「ザヴとイビの冒険」予告編

ダイハードテイルズ出版局 https://note.mu/diehardtales
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ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

EDM! EDM! E! D! M! の軽薄な重低音と、水色に光り輝くプール! おそらくスペインあたりを意識したと思しき黄土色の石壁には観葉ツタ植物の籠が吊るされ、花々は赤、紫、白と色鮮やかだ。

2016-08-25 14:42:04
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プールのふちに腰掛けてクスクス笑うのは、ブラジリアン・ビキニのごくごく少ない布面積で重要部位をかろうじて隠した若い女たち。手段を選ばぬタイプのグラビアアイドルや読者モデル達で、このパーティーを機に大きくステップアップしようという野心にあふれていたり、よくわかっていなかったり。

2016-08-25 14:45:51
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水色のプールの壁際が隆起し、ザブンと音を立てて水底から浮上したのは、小柄で可憐な、目つきのキツい娘だった。彼女が、イビだ。「ねえ、これって何のパーティー」イビは近くにいた白い水着の娘の二の腕をつついた。「え?パーティー?何……」ハイになっており、まともな答えは期待できそうにない。

2016-08-25 14:48:32
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イビはプールの中から這い出し、プールサイドを見渡した。頭がモヤモヤした。可及的速やかに成し遂げるべき目的設定があったはずなのだが……。「どうしました」黒服がにこやかに声をかけた。イビは笑顔を返した。「どこだっけ、ここ」「ん?店の名前ですか?」黒服はやや怪訝そうにイビを見た。

2016-08-25 14:51:15
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「ううん……えっと、大丈夫です」イビは頭を下げ、出口に向かった。出口の前には別の黒服が立っていた。「トイレはそこを右ね」トイレじゃなくてアンタそこをどけ、イビはそう言おうとしたが、本能がなにかまずいと告げていた。多分断られる。もっとよくない反応を引き出す可能性も否定できなかった。

2016-08-25 14:54:28
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イビはおとなしく誘導に従って右に進み、トイレに入った。洗面台に立ち、鏡を覗き込んだ。カワイイ。しかし黒いホルターネックのビキニとパレオという組み合わせは、このプールの他の娘達に比較するとやや露出度が低く、浮いているように思える。イビはそこで我にかえり、呟いた。「違うぞ、違う」

2016-08-25 14:57:05
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ダーン!音を立てて個室のドアが開き、中にいた娘がこぼれ落ちるように飛び出して、うつ伏せに倒れた。「ウワッ! 寝ゲロ!」イビは反射的に叫んで飛び下がり、トイレから走り出ると、先ほどの黒服のもとへ駆け寄った。「おじさん! あのね、トイレで女の子が伸びてる! あと、寝ゲロ、死ぬかも」

2016-08-25 15:01:11
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「しょうがねえなァ」黒服は驚くほどに冷たく言い放ち、頭を掻いて歩き去った。イビは出口方向を見た。(……出るか?)EDM! EDM! E! D! M! がボリュームアップし、もはや爆音になった。出口からVIP達が大勢で入ってきた。イビは慌ててプールに駆け戻り、肩まで水に浸かった。

2016-08-25 15:02:52
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「イェー!」「イェー!」満面の笑みを浮かべて入場してきたVIP達は強烈なハイテンションでプールに散り、蛍光色のカクテルを飲んだり、お互いに拳を合わせて挨拶などを始めた。DJはビートに乗りながら両手のピースサインを高く掲げてピョンピョン跳ねた。「イェー!」「イェー!」「イェー!」

2016-08-25 15:05:49
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水着娘達は巨乳を揺らして喝采し、満面の笑顔で応えた。「もう最高ー!」「キミ、最高でしょォー? もう最高でしょォー?」赤いドレッドヘアと総金歯(すべて犬歯)の男がプールに降りて、イビの隣の水着娘の肩を抱き寄せ、引っ張っていった。「もっと最高になろっかァー?」「なるー!」

2016-08-25 15:08:20
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「ワーオ」イビは赤ドレッドが五人ほどの水着娘を見繕い、別室へ連れていくのを見た。それを拍手で出迎える男達は皆いかつく、髪を蛍光色に染め、黒いトライバルタトゥーを上半身にびっしりと余すところなく施し、総金歯(すべて犬歯)。イビは顔半分まで水に沈め、ぶくぶくと泡を出しながら見渡した。

2016-08-25 15:10:27
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イビはプールの隅で彼女同様に所在なさげにしている水着娘を見つけた。横にスライドしていって隣まで行き、声をかけた。「どうしたの」「え?何でもないです」水着娘は急に声をかけられたことに驚き、びくりとした。イビは友好的な言葉を探した。「えっと、おっぱいでかいね」「え?」「なんでもない」

