トゥー・レイト・フォー・インガオホー #4
◆ビボバボビボボ……モニタ上では進捗バーが100%を刻む。キャバァーン!ニンジャスレイヤーはモニタに映しだされた座標情報を睨んでざっと頭に収めると、UNIXから吐き出された物理媒体を取り出し、懐にしまった。ニンジャスレイヤーはベランダ窓へ向かう。スカラムーシュは身を起こした。◆
2014-02-18 22:14:24◆そのまま去ろうとしていたニンジャスレイヤーは動きを止め、スカラムーシュを振り返った。逆光シルエットに赤い目が光っていた。スカラムーシュは言った。「ゲホッ。お前、クソッ……潰すってのか。その……この件の、根っこの方にいる奴をよ」「そうだ」彼は答えた。二者は沈黙し、互いを見た。◆
2014-02-18 22:14:45◆「……」死神は今度こそ去ろうとした。スカラムーシュは身じろぎした。ニンジャスレイヤーは……再び振り返った。そして尋ねた。「オヌシはどうする」「俺は」スカラムーシュは唸った。そして言った。「俺も行く。俺も行く……俺も、行く!」「よかろう」ニンジャスレイヤーは頷いた。◆
2014-02-18 22:15:06……108分後!赤黒、黒緑、ふたつの影は、目標物に隣接するビルディングの屋上にいた。屋上と屋上を繋ぐのは、張り渡された配電ワイヤーだ。「「イヤーッ!」」彼らは同時に飛び、ワイヤー上に着地。連なるサーファーめいて夜を滑った。「「イヤーッ!」」さらに跳躍、目標ビルの屋上へ。 1
2014-02-18 22:26:24ニンジャスレイヤーは着地前転により落下ダメージを無効化し、そのまま走り出す。その背後でスカラムーシュは背中から受け身、呻きながら起き上がり、後に続く。ダクト設備の脇を通り抜け、屋内へ通ずるドアに手を掛ける。当然、施錠されている。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはノブを破壊した。2
2014-02-18 22:31:16「ザッケ、」「チェラッ?」ドアの向こう、階段の踊り場でショーギをしていた哨戒クローンヤクザの二人組が反応するを待たず、ニンジャスレイヤーはチョップを、スカラムーシュは爪攻撃を繰り出した。「「イヤーッ!」」「「グワーッ!」」ヤクザ一人は首骨を折られて倒れ、一人は階段を転げ落ちた。3
2014-02-18 22:34:10階段を駆け下りた二人のニンジャはドアを蹴破って廊下へ突入した。パネルには「11階」の表示。外からはありふれたマルノウチのベンチャー・オフィスビル。その実、稼働しているフロアはほんの数割。クローンヤクザで防衛を固めた不眠の要塞である。 4
2014-02-18 22:39:55前方、突き当たりを曲がって現れたクローンヤクザがこめかみにスリケンを受けて死んだ。投擲動作を終えたニンジャスレイヤーはヌンチャクを腰のホルスターから引き抜き、振り回す。すぐさま続くクローンヤクザ達が複数現れ、サブマシンガンを掃射する。TTTTTTTTTATTT! 5
2014-02-18 22:44:33「イイイイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーは中腰姿勢を取り、ヌンチャク・ワークを開始!面で押し寄せる銃弾を跳ね返す!「グワーッ!」掃射ヤクザの一人が跳弾を額に受けて死亡!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの防御の後ろで、スカラムーシュは右横「副機関室」のドアを蹴破る!6
2014-02-18 22:49:47コンワー……コンワー……くぐもった稼働音を発するのは副機関室を埋め尽くすUNIXと監視モニタ群。スカラムーシュは鼻白んだ。その懐から、光を放つ正12面体の自律マシンが飛び出し、宙を跳ねた。モーターチイサイである。「重点!」ドロイドは自ら必要なケーブルジャックを嗅ぎ当てる。 7
2014-02-18 22:55:47「任せたぜ」スカラムーシュはパネルに手をつき、モーターチイサイが内蔵ケーブルを引き出してUNIXに直結するさまを見守った。「俺にゃわからねえからよ……」『問題ない』監視モニタの一つが砂嵐に変わり、女の声が返った。『ここのシステムは天下網本体の傘の下に無い。私の立会いは不要』8
2014-02-18 23:01:14「ヌンヌンヌンヌンヌン……」モーターチイサイが小刻みに振動し、UNIX光を明滅させ始めた。「イヤーッ!」「グワーッ!」「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」TATATATTTTT……廊下の外ではカラテ戦闘の喧騒。スカラムーシュは深呼吸する。ZBRが血中を駆け巡っている……。 9
