【ベリー・ベリー・レッド・バッド・ガイ】

もし。無理矢理セーラー服を着せられ、それ以外の衣服を着ることができなくなったら。
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不幸鳥 @hukurou_nayuta

さあYTBT(与太話タイムだ)

2016-08-13 22:09:47
不幸鳥 @hukurou_nayuta

雑踏。人並みの中を、苺色のセーラー服を着た影が現れ、消える。また、現れる。そして、細い路地へと消えていった。ナムサン…!そちらは治安が悪いことで有名な通りである!誰が通っても危険だが、セーラー服の若き女性が入っていったとあらば……! #HkruNj

2016-08-13 22:11:03
不幸鳥 @hukurou_nayuta

壁にもたれ掛かっていたアウトロー風の男たちはそれを見逃さない。その女を品定めするように眺める。短いスカート、ニーハイソックス、いい脚。そのバストは平坦であった。顔は…白い安物の仮面をつけているため、よく見えない。「ここに立ち入るってことはわかってンだよなァ」 #HkruNj

2016-08-13 22:15:07
不幸鳥 @hukurou_nayuta

男たちはその女の肩に手を回す。彼女は不快そうに舌打ちし「お前らこそわかってンのかァ?」…ダミ声で言った。男たちは慌てて手を引っ込めた。「なんだこいつ!」「男じゃねえか!」「変態だ!」彼らは蜘蛛の子を散らすように去った。彼は一人、顔をしかめ肩の埃を払う真似をした。 #HkruNj

2016-08-13 22:18:18
不幸鳥 @hukurou_nayuta

苺色の、襟とスカートが揺れる。彼は息を深く吸い、叫んだ。「ウルセェーッ!誰が変態だ、お前たちも変態にしてやろうかッ!!」彼の名はアンウィリングセーラー。不幸にもニンジャとなり、セーラー装束の呪いに縛られてしまった三十路手前男性だ。 #HkruNj

2016-08-13 22:22:09
不幸鳥 @hukurou_nayuta

【ベリー・ベリー・レッド・バッド・ガイ】

2016-08-13 22:24:44
不幸鳥 @hukurou_nayuta

事故に遭い、死にゆくだけだった。そうなるべきだった。助手席に乗っていた、妻となるはずだった女性は死んだ。彼は、自分もそうなるのだと悟り、怖れ…望んだ。ただ赤い視界には赤い恋人と赤いサイレンが見えた。こんなはずではなかった。幾度となく通ってきた道だ。そこで事故など。 #HkruNj

2016-08-13 22:27:16
不幸鳥 @hukurou_nayuta

事故?まさしく事故。次の日の新聞にも、そう書いてあった。大きな事故だったらしく、テレビでも少し取り上げられた。なぜそんなことを知っているか。俺は生き残ってしまった。…否、蘇ってしまった。彼女は戻らなかった。赤いままの彼女を、赤い俺は見ていた。セーラー服を着て。 #HkruNj

2016-08-13 22:30:06
不幸鳥 @hukurou_nayuta

何故だ。それがわからない。どうしてセーラー服だ。ふざけているのか、俺はふざけていない。全身が痛い。身体から流れる血は、セーラーの赤い色に紛れてわからなくなった。頭がおかしくなりそうだ。その時、おかしくなりそうな頭に声が響いた。(ドーモ…聞こえているか、ドーモ…) #HkruNj

2016-08-13 22:33:07
不幸鳥 @hukurou_nayuta

聞こえないフリをした。そんなものが聞こえてたまるものか。(…私の名は……いいや、大した存在ではない故……忘れろ)忘れる、忘れたいので語りかけるのをやめろ。などと願えど、尊大な声は鳴り止むことはない。(いいかね…貴様は今から私だ。喜べ、貴様はここで死ぬことはない) #HkruNj

2016-08-13 22:36:04
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「なんだって」思わず声が漏れた。(ウム、ウム…嬉しかろうな、貴様とてこの様なところで野垂れ死ぬのは嫌だろうしな)違う、何故だ。俺は死なないのか。死ぬことができないのか。(では生きよ。生きてみろ。今の貴様なら何でも出来ようさ)朗々と声は響く。それは舟歌の如く。 #HkruNj