2016-08-25 15:12:32
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気まずい沈黙。やり直しだ。「イビって呼んで。アンタは?」「イビちゃん? ええと、わたしは美余」「美余ちゃんは他の子みたいに遊ばないの?」「その……ちょっとビックリして。事務所の人には、オーディションみたいなものだからって言われて来たんだけど、こういう感じだとは……」「そうか〜」

2016-08-25 15:15:37
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イビは人の良さそうな美余の困り眉を眺めた。美余はよほど心細かったのか、イビの手を取って囁き、プールサイドのトロピカル・ドリンクを取って、イビにも手渡した。「イビちゃんは、どこの人?」「ええとね」イビは答えた。「NAMISUGIにワンルームを借りてるんだけど。ここはどこなのか……」

2016-08-25 15:18:29
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美余は怪訝にしたが、踏み込まなかった。「イビちゃん、わたし本当はグラビアの仕事じゃないんだけど、今回はこういう切り口でって言われて。渡されたのもこんな水着だし」「そうか~」イビは頷き、言った。「多分これ、乱交パーティー的なやつじゃないかなあ。ヤバいよ」「ンぐっ」美余は咳き込んだ。

2016-08-25 15:21:11
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「乱……」「アンタみたいに騙されたり、自分から参加したりして、悪い仕事をゲットだわさ」「ええ……」美余は泣きそうな顔になった。「でも、事務所の人に……」「オーディション。ううん、確かにオーディションだわ。間違ってないと言われれば」「どうしよう、イビちゃん」美余はイビの手を取った。

2016-08-25 15:23:48
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「わたし、そんなの嫌だよォ」「そりゃ嫌だよね。んんん」イビは一生懸命に考えた。「出口は黒服のおっさんが固めてるし、出ようとすると止められるし」イビが指差すと、美余はますます泣きそうな顔になった。「もうダメ……」「でも、ほら、それもただの、わたいの推測だし、普通のパーティーかも」

2016-08-25 15:26:27
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「五鬱慈(ごうじ)君!」「五鬱慈くーん!」歓声が湧き、明らかにヤバい男が現れた。「皆〜、マジ最高じゃねえ?今夜もがっつりヤッちゃおうぜ!」「イェー!」五鬱慈の周囲に身長2メートル超のいかつい男達がぞろぞろと現れ、奇声をあげた。別室では明らかにファックしていた。「ウーン。ダメかも」

2016-08-25 15:30:09
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イビは美余をすまなそうに見た。美余は更に泣きそうな顔になった。「でも、こうして隅っこで黙ってれば、」「俺いっただきィ!」プールサイドから男が美余の両脇に腕を差し込み、羽交い締めにしながら引きずり上げた。あまりのことに美余は完全に呆然となって、抵抗すら忘れていた。「ちょっ、」

2016-08-25 15:32:49
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「俺こっちィ〜!」イビの身体も別の男に強引に引きずり上げられた。「ちょっ!と!ヤメロ!」イビがもがき、足をばたつかせると、男はますます喜んだ。「ゲット!ゲット!アッヘヘヘ!」「なに?はじめて?大丈夫大丈夫!色々トベるし!」男達は二人を奥の部屋へ引きずっていく。「トビッ」BLAM!

2016-08-25 15:35:01
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イビを捕まえていた男がのけぞり、腕の力が弱まった。身をもぎ離すとそのまま仰向けに倒れ、青い水の中に転落した。男の頭は半分だった。銃弾か何かを食らって消失したのだ。青い水に赤い霧が混じってゆく。「ええ?」イビ、美余、もう一人の男は、きょとんとしてお互いを見た。間抜けな一秒だった。

2016-08-25 15:37:24
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BLAM!その男の頭が次に爆ぜた。イビが美余の手を引っ張って助けた。その男もプールに落下し、赤い血を水に混ぜた。EDM!EDM!EDM!が大音量で流れる会場で、この出来事に気づいた者は他に無い。イビは呆然とする美余を抱きしめ、出口方向を振り返った。黒服は既に死んで倒れていた。

2016-08-25 15:42:17
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死体を踏みつけて進み出たのは、大口径のリボルバーを片手で構えた男だった。男は黒髪を2:8に撫でつけ、めちゃくちゃ高級そうな黒いスーツを着ていた。銃を持たないほうの手でネクタイを直しながら、男は歩を進めた。一番特筆すべき特徴を挙げるのを忘れていた。その男の肌はピンク色なのだ。

2016-08-25 15:43:37
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「アンタ」イビはそいつに覚えがあった。思い出そうとした。BLAM!近くの男の胸が爆ぜ、吹っ飛んで死んだ。ピンクの男はイビの傍まで歩いてきて、頷いた。「居た、居た。まったくお前、俺がいなきゃ大変だったぞ。こんなところで」「誰だっけ」「誰って、なんだそりゃ。俺はザ・ヴ……」「ザヴ?」

2016-08-25 15:46:18