- S_Wakame_S
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2-26 「でもな、浜風。考えるだけ無駄やと思うで。藻類提督はそんな人や。彼がここの提督である事実には変わりなく、私ら艦娘はここで戦う使命にあることも変わりはない。 それに此処での暗黙のルールは、互いに深く干渉しないことや」
2016-08-22 14:43:062-27 「ここの艦娘達はな、基本的に自主性に任されて生活してる。なんたって我々は"本来なら廃棄されて然るべき存在"やからな。不具合のある武器を誰が好き好んで収集するか。 ましてや艦娘、生きていて、人と見た目は変わらん存在や。五体不満足なんて戦場にはいらんやろ?」
2016-08-22 14:43:172-28 「提督はな、そんな私らに私らなりの生き方を尊重してくれる場を提供してくれとるんや」 「だから、提督に感謝こそすれど疑うのは筋違いと?」 「そこまでは言わんが、まぁそう思ってくれておいた方が色々都合がいいのも事実や」
2016-08-22 14:43:312-29 「私はですね、ただ自身が身を預ける提督が、本当に預けるのに値する人物なのか、見定める必要があると思っているだけなんです」 武器が使い手の意を問うのは間違ったことかもしれない。しかしこんな片腕の使えない駆逐艦などを集めてる物好きを、変人の一言で私は流すことはできなかった。
2016-08-22 14:44:212-30 それに何より、提督の顔を伺うこともできなければ、声も聞くことも叶わなかった。 まるで提督の思いが伝わらない。提督の口から提督の変人ぷりが伺えたのならまだしも、それすら全く知ることが叶わなかったのだ。 妥協も、腹を括ることも叶わなければ、不信感しか残らない。
2016-08-22 14:44:342-31 しかし龍驤さんはというと、でもなぁ……と言葉を選ぶように頭を掻いていた。 「まぁごもっともやな。でも浜風。浜風がそう思っておる限り、おそらくうちの提督とは一生分かり合うことはできないとうちは思うで」
2016-08-22 14:45:012-32 「提督はなぁ。なんというか……やっぱり、変人だからの」 言いにくそうに龍驤さんが言うもんだから、私はそれ以上何も言わなかった。 3足分の足音と、義足と杖が交互に叩く音だけが、廊下にただ響くのみであった。
2016-08-22 14:45:122-33 すっかり日も沈んだ頃、私は宿舎の廊下で日課に勤しんでいた。 「75、76、77、78、」 片手腕立て伏せ。使えない右腕を背中に回し、左腕の力だけで屈伸運動を行う。
2016-08-22 14:45:362-34 私に与えられた部屋は、狭い間取りの一室に二段ベッドが二つ並ぶ、四人一部屋の小さな部屋だった。満足に運動できるスペースがない以上、運動は廊下でするしかなかった。
2016-08-22 14:45:452-35 「98、99、100、101、」 「精が出るネ」 相部屋は金剛さんだった。4人部屋だが2人は空いていたので、実質相部屋である。 「片手で腕立て伏せってVery Hardだと聞いてますが、ハマーンはできるのですね」
2016-08-22 14:45:562-36 100回腕立ての区切りになるタイミングまで、金剛さんは声をかけないでくれていたのだろう。 本当はもう少し続けるところだけれど、ちょうどいいので腕立てで私は切り上げることにした。
2016-08-22 14:46:312-37 「私なりにできることをしませんとね」 「それがSmartネ。ここにいるのは、皆自分の意思で戦うことを選んだ艦娘達ばかり。与えられた任務を全うするだけの他の基地の子達とは、Soulから違う」
2016-08-22 14:46:402-38 そう思ってないとやってらんない、とも言うのだけどネ。と、金剛さんは笑う。 私は滝のように溢れる汗をタオルで拭い、前髪を搔き上げた。
2016-08-22 14:46:532-39 「私は異動を命じられて、ここに来ただけなんですけどね」 「異動に応じることを選んだ。違う?」 違わないかもしれない。 「それに何より、そんなHard Workを日課にしているくらいなんだから、ハマーンの覚悟は並大抵ではないでしょう」
2016-08-22 14:47:122-40 「買いかぶりすぎじゃないですか。私は戦線離脱を余儀なくされた、解体されてもおかしくなかっただけの艦娘です。これくらいはしないと」 「それを言うならMe Tooネ。私もWasted Ship、廃棄待ちだったから」
2016-08-22 14:47:262-41 金剛さんも……?と目線を向けた私に、金剛さんは飲み物の入ったコップを渡す。ありがとうございますと礼をして受け取る。 思い出すのは、昼間の金剛さん。あれだけの鈍器を、汗水流してブンブン振り回す金剛さんが、廃棄待ちだったようには到底見えなかった。
2016-08-22 14:47:362-42 「ハマーン、ここはそんな艦ばかり。Everyone、自分の戦い方を見出して戦っている。本来なら戦いから退くべき私達でも、自分たちの足で立つ場が与えられている。それを忘れないでほしい。 ここは全てが"私達次第"。Meを信じるのはMeだけネ」
2016-08-22 14:47:462-43 自分を信じるのは自分自身だけ。 その言葉が、私の胸にしこりを残す。 私の愛した提督の死から1年経った。 その記憶は、不自由になった右腕と共に私に刻まれている。
2016-08-22 14:48:012-44 今の私は、果たして何を信じているのだろうか。 「金剛さん。金剛さんは、ここの基地は長いのですか?」 「RJの少し後ってところだから、そこそこカナ?」 「金剛さんはここの提督のこと、どう思われますか?」
2016-08-22 14:48:132-45 「シーフード提督のことかな?特に気にはしてないよ」 金剛さんのネーミングセンスにそろそろツッコミを入れたくなってきたが、それはさておいて。
2016-08-22 14:48:272-46 「気にしてる暇があったら自分を磨くことにワタシはしているよ。一度疑いとかを持ってしまうと、自分の目が霞んでしまいそうだからネ!病は気からとコトワザにもあるでしょう?気は常に高く保っておくようにケアするのも、importantじゃないのかな!」
2016-08-22 14:48:392-47 そう言うな否や、唐突に、話の脈略もなく、金剛さんは上の服を脱ぎ始めた。 「ちょっと金剛さん!?何してるんですか!?」 「何って、ハマーンがストレッチしてたらワタシもやりたくなってきて!」 私の制止もなんのその。ぽぽーんと金剛さんは上半身裸になると、私の隣に並んできた。
2016-08-22 14:49:082-48 「皆から見えますよ!」 「今は誰もいないからNo Problem!」 「誰か来たら丸見えじゃないですか!」 「提督さえ通らなかったら女だらけだから気にしない!」 「気にして下さい!」
2016-08-22 14:49:18