2016-08-13 22:39:13
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「い、嫌だ、なんでだよ」(何を嫌がることがあろうか)「恋人は死んだ!」(貴様は生きておる)「テメェのせいだろ!」(否定はせんよ)「どうしてセーラー服なんだよ!」(気に入ったか?)埒が開かなかった。とにかくこれ以上、独り言の多いセーラー服の変態になるのは嫌だった。 #HkruNj

2016-08-13 22:42:09
不幸鳥 @hukurou_nayuta

ここを去らねば。去ってどうする。俺は死に損ないだ。変態になって生き返って…何をすればいい。だが、ここで立ち尽くしているわけにもいかない。ふと足元を見た。白いものが目に映った。踏み潰されヒビの入った、安物の仮面だった。誰かがコスプレイ後、捨てたのだろう。 #HkruNj

2016-08-13 22:45:20
不幸鳥 @hukurou_nayuta

何を思ったか彼はそれを拾い上げ、顔に装着した。メンポめいて。(フゥーム…成程な、ニンジャであればメンポが要ろうなァ)関係がない。ただ、素顔でこの様を晒しているのが嫌だったのだ。更に変態じみたかもしれないがこれ以上はどうにもならない。「…イヤーッ!」 #HkruNj

2016-08-13 22:49:06
不幸鳥 @hukurou_nayuta

彼は初めてカラテシャウトを叫び、回転ジャンプでその場を去った。苺色セーラーのニンジャ、アンウィリングセーラーの誕生だった。誠に不本意で、実に理不尽な…何てことのないとある夜の出来事であった。 #HkruNj

2016-08-13 22:55:02
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イィィヤァアーッ!」「グワーッ!」アンウィリングセーラーは殴る、蹴る!カラテだ!敵のニンジャは追い詰められていた。…変態。彼にそう言ったのが運の尽きだった。「ま、マッタ」「安心しな、すぐにゃあ殺さん…イヤーッ!」「アイエエエ!?」 #HkruNj

2016-08-13 23:01:59
不幸鳥 @hukurou_nayuta

アンウィリングセーラーは、そのニンジャの装束を引き裂いた!ナムサン…一体どういうつもりか!そして、彼はそのニンジャに女性もののセーラー服を着せ始めたのだ!「アイエエエ!ヤメロー!何の真似だ!?」「変態、そう言ったよな。だからお前も同じ有り様になってもらう」狂気! #HkruNj

2016-08-13 23:04:34
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「き、着せたところで俺を殺せば爆発四散でチャラだぞ」「させるかよ。お前は適当に衰弱死させて、その辺に捨て置く…」彼の目が残酷に光った。なんたる執念か。これも、彼に憑依した奇妙なニンジャソウルがそうさせるのであろうか。「こんな、ことを…それだけで…」ニンジャは呟く。 #HkruNj

2016-08-13 23:08:04
不幸鳥 @hukurou_nayuta

アンウィリングセーラーは、腕組みをし、悔しげに唇を噛むそのニンジャを見下ろした。「納得いかないか。だろうな。それでいいんだよ」彼はしゃがみ、男の首に手を掛けた。「ア…バッ……」「こういうことはそう珍しいことじゃあないんだよ、ワカル?」手に力を加える。加える。 #HkruNj

2016-08-13 23:11:11
不幸鳥 @hukurou_nayuta

「アー、わからなくてもいい」更に力を込める。敵はもはや抵抗できない。「俺だってな、納得も理解も……未だ出来ちゃいないから」ニンジャは、がくりと崩れ落ちた。死んだのだ。「いいんだ。どいつもこいつも…俺もお前も、そのまま…わからぬまま野垂れ死ぬ」 #HkruNj

2016-08-13 23:15:24
不幸鳥 @hukurou_nayuta

赤いスカートを揺らし、セーラー死体を抱え歩くアンウィリングセーラーは、それを路地裏に捨てた。その様を見つめ、溜め息をついた。哀れだと思った。虚しいと思った。お前も変態になってしまったなと心の内で語り掛けた。やがて、彼は再び歩を進め、つかつかと歩いて何処かに消えた。 #HkruNj

2016-08-13 23:19:03
不幸鳥 @hukurou_nayuta

どうか、注意されたい。命が惜しいのならば。命を終えるその時、奇妙で虚しい終わりを迎えたくないのなら。彼の前で決して変態と口にしてはならない。セーラー服とバカにしてはならない。ただその在り方を、そういうものと捉えればいい。黙って、哀れめばよい。外面でなく、その心を。 #HkruNj

2016-08-13 23:23:11