ショーグンは彼を睨みつけながら言った。「〈帝国狩猟長〉に、この命を届けよ。……〈雷虎〉を生け捕り、余のもとへ戻るべし。さもなくば、余は〈狩猟長〉とその一族郎党を、イザナミ神の晩餐の席へと送る。レディ・イザナミ、〈死の母〉、〈千と一のオニを黒き胎より生み出したる女神〉のもとへな」
2016-09-22 23:30:27「ですが、マイロード。御身の海軍は……全てのスカイシップは現在、輝かしき大戦争か、〈蓮〉農場のために割り振られております。ロータス・ギルドは決して」「決して、何だ?ギルドが余の命令を拒むとでも?ヒデオ=サン、ギルドの意志などどうでもよい。お前が考えるべきは、余の意志だけであろう」
2016-09-22 23:33:39処刑者の振るう刃のごとき、一瞬の沈黙が走った。「……ハイ、マイロード。仰せの通りに」「うむ」ヨリトモは頷き、再び窓のほうを向いた。「余は、朝食前の宴を所望する。ゲイシャを3人連れて参れ」「仰せの通りに」ヒデオはその老いた背と腰で、可能な限り深いオジギの姿勢を取った。
2016-09-22 23:38:47ヒデオはその最敬礼姿勢のまま、ショーグンに対して失礼の無い距離までゆっくりと退き、部屋を出た。彼は荘厳な装飾が施された戸を閉じ、ショーグンの寝所を囲む〈ナイチンゲール張り〉の廊下を進む。この床を歩くたびに、草履の下では、鳥の鳴き声を模したキュッキュッという音が鳴るのだ。
2016-09-22 23:46:23ヒデオは廊下を渡る。寝所の薄壁には、細長く切られた血のように赤い半紙が何枚も貼られている。これは魔除けの一種であり、そこには守護の呪文が、太い筆と黒墨で力強くしたためられているのだ。天井には機械仕掛けの換気扇がいくつも回転し、うだるような熱気に対して、無益な戦いを挑み続けている。
2016-09-22 23:49:03全ての戸口には、トラ・クランの守護精霊を象った荘厳な御影石製の像が並ぶ。すなわち、前脚を威圧的にふりかざす〈猛虎〉である。〈猛虎〉はあらゆるカミ・スピリットの中で、最も恐るべき存在だ。これら石像の横にはショーグンの近衛部隊であるカズミツ・エリートが2人ずつ立ち、守りを固めている。
2016-09-22 23:53:54この屈強なるサムライたちは皆、床に達するほど長い黄金のジンバオリを羽織り、右手は常にチェーンソー・カタナの柄を握りしめている。カズミツ・エリートたちは、ヒデオが退出してゆくのを無言のまま見つめていた。彼らはいつも〈猛虎〉の石像の如く、身じろぎひとつせず、物音ひとつ立てないのだ。
2016-09-22 23:57:49どうにか急場をやりすごし、天守閣を出たヒデオは、ソクタイ・ローブの長い袖で、額の汗を拭い去る。彼が通ってきた道には、骨キセルから立ち上った青黒い煙が、未だに吹きだまっていた。「フゥーッ……」ヒデオは重い息を吐きながら、歩行杖でコツコツと床板を鳴す。胃が裏返りそうな気分だった。
2016-09-23 00:02:15(親愛なる読者の皆さんへ:ストームダンサーのTwitterプレビュー版は、いつものようにリアルタイムで140文字投稿して皆さんにお届けしているので、タイプ担当者によるタイプ事故等が発生することもありますが、書籍版では140文字区切りなどもなく問題ありませんのでごあんしんください)
2016-09-23 00:20:38