お前は誰だ?……『ミスター・ノーボディ』(マカロニウエスタンで、『君の名は。』)蔵臼 金助(イタリア製西部劇研究家)

郷愁に満ちた“最後のマカロニウエスタン”『ミスター・ノーボディー』(1973)についての解説。
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

『ミスター・ノーボディ』公開時イラストバリエーションの一つに、ノーボディが足を投げ出して座っているものがある。背を向けた彼の背には馬の鞍が置かれ、それはまるで天使の羽根の様だ。シガーの煙が彼の頭上に、天使の輪っかを作っている。 pic.twitter.com/k0YpjIkSVr

2016-08-27 09:49:03
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そして、天使(ノーボディ)と悪霊にとり憑かれた伝説のガンマンとの間に、“あまたなるもの”ワイルドバンチが立ちふさがる。悪霊に憑かれたるガンマンは天使に導かれ、二挺のウインチェスターとダイナマイトを駆使して、自らの魂を救わなければならない羽目に追い込まれる。

2016-08-27 09:49:25
蔵臼 金助 @klaus_kinske

“ワイルドバンチ”とは、実在した無法者集団で、別名“壁の穴ギャング”と呼ばれた。悪事を行う時はその都度メンバーを組み換え、1896年、キャシディ・ポイントに集結した際はその数200名以上。当局と一戦を交えてワイオミングを逃走する75名の様子を、当時の地元新聞が記録に残している。

2016-08-27 09:49:51
蔵臼 金助 @klaus_kinske

何故、ノーボディがワイルドバンチ一味と同じ格好、ロングコートに煌めく鞍を所有しているのかも興味深い。あまたなる群れは、堕ちた天使たちの集団、レギオンの象徴なのだろうか? ノーボディは天使なのか。悪魔なのか。 pic.twitter.com/2SkIzROwsh

2016-08-27 09:50:23
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

ワイルドバンチが登場する時に流れるエンニオ・モリコーネ作曲の彼らのテーマには、一部、ワーグナー「ニーベルンゲンの指環」のフレーズが流れる。それは『地獄の黙示録』でも有名になった、天駆ける女神たち“ワルキューレ”のテーマである。 pic.twitter.com/EDtkG5WXYv

2016-08-27 09:51:12
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

北欧神話に登場する戦いの女神たち“ワルキューレ”の別名は、「戦士を運ぶ者」。彼女らは、戦場で戦って死んだ英雄たちの魂を故郷へ運ぶのが仕事なのだ。

2016-08-27 09:53:07
蔵臼 金助 @klaus_kinske

本作をDVD化する際に、特典映像としてノーボディを演じたテレンス・ヒルへのインタビューを盛り込んだが、彼は「この物語を構築する際、監督はホメーロスの英雄伝説、『オデュッセイア』を下敷きにした」と答えている。

2016-08-27 09:53:25
蔵臼 金助 @klaus_kinske

たかがマカロニウエスタンとバカにするなかれ。マカロニウエスタンは欧州映画の伝統に乗っ取って、数々のシーンに引用や示唆、暗喩が込められているのだ(ちなみに、最後の手紙を読むシーンは、市川崑監督の『ビルマの竪琴』へのオマージュらしい)。

2016-08-27 09:54:08
蔵臼 金助 @klaus_kinske

“あまたなるもの”をライフルとダイナマイトで追い出した後、悪霊に憑かれたるガンマンは、天使とも悪魔ともつかぬ若者と最後のイニシエーションの儀式を行う。それは、エクソシズムの最終段階。 pic.twitter.com/x1U5rxCLr0

2016-08-27 09:56:12
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

ノーボディは伝説の男の体内から追い出した悪霊を自らの肉体に憑依させ、“サムバディ”となる。 pic.twitter.com/pDTdAXPquU

2016-08-27 09:57:22
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

セルジオ・レオーネの助監督であったトニーノ・ヴァレリはもしかしたら、名を成した伝説のガンマン(レオーネ)に対する自分の想いも込めて、このマカロニウエスタンにしては珍しい、郷愁に満ちた物語を撮り上げたのかもしれない。

2016-08-27 09:57:40
蔵臼 金助 @klaus_kinske

彼が名前を聞き出す過程で英雄の魂を癒し、故郷へと帰らせたかどうかは、定かではない。 pic.twitter.com/hD3dThXfW8

2016-08-27 09:59:04
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