貫井徳郎さんの「あの頃」のお話
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裏話というか、『殺人症候群』を出した前後の話を少ししたいと思う。あの頃はデビュー十年になろうとしていたがぜんぜん売れず、本は当時の最低部数しか刷っていないのに何を出しても重版しない状態だった。
2011-02-09 21:43:10そんな小説家が十年も生き残っていられたのは、単に『慟哭』のおつりがあったからに過ぎない。『慟哭』はちょっと評判になって、たくさんの注文をいただけて、それを順番に片づけているだけで十年経っていたのである。
2011-02-09 21:43:22(昨日の続き)このままではまずいと焦ってはいたが、連載中の『神のふたつの貌』と『殺人症候群』には手応えがあった。売れている作品、評価されている作品を分析すると、やはり人間の感情を深く描いているものが多い。その点、特に『殺人症候群』は条件に合致しているのではないかと思った。
2011-02-10 22:05:28先に出した『神のふたつの貌』は取り立てて評判にならなかった。でも『殺人症候群』が出れば状況は変わるだろうと期待していた。いざ発売されると、それまでよりは反響があった。中でも「AERA」が書評ではなく記事で取り上げてくれたのは嬉しかった。だが……(続く)
2011-02-10 22:05:48(昨日の続き)『殺人症候群』は『慟哭』以来久しぶりに重版したが、少部数に過ぎず、しかもそれだけで終わってしまった。期待したような、ぼくの小説家人生を変える作品にはならなかった。
2011-02-11 22:15:06この裏話ツイートを始めるのを躊躇したのは、実はこの頃の気持ちがあまりに鬱なので、そんな話をしていいものかどうか迷ったからだ。ただ、今となってはかなり昔の話で当時を知っている人も多くないだろうから、思い切って正直に書く。
2011-02-11 22:15:17小説に限らずどんなことでも、十年やって駄目ならその先はないだろうと思っていた。で、『殺人症候群』を出したのはちょうど十年目で、しかもこれ以上のものは書けないという自信作で、最後の勝負のつもりだった。その勝負に評判の面でもセールスの面でも破れたわけで、挫折感は大きかった。(続く)
2011-02-11 22:15:25(昨日の続き)『殺人症候群』が業界内でも市場でも無視されて終わったことのショックは大きく、この時点で小説家としての自分の将来を諦めた。いまさら他の仕事はできないから続けるが、いつか売れるとか、形として評価されるといった希望はいっさい捨てた。どうせ何を書いても無駄だと思ったのだ。
2011-02-12 21:37:40もともとぼくは、そんなに簡単に諦める方ではない。そのぼくが諦めてしまったのだから、当時の挫折感は本当に深かったのだと振り返って思う。あのときの心境のままでいたらと想像するとぞっとするが、ぼくは追いつめられると発揮される強運の持ち主なのだった。というのも……(続く)。
2011-02-12 21:37:58(昨日の続き)ちょっと話は逸れる。文庫の『慟哭』は、『殺人症候群』の三年前に出ていた。このときにも、落胆を味わっている。前述したように『慟哭』はハードカバーで出したときにはちょっと評判になったので、文庫になれば売れると思っていたのだ。
2011-02-13 22:03:35ところが、三年間で一度重版しただけだった。ハードカバーから五年半経っての文庫化だったので、読者は評判になったことなど忘れていたのだろう。やはり文庫は三年で出さないと、出版社も作者も損だと思う。
2011-02-13 22:03:48『殺人症候群』が黙殺されて失意の中にあるとき、東京創元社から連絡があった。単なる在庫状態になっていた『慟哭』を、店頭でプッシュして売ってくれている書店があるという。当時は今のように、書店発ベストセラーがなかった頃である。珍しいこともあるものだなぁと思っただけだった。(続く)
2011-02-13 22:04:01ははは。もちろんフォロワーの皆さんに興味を持ってもらえるように書いてますから。RT @manatsuminori 話の区切り方がうますぎて嫌なんですけど(笑)。そこでおわりかよっっみたいな。貫井さんの本は小説も話の終わり… (cont) http://deck.ly/~NejBI
2011-02-13 22:15:24(昨日の続き)『慟哭』を店頭でプッシュして売ってくれている書店があるという話は、友人からも聞いていた。東京創元社の報告とは、別の店である。たまたま偶然、ふたつの書店が同時にプッシュしてくれていたわけで、そんなこともあるのだなぁとありがたく思った。
2011-02-14 22:10:15そうこうするうちに、久しぶりに重版が決まった。いつの間にか、『慟哭』をプッシュしてくれる書店の数も四つから五つほどになっていた。今のように書店員さんが連携して一冊の本を盛り上げるようなことは、まだ行われていない頃である。偶然、同時多発的に『慟哭』推しの書店が現れたのだった。
2011-02-14 22:10:39前のツイートで、書店発ベストセラーがない頃だと書いたが、正確には一冊だけあった。『白い犬とワルツを』という翻訳本が、ある書店さんのプッシュで全国的に売れたのだ。ただそれは感動系の本で、『慟哭』とはまるで違った。
2011-02-14 22:10:55書店さんが『慟哭』をプッシュしてくれていると聞いて、ぼくや東京創元社の人たちは、創元文庫版『白い犬とワルツを』だね、と冗談を言っていた。この時点では、全員が冗談でそう言っていた。(続く)
2011-02-14 22:11:18それはまたなんとも(笑)。RT @rimakiesa: @tokuro_nukui 慟哭に感動しました!何が感動したって、主人公の名前と職業がうちの父と一緒で、しかも愛人の名前がうちの母と同じ名前でした!ww
2011-02-14 22:16:55無理すると長続きしないので、少しずつ行きます。RT @gupie1203: @tokuro_nukui もう終わりですか~裏話の続き毎日楽しみにしてます。(^^)
2011-02-14 22:23:55そんな一家は世の中にいくつもないでしょ(笑)。RT @manatsuminori: あ、それ私の友達も言ってた…と思ったらその友達だった。笑RT @rimakiesa: @tokuro_nukui 慟哭に感動しました!何が感動したって、主人公の名前と職業がうちの父と一緒で、
2011-02-14 22:27:47お楽しみいただけているなら幸いです。RT @makazmakaz: @tokuro_nukui ちょっとした短編のように読ませてもらってる回顧録。明日も楽しみです。最近貫井氏の作品読んでないのでなんとなくツイート眺めるだけになってます><
2011-02-14 22:28:13でしたらその書店に限らないですよ。その辺りのことはおいおい語っていきます。RT @naockingood: そうです。たしか7、8年前です。RT @tokuro_nukui それは今ぼくが語っている七、八年前のことですかね。それとももうちょっと最近ですか?
2011-02-14 22:28:55(昨日の続き)当時は書店さんが特定の本だけをプッシュして売るのは珍しかったので、ぼくも見てみたかった。そこで、全部の店に挨拶をして回ることにした。今でこそ小説家の書店巡りはよくあるようだが、少なくとも書店発ベストセラーが出るようになって以後では、ぼくが初めてだったはず。
2011-02-15 22:29:05