【彼が恐れるモノ】

解・この話は事実をもとに構成しています
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

【注意事項】 ・二次創作です ・独自の解釈がありんす ・下書きなしのためいつも以上に拙い ・導入部のみ、続きはあとで ・#創作勢百物語 企画 ・言うてあまり怖くはない ・ミュートは推奨しておきます ・いじょうです

2016-08-15 19:30:49
葛葵中将 @katsuragi_rivea

鹿屋基地庁舎。その中に自習室と呼ばれる艦娘達が雑務、主に書類関連や座学を自主的にこなすための部屋が存在する。 時刻は夜も更ける深夜帯であったがその一室に僅かばかりの明かりが灯る。 中央のデスクに立てられた蝋燭の火が壁に三つ、影の輪郭を作り出し異様な雰囲気を醸し出していた 1

2016-08-15 19:34:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「これは…知り合いの知り合い、その友人のお母さんのいとこ、その息子さんから聞いた話です…」 「…ストップ。絶対その話は面白くないってあたいでもわかるぜ。なぁ?磯風」 「うむ。こういう始まり方をする話はたいていつまらないからな。睦月、少しは学んだらどうだ?」 2

2016-08-15 19:36:43
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「冒頭から止めるなんてあんまりです!そして磯風!貴方に言われたくない!」 三人は葛葵艦隊麾下の駆逐艦。それぞれ睦月、磯風、そして朝霜。 何故彼女らがこのようなことをしているのか。事の発端は…同艦隊、時津風の一言から始まった。 「夏なんだし?怪談話でもしよぉ〜?ねぇ〜」 3

2016-08-15 19:41:27
葛葵中将 @katsuragi_rivea

初めは「何をいきなり…馬鹿馬鹿しい」などと蔑んだ目を向ける一同であったのだが、時津風は鶴の一声を発した。 「え?もしかして…怖いの?駆逐艦魂が泣くよ〜?ダサいな、うん。ダサい」 この挑発に乗らぬとなれば誇り高き駆逐艦の名折れ。 すぐさま全員が名乗りを上げたという 4

2016-08-15 19:44:58
葛葵中将 @katsuragi_rivea

だが実際、蓋を開けてみれば言い出しっぺであった時津風は既に布団で夢の中。 天津風は直属の嚮導である神通に連れられて夜間哨戒へと駆り出された。 仕方なく集まったメンバーがこの三人だった 「やっぱりつまんないな」 「そうですね」 三者はため息とともに肩を落とした。 5

2016-08-15 19:47:37
葛葵中将 @katsuragi_rivea

自習室の存在する庁舎東棟には「幽霊が出る」などと噂があり、 雰囲気を重んじると同時に運良く幽霊が見られれば儲けもの。 駆逐艦界隈で英雄扱いを受けるだろうと意気込んだものだったが… 磯風がその件に関してネタバラしをしたことによりモチベーションを一気に削がれた。 6

2016-08-15 19:51:55
葛葵中将 @katsuragi_rivea

…なんでも"あの男"が同東棟に存在する貯蔵庫からギンバイを成功させやすくするため、人避けのために流したデマだとか ため息がさらに増える結果にしかならず、仕方なく始めた怪談だったが… どうも全員揃って語り部には向いていないらしい。 どれもこれも満足いく結果は得られなかった 7

2016-08-15 19:54:22
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「じゃぁ、猥談でも始めるか?」 「却下だ。そのような下賤な話はいらん」 もはや元の予定などどうでもよくなっていた一同は蝋燭の火が作り出す雰囲気とはミスマッチな笑い声をあげた。 「あはは…二人とも真面目に…」 その時である。睦月はあることに気づき、自身の言葉を切り上げた。8

2016-08-15 19:59:12
葛葵中将 @katsuragi_rivea

睦月の耳は、廊下側から物音を捉えた。 「二人とも静かに!…誰かきたみたい」 「夜間の見回りかねぇ?だとしたらマズいな。磯風、蝋燭を消せ」 その音に朝霜と磯風の両名も気づく。その聞き慣れた音は何者かが廊下のタイルを革靴で闊歩する音。 即座に火を消すと三人は息を潜めた。 9

2016-08-15 20:00:57
葛葵中将 @katsuragi_rivea

足音の主は迷わず睦月達が隠れていた自習室の前で立ち止まると…木戸を数回叩いた。 一同は一瞬、心臓が跳ね上がる思いをしたがそれは杞憂に終わる結果となった 「おーい?隠れんでもいいよ〜」 その男の声は実に聞き慣れた彼女らの司令官の声であった。 「提督!?なんでここが…」 10

