連作ついのべ vol.2 温め鳥

3~10連作程度のついのべをいくつかまとめました。 6.温め鳥 7.ワンス・アポン・ア・タイム 続きを読む
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6.温め鳥

水木ナオ @nayotaf

冬の夜風は烏の剥き出しの趾には辛く、一夜の暖をと地上に目を凝らしていると、巣から落ちたのだろうか、よたよたと地面を歩く雛鳥らしきものが目に入った。今夜の温め鳥にと捕えると、一体どちらが凍えているのだか、がたがたと震えてるのに苦笑を漏らす。まあ無理もないか。 #twnovel

2016-01-07 18:34:37
水木ナオ @nayotaf

一晩中抱え続けた雛鳥を、夜明けと共にそっと放した。きっと食われると思っていたのだろう、雛鳥はきょとんと烏を見上げた後、ちらちらこちらを振り返りながら逃げていった。その日、烏は雛鳥の去ったのとは逆の方向でしか狩りをしなかった――なんて事もあったなあ、と溜息を吐く。 #twnovel

2016-01-07 18:35:03
水木ナオ @nayotaf

「寒いのですか」自分をすっぽり包む羽の間から顔を出して、いいや、温いよと答える。満足げに頷くのは微笑む顔も恐ろしい大鷹だ。あの出来事からちょうど一年、同じ場所で寒さに震えていた烏の前に大きな鷹が舞い降りてきた時、ああこれまでかと覚悟した。大鷹の言葉を聞くまでは。 #twnovel

2016-01-07 18:35:44
水木ナオ @nayotaf

「どうぞ、中へ」聞き返す間もなく翼に覆われ、思わず「食べないのか?」と尋ねると、「なぜ恩人を!」と憤然とする。「巣から落ち、凍え死ぬ処だった雛鳥の私を狩らず、温めてくれた貴方を探していました。これから毎冬、貴方の温め鳥になります」「あ、それ違――毎冬?」「毎冬」 #twnovel

2016-01-07 18:37:05
水木ナオ @nayotaf

それが六年前のこと。毎冬、と宣言した通り、大鷹はどんなに遠くへ逃げても必ずやってきた。ぐわしと掴まれ翼の中に引き摺り込まれるのにはまだ慣れないが、もし気が変わって食われたとしても、十分お釣りのくる温かさじゃないか。誰ともなしに言い訳をして、烏はそっと目を閉じた。 #twnovel

2016-01-07 18:53:08

7.ワンス・アポン・ア・タイム

水木ナオ @nayotaf

【ワンス・アポン・ア・タイム】 bit.ly/1FAvRdW カードを出しながら、描かれた人物や物、出来事等を組み込んで全員で創作物語を綴っていき、いち早く手札を無くした上で秘密の自分の結末に導くゲーム。以下、先日6名で興じた際に生まれた物語を基に綴った連作です。

2015-03-10 12:00:41
水木ナオ @nayotaf

#1 おやお客さん、その釜を選ぶとはお目が高い。それは魔法の釜なのさ。どんなものでも美味しく味付け、皆が虜になっちまう。元は盲目の娘の持ち物だったんだけどねえ。え、それがなんでこんなところにあるかって?それはだね―― #twnovel

2015-03-10 12:03:13
水木ナオ @nayotaf

#2 むかしむかし、とある村の外れに盲目の娘が住んでいた。娘には身寄りがなく、また親しい友もいないようで、村の集まりなどでもその姿を見かけることは滅多になかった。毎朝森深くの誰もいない井戸に水を汲みにいくだけの生活。まあなんて、寂しそう?いいえ、実は。 #twnovel

2015-03-10 12:06:10
水木ナオ @nayotaf

#3 娘は井戸に着くとまずは一声、「来たわよ、私のお姫様」と底に向かって叫びます。それから桶をがらがら引き上げれば、中にはちょこんと蛙が一匹。「ごきげんいかが、お姫様」「悪くないわよ、私の魔女さん」蛙も軽快に答えます。娘は魔女で蛙は姫。なんの冗談?いやいや真実。 #twnovel

2015-03-10 12:09:20
水木ナオ @nayotaf

#4 盲目の魔女は寂しがり屋。素性を隠して村に住んでいたところ、ふらりとお姫様が現れた。お城の暮らしに飽き飽きして、民の視察と称して方々を旅していたのさ。魔女と姫は仲良くなって、けれども姫は行かねばならず、思い余った魔女はそう、魔法で姫を蛙にしたのさ。 #twnovel

2015-03-10 12:12:20
水木ナオ @nayotaf

#5 その噂の発端は村の子供らだった。「あのね、今日森の奥でね」危ないから森で遊んじゃ駄目だろうと叱る大人に構わず、子供らは自分が見たこと、聞いたことを全部話した。井戸の畔でにこやかに喋る盲目の少女と蛙のことを、二人が「お姫様」「魔女」と呼び合っていたことを。 #twnovel