2014-02-18 23:05:31……彼のニューロンはしばし前のやり取りを反芻する……「元々それはサイバーツジギリを担う非合法コーポレーションが母体だ」武装霊柩車ネズミハヤイ車内、運転席と防弾防音隔壁によって隔てられた後部ザシキ・シート上で、スカラムーシュとニンジャスレイヤーは向かい合っていた。10
2014-02-18 23:11:09「当初の筆頭株主はオムラ・インダストリ社。その他数社の軍事テクノロジー企業による共同出資カンパニーだ。現在はそれがネコソギ・ファンドにより解体・再編成され、アマクダリ・セクトの傘下に組み込まれた」「アマクダリ……」 11
2014-02-18 23:13:25「アマクダリ・セクトは闇社会の再編を進めている。その一環だ。セクトはカンパニー再編にあたり、より強力な後ろ盾を背景とした組織的殺戮結社としての性格付けを行った。オムラらの指揮下で無害な市民を散発的に殺戮してきた非合法ブローカーは、ヤクザ抗争コーディネーターとなったのだ」 12
2014-02-18 23:19:22「何のためにそんな真似をしやがる」スカラムーシュは呟いた。ネズミハヤイから供されたサービスオカキは、先程使用したZBRのせいで無味無臭に感じる。ニンジャスレイヤーは続けた。「中小ヤクザクランの掃討排除だ。武装組織の散在は、彼らの推進する社会秩序のノイズとなる」 13
2014-02-18 23:27:22「って事はよ……俺のビズ……」「オヌシが請け負っていたクラン襲撃も当然その掃討作戦の末端だ。闇社会には、最終的に巨大なアマクダリ一つあれば良い。強者はセクト化し、取り込む必要の見出せない弱体者は互いに争わせ、闇に葬る。奴らなりの効率追求の結果、そうしたメソッドが生み出された」14
2014-02-18 23:33:02スカラムーシュは乾いた唇をチャで湿した。カラカラだ。ニンジャスレイヤーの赤い目からは感情が読み取れない。「セクトは社会を作り変えようとしている。表も。裏も。全てを、自らの望んだあり方に」「大それた話だ」「左様。戯言にしか聞こえまい。信じなくともよい。だが、真実だ」 15
2014-02-18 23:50:50「今更、戯言で片付けられるかよ」スカラムーシュは唸った。「俺もハオカーも……」セクトのメソッド。かつて報酬として与えられたガントレット。ハオカーのネイルガン。武器を与え、武装集団をサンシタのニンジャに殲滅させ、データを取る。ペーパーカンパニーの社長も、エージェントの一形態か。16
2014-02-18 23:55:09「で、アマクダリと敵対するアンタが」スカラムーシュは言った。「ミッション指示者を潰して回ってたッてのか……」「そうだ」ニンジャスレイヤーは頷いた。「次々に挿げ替えられるニンジャエージェントを倒し、都度、情報の断片を集めてきた。このシステムの運営者に……その先に、用がある」 17
2014-02-19 00:01:39「14日の決行日の意味ッて、何だ」スカラムーシュは尋ねた。今回のミッションも、諸要因から必然的に導かれた唯一の決行可能日が14。あらかじめお膳立てがされていた。「どんな意味が」「娯楽だ」とニンジャスレイヤー。「闇カネモチが殺戮をモニタリングし、賭けをする。ゆえに日程は固定」18
2014-02-19 00:05:32「畜生」抑揚のない声で、スカラムーシュは呟いた。それから、やがて言った。「……ありがとうよニンジャスレイヤー=サン。あんたにとっちゃ一銭の価値もねえ、俺の身勝手をよ。犬死にしに行くだけの意地を、わざわざ……」「構わん」ニンジャスレイヤーは答えた。「犬死にする自由がある」 19
2014-02-19 00:17:59「ヘッ」スカラムーシュは苦笑した。彼は互いの間に横たわる小型のカンオケに手を置いた。「兄ちゃん、こいつの事は頼んだぜ」彼は運転席のデッドムーンに言った。防音隔壁で隔てられ、その言葉への返事はなかった。スカラムーシュは笑みを歪めた。目を閉じ、そして開く……。 20
2014-02-19 00:21:27パワリオワー!UNIXモニタ群に「借りる」のミンチョ三文字が点滅し、副機関室を激しく照らした。「重点!重点な!」モーターチイサイがケーブルを収納し、再び宙を飛ぶ。スカラムーシュはこれを掴んで懐へしまい込むと、廊下へ駆け戻った。惨殺体の間に立つニンジャスレイヤー。「終わったか」21
2014-02-19 00:28:26