2016-08-15 20:04:01
葛葵中将 @katsuragi_rivea

戸を開けるとそこには懐中電灯とビニール袋を片手に佇むいつもの無精髭の男の姿があった。 「や。暇だからさ…おじさんも混ぜておくれ?」 許可を得る前に彼はズカズカと自習室に入り込んで地べたに腰を下ろすと、屈託の無い笑みを浮かべてみせた。 「仕事はどうしたんですか?」 11

2016-08-15 20:06:02
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「終わったよ」 この男は見かけによらず執務などのデスクワークに長けていて、 「事務能力に関しては鹿屋内に匹敵する者無し」などと称されている。 そのせいで被害を被るのは秘書艦、睦月なのだが… 大規模作戦を間近に控え、累積された書類はいつもの倍以上にまで膨れ上がっていた。12

2016-08-15 20:08:30
葛葵中将 @katsuragi_rivea

一日では到底終わるまい、そう想定していたものだったが…この点に関しては脱帽せざるを得ないと睦月は思う。 そんな彼女に一瞥もせず、彼はビニール袋から差し入れを各々に手渡していた。 「何だよ司令、どうやって嗅ぎ付けたんだよ?」 「それは秘密。ご都合主義ってやつだ」13

2016-08-15 20:12:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

訝しむ三人のことなど気にも留めず、彼は懐からマッチを取り出し、先ほど磯風が消した蝋燭に再び火を灯し、口を開いた 「…こういった話をするのは得意では無いから大目に見て欲しい」 彼は一言告げると軍帽を深く被り直す。ツバの影が鼻頭にかかり、鈍い光を宿す目が怪しく正面を向いた。14

2016-08-15 20:17:14
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「予め言っておこう。俺が今からする話はあまり怖くは無い、幽霊とか妖怪とかそういう類の話でもない」

2016-08-15 20:18:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

まずは…そうだな。みんなは一番強い奴は誰。っていう質問に答えられるかな? 朝霜は?睦月はどう? なかなか難しいものだと思う。多くはそうすぐには出てこないからね。 俺は…即答出来るよ。 答えは、この世に存在しない。だからね あ。ふざけてはいないよ。文字通りだからさ 16

2016-08-15 21:06:32
葛葵中将 @katsuragi_rivea

どのように肉体を鍛えていようとも、どのような武器を持ち、どのように強くあろうとも"ソイツ"には敵わない。 自身の中で唯一、と言っていいほどに強い人間だからね。 矛盾が発生しているようだが間違ってはいない、出来れば最後まで聞いておくれ。たいした話じゃない。 17

2016-08-15 21:10:08
葛葵中将 @katsuragi_rivea

もう既に20年以上経っている話だ。 まず、うちの家系っていうのは地域でも"御三家"なんて呼ばれるほど大きな家柄だ。 その地域で大きな家、といえばまずうちの屋号が挙がるくらいには有名だ。 祖父はその家長で組合長として働くなどしていたよ。 18

2016-08-15 21:14:12
葛葵中将 @katsuragi_rivea

厳しくも真面目な人なんだけど酒乱でね、酒を呑んでは暴れてるような人だった。 そんな人も孫にはとことん甘いもので、可愛がってもらったよ。 祖父は出かけるとなれば孫を連れて歩いて近所の人達に自慢していた。 そんな祖父が大好きで大好きで仕方なかったよ。 19

2016-08-15 21:17:49
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そんな彼が亡くなったのは小学二年生になったばかりの…春だったな。 御三家の家長が亡くなったとなればそれは一大事。 地域からほとんどの人、親戚、馴染みのある人、とにかく人が集まった。 その歳になれば人が死ぬということはどういうことか、は理解していたさ。 20

2016-08-15 21:21:24
葛葵中将 @katsuragi_rivea

悲しみに暮れて声をあげ泣きじゃくる孫。まぁ、情けない話だが…すごく泣き虫な奴だからね。 もう会うことが出来ない。一緒に出かけることが出来ない。遊ぶことも出来ない。 ひたすら嘆くことしか出来なかった。 "ソイツ"はその様子を遠目にじっと見ていたんだ。 21

2016-08-15 21:24:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

業を煮やしたんだろうねぇ…すっごく怒っているように見えたかな。 少し離れた位置、玄関先から泣き虫を睨んで… 「◯◯◯」 たったの一言。名前を呼ぶ。たったその一言だけを発したんだ。 それがさ"泣く子も黙る"ってこういうこと言うのかなっていう話でさ…すごく恐かったんだよ 22

2016-08-15 21:29:40