2015-03-10 12:15:13
水木ナオ @nayotaf

#6 噂は国中を駆け巡り、やがて娘の帰りを待ち侘びる国王の耳にも届いた。矢も楯もたまらず王は自ら馬を飛ばし、噂の井戸へと赴いた。「来たぞ、私の姫!」桶をがらがら引きあげれば、中にはちょこんと蛙が一匹。「あらお父様、お久しゅう」「やはり姫か!なんという姿に!」 #twnovel

2015-03-10 12:18:14
水木ナオ @nayotaf

#7 「こんな姿にされて、こんな所に閉じ込められて。さあ帰ろう」涙を流す王の頬を、水かきの張った手でぺしりと撫でて、蛙は言った。「もうちょっとここに居るわ」「なに?ああ、脅されてるのか?なあに私が居る、大丈夫だ!」問答無用で懐に入れられ、蛙はそっと溜息を吐いた。 #twnovel

2015-03-10 12:21:15
水木ナオ @nayotaf

#8 王は馬を走らせる。だが川までやってきたところで、「……橋が、無い」来るときに渡ってきた立派な橋が、跡形もなく消えていた。ここを渡らねば城には帰れない。誰の仕業?それはもちろん。「魔女の所に戻りましょう」途方に暮れる王の懐から、蛙がぴょこりと顔を出した。 #twnovel

2015-03-10 12:24:15
水木ナオ @nayotaf

#9 「戻さないわよ」乱暴に開け放たれた扉の音にも振り返りもせず、窓の外に顔を向けたまま、魔女は言った。「おのれ魔女め、なんと冷酷な!姫を無理やりこんな姿にして、井戸の中に押し込めておいて!」「違うのよ」いきり立つ王を蛙が押し留めた。「私が一緒に居たかったの」 #twnovel

2015-03-10 12:27:12
水木ナオ @nayotaf

#10 「だって楽しかったんだもの。一緒にいてこんなに心地よい人、今までいなかったわ。だから魔法を掛けてもらったのよ。連れ戻されないよう姫と分からない姿にしてもらって、外敵の入ってこない井戸に隠してもらったの。逃げたかったら、桶で上がった時にとっくに逃げてたわ」 #twnovel

2015-03-10 12:30:11
水木ナオ @nayotaf

#11 だから、と言いかけた蛙の姿が、みるみる姫に戻っていく。「あんたが望んでいたなんて知らなかった。だったら逆に戻してやる。さっさと城にお帰り。私は魔女よ。悪さしかしないわ」王に手を引かれ、悲しげに部屋を後にする姫を、魔女はとうとう振り返りはしなかった。 #twnovel

2015-03-10 12:33:12
水木ナオ @nayotaf

#12 それから一月余りが経った。「……何しに来たの」扉を開けた魔女が苦々しく呟く。「はい、これ」城に帰ったはずの姫の声と共に、手にずしりとした感触が。「これはね、魔法の釜。どんなものでも美味しく味付け、皆が虜になってしまう、これを私は魔女に奪われてしまうの」 #twnovel

2015-03-10 12:36:21
水木ナオ @nayotaf

#13 「え?」「その魔女は悪さが大好きで、お姫さまを蛙にして閉じ込めたり、橋を消したりしたのだけれど、今度は魔法の釜を奪って、毎日美味しい料理を作るのよ。そしてお姫さまはその料理が食べたくて、仕方なく魔女のもとに通ってしまうのです」姫はふふっと笑みを零した。 #twnovel

2015-03-10 12:39:16
水木ナオ @nayotaf

#14 ややくぐもった声で、魔女は問う。「……大事な物なんでしょう?」「お父様はかんかんね」「お姫さまは、渋々来るのよね?」「こんな美味しい魔女の手料理を、他の人に食べさせるわけにはいかないものね」「私は、悪い魔女かしら」「一国の姫を惑わせる傾国の魔女ね」 #twnovel

2015-03-10 12:42:20
水木ナオ @nayotaf

#15 ぎゅっと釜を抱きしめて、それじゃあ、と魔女は顔をあげた。晴れやかな色を顔に浮かべて、「悪い魔女はこれからキャベツたっぷりのポトフをじっくり作ってやろうと思うのだけれど」と言えば、なんて恐ろしいこと、と嬉しそうな悲鳴があがって。「今日はもう帰れないわね!」 #twnovel

2015-03-10 12:45:16
水木ナオ @nayotaf

#16 ――え?それで、って?ああ、だからなんでその釜がここにあるのかって話だったねえ。魔法の釜なんてなくても魔女と姫は会えるようになったから?それとも二人は引き離されて、釜も奪われてしまったから?さあて、お客さんならこの物語の結末、どう美味しく味付けするかね? #twnovel

2015-03-10 12:48:11
水木ナオ @nayotaf

以上、「寂しがり屋の盲目の魔女が、とある国の王女様を蛙に変えたり、川の橋を消したりして悪さをするが、王様から美味しい料理が出来る釜を贈られて改心する話」でした。他5名の「共著者」に捧げます。

2015-03-10 12:51:08