ヘクトールおじさんとロビンくん。(その3)
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ヘクトールおじさんとロビンくんの義親子ヘクロビ妄想はじめるよ~ 前々回 togetter.com/li/1024758 前回 togetter.com/li/1027284
2016-09-23 22:21:15あれよあれよと時間は過ぎて、ロビンくんも高校三年生、いわゆる受験生だなぁ、と夕飯の席で呟いてみれば「あ、俺、もう就職するから」と軽く言われ、面食らっちまった。普通に大学行くもんだと思って、貯金してたからね、オジサンもう完全にお父さん気分だったから。国立でも私立でもどんとこいって。
2016-09-23 22:28:55「やー、俺なんかが大学なんて畏れ多いこと言えねーって」「なんだよ、ロビンくん、成績いいから結構上の方狙えるのに」「そういうのじゃなくて……」ロビンくんは言いにくそうに俯いて、ぽつりと言った。「こんだけ恩があるのに、これ以上いっぱい良くしてもらうの、気が引けるっていうか……」って。
2016-09-23 22:37:37「なーに気を使ってんだ、子どもが」と頭をわしゃわしゃ撫でてやると、「もう子どもじゃねーですし」とロビンくんはむくれる。むくれる時の顔は、小さな頃から変わっていない。「遠慮なんてしなくていいさ、今更気をつかわれたらオジサン逆に悲しいよ」と言うと、ロビンくんは「そうですかい」と俯く。
2016-09-23 22:48:05「まだなんか悩んでんの?オジサンに言えない話?」って聞くと、ロビンくんは首を横に振って、「や、なんでもねーっす」と困ったように笑う。嘘を吐いている時の顔だ。ここで追及してもいいんだけど、ロビンくんだって秘密にしておきたいことの一つや二つ、あるだろう。オジサン気が利くねぇ、全く。
2016-09-23 22:58:31後日、ロビンくんの進路相談の為の面談があるので、休みを取って学校に行った。担任の先生の話を聞いてると、ロビンくんがいかにいい子かよくわかる。素行も成績も人当たりも。やー、これはオジサンの教育がよかったからねぇ、と冗談めかして言えば、ロビンくんははにかむように微笑む。
2016-09-23 23:02:04微笑みながら「そっすね、いい親父を持ちました」って。それを聞いた瞬間、ロビンくんが来た日のことから今までの記憶が、だーっと走馬燈みたいに流れて、気が付くとぽろっと涙が零れた。44にもなると涙腺も緩むもんなんだなぁ。涙が止まらなくなっちまって、ロビンくんと先生を心配させちまった。
2016-09-23 23:06:21結局、ロビンくんは家から通える国公立大を目指すことになった。偏差値はかなり高いけど、今の成績なら充分狙える範囲だ。それにしても、親父、親父か。いい言葉だ。オジサン、ロビンくんのこともう本当の息子だと思ってたし、いつか言おうとしてたけど、先越されちまうたぁな。嬉しい誤算ってやつだ。
2016-09-23 23:12:26夕焼けの帰り道、ロビンくんと並んで歩く。ロビンくんも背が伸びた。立派な男になった。ついでに言うといい男だ。オジサンちょっと妬けちまう。いやいや、オジサンのが背も高いし逞しいぜ。でも最近は細身の男の方がモテるらしいし、ロビンくんもモテモテなんだろうなぁ。……ちゃんと恋してるかなぁ。
2016-09-23 23:20:14ロビンくんの十五歳の夜のことは、なかったことにしてるのが俺たちの不文律だ。今のロビンくんが俺のことをどう思っているかはわからない。でも、俺のことを「親父」って呼んだということは、つまりそういうことなんだろう。ようやく肩の荷が下りたよ。あとはいい人連れてきてくれたら完璧なんだけど。
2016-09-23 23:24:42十字路で信号を待っていると、ロビンくんが「なぁ」とオジサンを見上げてくる。「夕飯、何食いたい?」「作ってくれんの?」「まあ……」照れたようなロビンくんの笑顔が、掻き消える。
2016-09-23 23:28:15ロビンは春の夕焼けの中、立ち尽くす。
空の赤の中。血の赤の中。
何が起こった?トラック?運転手が降りてくる。人が集まってくる。周りが騒がしい。シャッター音。電話の音。俺のローファーにじわりと赤い液体が染みてくる。俺は立ち尽くしている。誰かが俺に話しかけてくる。俺は、俺は、理解を拒んでいる。誰かが俺の腕を掴んで引く。救急車の、サイレンの音。
2016-09-23 23:36:28ここでアンケート。次の場面を霊安室にするか、ICUにするか。
結果は同票。
ええ……(困惑)じゃあこのツイートに初めにリプライきた方にします。リプライ来なかったらここで打ち切ります。1か2でいいです。1が霊安室ルート、2がICUルート。
2016-09-23 23:45:17リプライいただきました。ICUルート入ります。命拾いしたね、ヘクおじ。 twitter.com/anco_rrrr/stat…
2016-09-23 23:56:18俺はICUにいる。ベッドで寝てるオッサンに繋がる管、一つでも抜いたら死んじまうのかな、って思った。あ、いやそれはねーか。バイタル計ってるやつもあるし、ナースがすっ飛んできて俺をぶん殴るくらいだろう。うん、俺は冷静だ。オッサンがトラックにはねられて意識不明。それだけだ。
2016-09-24 00:05:16意識が戻るのがいつになるかはわからない。そもそも戻るかすらわからない。強めに頭打ったから。まあトラック相手だと仕方ねーか。俺だってトラックに勝てる気しねぇし。こういう時、被害者家族ってどういう反応したらいいわけ?手を握って声かけるとか?泣くとか?……なんかどれもピンと来なかった。
2016-09-24 00:10:31あ、そういえば明日も学校だ。帰らねーと。受験勉強もしねーと。「それじゃあ」眠るオッサンに一声かけて、俺は家に……ああ、ここまでは救急車乗ってきたけど、アシがねぇわ。タクシーとかありゃ楽なんだろうけど、金ないし。仕方ない。歩くか。
2016-09-24 00:16:41女子供じゃねぇから、夜道歩いても大丈夫なのはいい。外は真っ暗で、ぽつぽつと街灯が道を照らしてる。何キロくらい歩くんだろ。てか道これで合ってんのか? つか何時だ?鞄の中からスマホを出したら、深夜一時だ。早く帰らねえと。明日も学校だ。受験勉強もしねーと。帰らなきゃ。家に。走らなきゃ。
2016-09-24 00:19:40春の夜の風は生暖かく、走る俺の頬をすべっていった。走る。めちゃくちゃに。どこを走ってるかわかりやしない。やがてどっかの橋を走ってる時、脚がもつれて転んだ。立ち上がらねーと。走らねーと。けど、身体が言うことを聞かない。たまに行き来する車のライトに照らされながら、俺は初めて泣いた。
2016-09-24 00:31:24