- S_Wakame_S
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2-1 「Oh、彼女が期待のNew faceネー!ワタシは英国産まれの帰国子女、金剛デース!高速戦艦やってまス!」 初対面の高速戦艦、金剛さんは、ひたすらに元気発剌な人だった。
2016-08-22 14:30:122-2 龍驤さんの肩を抱いて歩いていた私たちは、基地施設のすぐ脇にある空き地で、金剛型戦艦1番艦の金剛さんに声をかけられた。どうやら金剛さんは、私が気づくずっと前から私たちのことに気づいていた様子だった。
2016-08-22 14:30:202-3 金剛型四姉妹の長女。イギリス生まれの帰国子女にて、その発言は英国面まみれだった。 彼女は素で喋っているのだろうが、なんとも疲れそうな言葉を喋っている。聞いてる方も疲れるけど。私の元いた北方海域の基地には妹の榛名さんがいたけど、同じ姉妹とは到底思えない。
2016-08-22 14:30:272-4 「北方海域にいたのでしょう?妹の榛名がとてもお世話になっていたネ!」 ……似てないなぁ。容姿は似てるのに、雰囲気は別人だ。 似てないといえば、榛名さんはミニスカートであったのに対して、金剛さんはパンツスタイルであった。そして何より、
2016-08-22 14:30:492-5 「駆逐艦浜風です。あの、金剛さん。それは竹刀ですか?」 「イエース。Japanese Bamboo Swordネ!」 ぶんぶん!と竹刀で野球のスイングをされる金剛さん。めっちゃ危ない。
2016-08-22 14:31:062-6 しかもただの竹刀ではなく、鉛版や鉄板を何枚も重ね合わせ、それをボルトで強引に固定した超重量級の代物だった。もはや竹刀である意味がない獲物を、金剛さんは片手でブンブンと振っている。空を斬る音が重々しく、粗雑な固定のせいか振るう度にガチャガチャと金属音がして実に危なっかしい。
2016-08-22 14:32:322-7 直撃すれば、鉄板の角や飛び出したボルトで肉ぐらいは抉れるだろう。下手すれば、いや下手するまでもなく、駆逐艦である私の装甲ですら半壊するであろう。受け身を取ったとしても、これを耐えることは不可能に思える。
2016-08-22 14:32:402-8 「程々にしときや。早朝からずっと素振りしとるやろ、また肩を痛めるで」 「No Problem!素振りは日々の積み重ね、Thousandの道もOne Stepからデース」 「何事もやり過ぎは禁物や。此処にいる皆、身に染みていることやろ」 「むー…確かにRJの言う通りですが」
2016-08-22 14:33:122-9 RJ……。 「しかしそれを言うならばRJもデスヨ!杖と片足で上手に歩けているとはいえ、義足はどうしたのですか?」 「あれ擦れて痛いんや」 「気持ちは分かりますが、RJのためにImportantなモノですよ」
2016-08-22 14:33:282-10 杖と片足で器用にケンケンしていたが、やはりフラつきは強くみられたし、すぐにでもバランスを崩しそうなくらい見ていて危なしかっただけに、私も金剛さんの言に同意する。 「では、あとOne Houndredだけ許してクダサイー。その代り、RJも義足を付けること。OK?」
2016-08-22 14:33:462-11 「せやな、そうしようか。ってわけで浜風。着任早々やから提督執務室行こうかと思ったけど、その前に寄り道してもええか?」 「わかりました。お供しますよ」 「Promise成立ネ!じゃあ後はハマーンに任せたヨ。See you later」 「ハマーン!?」
2016-08-22 14:34:532-12 ハマーン!?浜風だからハマーン!?安直というか、今脊髄反射的に口から飛び出しましたよね貴女!? こう、あだ名なのですからもっとあるんじゃないですか。いまいち愛嬌が足りない名前だと思うのですが。 なんて抗議の目線を意に返さずことなく、金剛さんは素振りに戻ってしまわれた。
2016-08-22 14:35:352-13 「釈然としない顔してるなぁ」 ニヤニヤと龍驤さんが笑っていた。 「諦めときや。一度決めたら、金剛は絶対変えへんで。うちもRJ呼ばわりやからのう……」 龍驤さんは既に諦められている様子だった。 心中お察しします。
2016-08-22 14:35:462-14 藻類提督は、なんというかよくわからない人だった。 提督との謁見時間は20秒にも満たなかった。入室し、敬礼をし、秘書艦である鈴谷さんに促されるまま、退室した。 変人とは噂で有名だったが、その一端が見えたようで、でも何も判らなかった。
2016-08-22 14:36:172-15 「本日付けで貴艦隊に着任しました、駆逐艦浜風です」 敬礼する私のことを、提督は見もしなかった。 というより、背を向けていた。
2016-08-22 14:36:252-16 提督執務室には西日が差しこんでいた。提督は椅子ごと私に背を向けて、西日差し込む窓から覗く南西諸島の海を眺めていた。逆光で眩しい目には、提督のシルエットしか映らない。表情も動きも確認することはできなかった。かろうじて、軍服を肩に羽織って、制帽を深く被っていることは伺えた。
2016-08-22 14:36:382-17 提督は私の敬礼に応えず、その時応えたのは、秘書艦の鈴谷さんだった。 「いらっしゃーい。長旅おつかれさん。書類関係のことは私と提督でやっておくから、下がっていいよ。ゆっくり休んでね」 必要最低限すぎる対話に、私はただ「失礼します」と退室することしかできなかった。
2016-08-22 14:36:512-19 「あの、龍驤さん」 「ん?なんさね浜風」 「提督って、どんな人なのでしょうか」 執務室前で待ってくれていた龍驤さんに、基地内を案内してもらう傍ら、私は胸のうちでわだかまったものを龍驤さんに吐き出していた。
2016-08-22 14:37:122-20 「基本的に提督は無口な人やな。ほぼ喋らんと思っていい。というか私たちに声をかけてくるようなことはほぼない。基本的なやり取りは全て秘書官の鈴谷を通して行われているんや。彼女が実質、提督の意志伝達係や」
2016-08-22 14:37:382-21 「提督は鈴谷にしか声をかけんし、鈴谷以外には一言も喋らん。うちも随分長いこと提督の声を聞いておらんからの。あとは顔を合わせてくることも早々ないで。浜風の時もそっぽ向いておったか?やっぱりなぁ。形式上執務室で対面という形を取ることがあっても、提督は鈴谷としか顔を合わせん」
2016-08-22 14:39:112-22 「ここの基地で行われることは、全て鈴谷を仲介して行われる」 「はぁ……」 龍驤さんの話を聞いても、やっぱりよくわからなかった。
2016-08-22 14:40:152-23 しかし、確実に芽生えた感情があることに私は気づいていた。負傷した艦娘ばかり集う基地に、秘書官にしか語り掛けない提督。変人との噂に違わない人物であることはさておいて、果たしてそんな提督のもとに就いて、基地機能が円滑に進むのだろうか。
2016-08-22 14:41:042-24 噂に聞く変人提督と言ってしまえばそれまでだが、しかし変人の一言を免罪符にして流すことが、私にはできなかった。 「しかしそれは提督として胡散臭くないですか。いち駆逐艦が申すのもおこがましいかもしれないですが、そこまでの人物であると提督として不相応のような気がするのですが」
2016-08-22 14:42:24