 中からA四判の一センチほどの厚さの雑誌と手紙が出てきた。 葉子は敦子の二つ折りの手紙を開いて読んだ。 『葉子さんへ 取り急ぎ雑誌を送ります。 お兄さんに確認したところ、お父さんの清水さんの持ちものではないとのことでした。
2011-03-01 03:06:43@ts_p オカルトが嫌いな父親の本棚にこの雑誌がある事自体不思議だそうです。お父さんには覚えがないとのことでした。 気味が悪いから返さなくていいということなので、無期限でお貸しいたします。 それでは失礼いたします。 神山敦子』
2011-03-01 03:06:58@ts_p 丁寧な教師らしい字で便せんにはそう書かれていた。 葉子は手紙を脇に置くと今度は雑誌を手に取った。 表紙にはオカルト雑誌らしくピラミッドやUFOのイラストが描かれている。敦子も雑誌に目を通したらしく、清水弥生が読んだと思われる都市伝説特集に付箋が挟まれていた。
2011-03-01 03:07:11@ts_p 雑誌は古いものだった。発行年月日は一九九X年九月。清水が遠山宏典を迎えに行った年と同じだった。 付箋のページをめくると大きな見出しが付いており、あなたの街の都市伝説と銘打ってあった。 葉子は興味深く記事に目を通した。どうやら読者から記事を募ったらしく、
2011-03-01 03:07:21@ts_p都道府県別に都市伝説の記事が紹介されており、記事を書いた投稿者の所在地と名前も記載されてあった。 葉子は一通り丁寧に読み進めていった。聞いたことのあるものや全く耳新しいものもあった。 そして、福岡県の記事を見つけ内容に目を通した。まさに、
2011-03-01 03:07:38@ts_p敦子から聞いた通りの都市伝説が書かれてあった。 ここが始まりだったのだ。 しかし、記事を書いた投稿者の名前を目にしたとたん、葉子の体から一気に血の気が引いていった。 『福岡県M市I村 遠山静子』 どういうこと……? 葉子はつぶやいた。
2011-03-01 03:07:55@ts_p もう一度雑誌の発行年月日を確かめる。十四年前に間違いはない。 なぜ静子がこの記事を書いたのか。しかも蓉子が殺される一年も前にだ。この話を考えたのは宏典だと勝手に思い込んでいた。 「まさか……」 まさか、呪いは解けていない? 葉子は頭を振った。
2011-03-01 03:08:19@ts_pなにか、重要なことを忘れていないだろうか。 葉子はもう一度記事に目を通した。 脳裏に二本の柱がよみがえる。黒い柱のシルエットに二つの人の影がぶら下がり、揺れている。 塚で首をくくって死んだ。 祟り。 塚の供養。 遠山家は祟られている。
2011-03-01 03:08:37@ts_p 走馬灯のようにそんな言葉が葉子の脳裏をぐるぐると廻る。 「まさか……」 小西と葉子は勘違いをしていた。塚のことを全く考えていなかった。いや、考えないようにしていた。 なぜ、あの時塚の場所に行こうとも思わなかったのだろうか。
2011-03-01 03:08:55@ts_pなぜあの小西が塚のことを一つも気にしなかったのだろうか。そもそも小西に塚のことを話しただろうか。 今更になって葉子は唖然とした。 塚のことだけ、小西に話すことを忘れていた。そんなことがあり得るだろうか。 なにも終わっていない……
2011-03-01 03:09:07@ts_p その恐ろしい考えに葉子は寒気を感じた。 行かなければ……葉子は立ち上がった。塚に行って、呪いを解かなければ。 葉子は急いで服を着ると、携帯電話を持ってマンションを出た。 (改行3) 小西が夢うつつの中で布団の柔らかさと葉子の肌の滑らかさを反芻していると、
2011-03-01 03:09:32@ts_p玄関のチャイムが鳴ったような気がした。 夢から覚めるのを懸命に拒否したが、連打されるチャイムにとうとううっすらとまぶたを開いた。 ぼんやりとした頭で葉子だろうかと考える。しかし、葉子には鍵を持たせている。 その間もチャイムは鳴り続けている。しつこいなと、
2011-03-01 03:10:01@ts_p小西はつぶやいた。 大げさに声を出しながら上体を起こし、頭をかく。のろのろと玄関に立ち、一応誰何した。 「だれ?」 間をおいて男の声が答えた。 「宅配便です」 宅配かと、小西は玄関の鍵を開けた。 目前に犬の顔があった。犬はがばっと大きく顎を開いた。
2011-03-01 03:10:15@ts_pその喉の奥に人間の顔がうずもれていた。 よぅ……こ…… 顔はつぶやいた。 小西は逃げようと後ろを向いた。が、首を勢いよくねじられ、ひっくり返る。小西の首はあらぬ方向を向いていた。 (改行3) 葉子はI口バス停でタクシーから降り、I村へ急いだ。
2011-03-01 03:10:40@ts_pゆるやかな坂道をパンプスで駆け上がっていく。 頭の中は急がなければという思いでいっぱいだった。 山道は昨夜までの雨でぬかるんでいる。パンプスや足に泥が跳ねかえった。 I村の最初のY字路にさしかかった。あの時と同じように小売りの店が開いていて、
2011-03-01 03:10:52@ts_p店の前の長いすには老婆が座っていた。 「こんにちは」 葉子は林業の会社の倉庫の場所を尋ねるために老婆に声をかけた。 老婆は胡乱(うろん)な目つきで葉子を見つめ返した。あれからまだ何日もたっていないはずだが、老婆は葉子のことを忘れてしまったのだろうか。
2011-03-01 03:11:07@ts_p「あの……遠山さんが祀っていた塚のある場所を教えてくれませんか」 「あんた、警察ンひとね」 「そうじゃないですけど……」 数日前は愛想よく遠山家の話をしてくれた老婆が、掌を返したように冷たい視線を葉子に向けた。 「しらん、しらん。帰れ」
2011-03-01 03:11:27@ts_p 老婆はそう言って細い手を激しく振った。 葉子は戸惑ったが帰るわけにはいかない。老婆を無視して遠山の家に向かった。 村の雰囲気も何やら変わってしまったように感じた。 道のわきに立札があり、真っ赤なペンキで「村ト関係ナイ者ノ立チ入リヲ禁ズ」と書かれている。
2011-03-01 03:11:51@ts_pそれがしつこいほど行く先々に立てられていた。 こんなもの、初めて見た……葉子は驚きを隠せずつぶやいた。 小西と訪れた時もこれほど排他的な雰囲気はなかった気がする。 葉子の記憶にあるI村が歪な変貌を遂げている。いや、もともとこういう村だったのに、
2011-03-01 03:12:04@ts_p葉子が気づかなかったのか。 不気味な遠山家の廃墟を通り過ぎ、道が林道に入るとすぐに、「○○林業株式会社」と書かれた立て看板が目に入った。その看板は錆びが浮き、ところどころへこんでかなりの年月を感じさせた。立て看板の奥には門があったが、その門もかなり錆びている。
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