Side Story2 「捨てられた人形」 パート2

脳内妄想艦これSS...の企画モノ (しかしこのパートに艦これ要素は一切無いという)
0
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ Side Story2「捨てられた人形」パート2 __

2016-08-21 19:00:42
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-1「モル」と名付けられたその少女は、両親の愛を一身に受けて幸せに育った。 着るものに困る事もなく、 食べ物に困る事もなく、 住んでいる場所はとても綺麗な場所でふかふかのベッドがあった。 彼女はいつも満たされていた。

2016-08-21 19:02:00
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-2 いつも好きな時に寝て、好きな時に起きた。 両親はお腹が空けば美味しい食事を用意してくれたし、 いつも優しく彼女の頭を撫ででくれた。 沢山の服が彼女の為に用意され、どれを着ても両親はにこやかな笑顔を彼女に向けてくれた。 両親の笑顔を見ると彼女も嬉しくなった。

2016-08-21 19:03:15
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-3 だが、そんな両親がたった一つだけ許してくれない事があった。 彼女の住んでいる家の部屋には、とある不思議な『扉』があった。 見る分には他の扉と全く変わらないように見える、木製の普通の扉。 だが、モルがその扉に近づくと決まって両親は普段見せない怖い顔を彼女に向けた。

2016-08-21 19:04:39
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-4 その扉は『決して開けてはいけない扉』なのだった。 両親は彼女に向けて常に言い聞かせていた。 扉の向こうにはとても恐ろしいものが閉じ込められているのだと。 だから決して開けてはならないのだと。 そして、扉は勝手に開けられないように鍵も掛けられていた。

2016-08-21 19:06:08
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-5 しかし、彼女はある時気付いた。 鍵はずっと閉まっている訳ではない事に。 そして、鍵が開いているそのタイミングに。 日々、母親が折り紙で教えてくれる新しい『カタチ』を覚えていく彼女の小さな頭は、次第に扉の向こうにしまってあるものへの興味でいっぱいになっていった。

2016-08-21 19:07:39
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-6 そしてあくる日、モルが柔らかいベッドの上で目を覚ました時… 彼女には今が扉の開いているタイミングだという事がはっきりと分かった。 彼女は物音を立てないようにそっと扉に近寄り、何とか手の届く場所にあるノブを見つめた。 じっと、じっと見つめた。

2016-08-21 19:09:24
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-7 それまで感じた事の無い感覚が身体の中で渦を巻いた。 とてもドキドキして落ち着かなかった。 だが、同時にドアの向こうの事を聞いた時の両親の怖い顔を思い出し、 結局扉に手は伸ばせなかった。 そして、その日はそのままそっとベッドの上に戻り、無数に並んだ折り紙で遊んだ。

2016-08-21 19:10:42
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-8 ところで、怖い顔とまではいかないが両親が嬉しそうな顔をしない時がもう一つある。 …両親が寝ている時に騒ぐ事だ。 今が丁度その時だと彼女は知っていたので、遊んでいても大きな声は出したりしなかった。 モルは母親の言う『えらいこ』なのだ。

2016-08-21 19:12:33
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__そして…両親が寝ている間、それこそが、彼女が扉を開けられる鍵のかかっていないタイミングでもあった。

2016-08-21 19:13:47
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-9 それからまた幾何かの月日が流れた。 その間にも何度も扉を開けられるチャンスは廻って来た。 その度に彼女は我慢した。開けたい気持ちよりも怖い気持ちが勝っていた。

2016-08-21 19:14:55
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

…だが、そんな繰り返しはいつまでも続くはず無かった。 モルの好奇心はある時遂に恐れのラインを越えてしまった。

2016-08-21 19:15:30
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-10 その日、再度チャンスが廻ってきた時彼女は躊躇わなかった。 ゆっくりと扉に近づくと…隣の部屋で寝息を立てている両親の居る方を何度も振り返りながら、静かにノブに手を掛けた。 そして、モルはとうとうその扉を開いてしまったのだ。

2016-08-21 19:16:44
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-11 扉を開いた瞬間現れたのは… 母親が作って教えてくれていたどんな『カタチ』の物でもなかった。 父親が話して聞かせてくれていた恐ろしい『オバケ』や『アクマ』でも無かった。 だが、それはモルの心を一瞬で奪い去るものだった。

2016-08-21 19:18:37
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

…扉の向こうには、また別の部屋があった。

2016-08-21 19:20:04
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-12 それはありふれた部屋で、広さもモルの居た部屋や食事をする部屋、両親の寝る部屋と殆ど変わりなかった。 だが、決定的に違ったのは、そこには彼女が『今まで見た事も無い物』が溢れかえっている事だった。 目に飛び込んできた物の量に、彼女は暫し呆気に取られて立ちすくんだ。

2016-08-21 19:21:02
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-13 驚きが通り過ぎると、彼女の胸に好奇心が大波のように押し寄せてきた。 自然と顔がほころび、声を出してしまいそうになった。 彼女は慌てて人差し指を自分の口に当てると、小さく『しーっ』をして部屋の中を見回した。 そして、とりわけ彼女の目を引く物をその中に見つけた。

2016-08-21 19:22:05
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-14 彼女の見つけたものは四角い形をしていて、見た事もない暗さと明るさの入り混じった色をしていた。 近寄ってみると、自分の視点が変わるのに合わせて『それ』は少し見え方が変わるのにも気が付いた。 手の届く場所で触れてみると、『それ』は少しひんやりした素材で出来ていた。

2016-08-21 19:23:27
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-15 …『それ』は一般的に『窓』と呼ばれるものだった。

2016-08-21 19:25:26
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-16 程なくして彼女は自分が今目にしているものがひんやりに『描かれているもの』ではない事に気が付いた。 …部屋を移動するのと同じように、手で触れているつやつやの先にもまだ空間があるのだ。 彼女がまた周りを見回すと、直ぐにそのてかてかの先に通じている扉が見つかった。

2016-08-21 19:27:26
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-17 その扉の前の空間は他の扉に比べてちょっと窪んでいて、『黒』や『茶色』や『赤』がごろごろと転がっていた。 扉を開けるためにぺたりと窪みの中に足を下ろすと、それまでに踏んでいた地面よりずっと冷たくて驚いた。 どうしたらいいのだろう。

2016-08-21 19:28:46
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-18 彼女は近くにあった茶色や灰色をじっと見つめると、試しにその中に足を入れてみた。 すると、窪みの中に足をつけていてももう冷たくは無かった。 灰色が大きくて少し歩きづらくなってしまったが、そんな事はモルにとって些細な事だった。 ただ、この先にあるものを見たかった。

2016-08-21 19:30:00
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-19 それでも彼女は両親が寝ている事だけは忘れなかった。 最後まで音を立てないように慎重に扉を開け、遂に彼女はその先に進んだ。 空気が、匂いが、視界が、そこにあるもの全てが皆今までとは違っていた。 見た事の無いものが目の前に溢れている。そこは『不思議の国』だった。

2016-08-21 19:31:02
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-2-20 そして、モルはとうとう両親の言っていた『恐ろしいもの』が犇めく世界へと、好奇心に誘われるがままに足を踏み入れていってしまった。 その世界を眼前にした時、彼女の心は欲望に塗り潰され、 最早寝ている両親の事などは頭の中に微塵も残ってはいなかった。

2016-08-21 19:32:19