『転生殺者 之 夢』【夢の話４２】

天晶 @tensyou99

自分は吸血鬼を殺す者であった。 目の前では、苦悶の表情を浮かべていた吸血鬼がよろめいている。まとっている衣服は切り裂かれ、吸血鬼自身の血で真っ赤に染まっていた。吸血鬼特有の黒い白目に浮かんだ金色の瞳孔が、牙をのぞかせる口と同じように大きく開いている。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

自分がここまで追いつめたのだ。 周りでは数人の一般人が騒ぎ立てていた。吸血鬼はこの世界では滅多に見ることはないが確実に存在する、絶滅危惧種のような扱いになっていた。人間が必死になって駆除しようとしているのも含めると病原体に近いかもしれない。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

自分が吸血鬼に向けていたのは聖水でも十字架でもなかった。大振りのナイフよりもさらに大きい、外国で言うショートソードのような刃物。それを上段に構えると、飛びかかってきた吸血鬼の一撃を避け、胸の真ん中を貫いた。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

血濡れの切っ先が、背中越しに見えた気がした。耳元で吸血鬼が断末魔を響かせる。 目や口、そして体全体から青い炎をあげて吸血鬼が一瞬にして燃え上がり、自分は素早く後退する。吸血鬼は数分かからず灰になり、さらに塵となって消え失せた。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

どういうことだ！とまわりで逃げまどっていた一般人が声を上げた。 どういうことだと言われてもなぁ、と自分はショートソードを聖水で清めながら首を傾げる。自分にも正直、訳が分からなかったのだ。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

吸血鬼には真祖がいる。感染や繁殖、拡大方法は様々でどれという確定的な定義は出来ないが、吸血鬼に敵対するのならば拡大源である真祖を殺すに越したことはない。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

自分は生まれたときから吸血鬼を殺す者として定められていた。血筋やそういったモノなど全く関係なく、前世、更にその前の前から、運命として『吸血鬼を殺す者』なのだ。 そして、吸血鬼を殺す者は、真祖の吸血鬼、もしくは真祖の力を持つ吸血鬼の近くに生まれる。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

吸血鬼にも色々いる。大抵は人間社会に紛れて静かに暮らしていることが多く、眷属に関しても増やたり、増やさなかったり、様々だ。 吸血鬼を殺す者に対しての応じ方もやはり色々で、和平を結んだり、積極的に殺したり、見て見ぬ振りをすることも多い。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

自分は吸血鬼を殺す者の中でも、断トツにやる気がない方だ。吸血鬼達が自分や周囲に害を及ぼしてこない限りは動くことはない。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

基本的に自分が吸血鬼を殺す者、ということさえ公にせず一生を過ごすことが多く、うっかりやら何やらでバレた場合も和平の申し出があれば余程の条件が付いていない限り受け入れている。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

と、まあ自分はこんな感じでやる気が全くないのだが、吸血鬼の中には前述したとおり吸血鬼を殺す者を積極的に殺そうとする奴もいるし、吸血鬼を殺す者の中には吸血鬼を積極的に殺そうとする奴もいるにはいるのだ。＃夢の話

天晶 @tensyou99

そういう両者のイザコザは、吸血鬼を殺す者の年齢が１０代前後の時がピークとなる。 吸血鬼が殺す者を探し出すのにかかる期間。殺す者が吸血鬼に仕掛けることが出来るようになるまで成長する期間等々…。色々な要因が絡まった結果、総じてそんな結果になるのだろう。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

つまりその時期を過ぎて何もなかった場合、大抵は吸血鬼に関わることなく一般人と同じ人生を歩めるというわけだ。 現在、自分はすでにその時期を過ぎている。故に今回は関わらなくてすむだろうなとタカをくくり、まったりと人生を送っていた。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

だが、最近になって唐突に吸血鬼が現れ始めた。 なにやら真祖の心境に変化があったのかもしれないが、どうも状況がおかしい。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

まず、吸血鬼に変化した者達の共通性が全くない。 老若男女様々で共通項を見つけることが出来ない。本人達に聞くことが出来れば一番よいのだが、面倒なことに自我が無くなるタイプだからそれも出来ない。状況からすると本人たちから望んで吸血鬼になった、とは非常に考えにくい。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

そして２つめ。咬み痕を見つけることが出来ない。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

噛みつかずに眷属を増やすタイプはいるにはいる。かなりレアなタイプになるが一定期間触れて徐々に眷属にするタイプだったり、触れもせずに波長的な何かで中身を人から吸血鬼に入れ替えていく、そんなタイプもいる。今回もそのタイプの可能性が高い。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

しかし、そのタイプが住宅街にいることはほぼ無い。 今回の舞台は団地だ。積極的に増やす過激な性格ならともかく、いままで全く動きがなかったのに能力の誤発動で眷属を増やしかねないこのタイプが人が多いところにいるとは考えにくい。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

分からないことだらけの状況下、自分は清めたショートソードを鞘に収め、腕を組む。隣では一般人男性がまだ騒ぎ立てている。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

吸血鬼を殺す者は吸血鬼と同じく、公の存在だ。故に一般人の中にはこういった男性のように、吸血鬼を殺す者を見つけると、さっさと吸血鬼を殺せと騒ぎ立てる輩が度々いる。いつの時代も同じだ。そして、そういう奴らに自分がとる態度も、いつの時代も同じだ。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

という訳で自分は騒ぎ立てる男性をさっくりと無視し、とりあえず初心に戻ってみるか、と自宅へと向かう。 この団地の棟に住んでいる人は吸血鬼ではないとチェック済みだが、もう一回確認するかな。などと思いながら階段を上ろうとしたところで、足を止めた。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

そういえば、さっき殺した吸血鬼は植木屋のような格好をしていた。 自分の住んでいる団地は緑に覆われていて、定期的に植木屋が手入れをしに来る。 あの吸血鬼はそういった植木屋の可能性が高い。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

この前、殺した子供の友人は、水遊びの道具を持っていた。 あの時は泣きじゃくる友人らしきその子供と、自分の子供を殺されて怒り狂う母親をなだめるのが大変だった。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

一番最初に殺した女性はこの棟の一階に住んでいた。親しくはないが、挨拶をする程度の知り合いである。彼女は部屋の近くに花壇を作っていて、毎日手入れをしていた。 ＃夢の話

天晶 @tensyou99

自分は階段に背を向けると、彼女が花壇の手入れに使っていたと思われる階段に隣接している水場に立った。付近の見回す。そして、 …出てこい。 低く小さな声で、呟いた。 ＃夢の話