【HYDE】次元を越えて。

歪みを正したその先で、新たな未来が始動する。 交差する二つの魂、その願い。 その先で、彼らが見るものとは。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「頼む」。語調が強くなる。イースの声に、強い心の叫びが宿った。「俺は、彼女に…笑っていてほしい。これから先、たとえ俺が彼女の隣に居なくとも…。彼女には共に歩む人が、守ってくれる人が必要なんだ」。そう、かつてその"強さ"を、彼女に教えてくれたのは。49

2016-09-27 00:00:03
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「自分だけじゃなく、他者と一緒に生きることを。誰かを守りたいと願う心が、彼女を強くする。だから、隣に誰か居てあげないといけないんだ」。己のあるべき姿は、"彼女の隣に居る"という事を、決して許してはくれない。言葉を発する度、彼の心に小さな痛みが広がっていく。幾重にも、何度も。50

2016-09-27 00:00:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…それが俺である必要は」。何かを感じ取ったのか、相手の声色が少しだけ変わった気がした。交じり合う視線は、互いの想いを見透かすように。己であり、己ではない存在へ。「貴方じゃなきゃ、ダメなんだ」。これは、最初で最後の。「それ以上は何も望まない。俺の体は…元々"貴方のものだ"」。51

2016-09-27 00:02:00
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

目の前の彼は、何も言わない。何も言わずに、ただ。その狂おしくも美しく煌く瞳で、イースを見つめるだけ。「…俺という存在は、貴方に捧げる。だから…」。そう。だからせめて、この想いだけは。せめて、この想いを、切なる願いを―――貴方に、託したい。「…約束はできんぞ」。52

2016-09-27 00:03:12
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

心からの願いに、叫びに。答えとしてそう告げた彼の声は。「…あぁ、」。イースは微笑んだ。この心が訴える声は、きっと"彼"に届いたのだろう。寂しさも、悲しさも。己の胸の奥深くへと押し込んで。「彼女を…ハイドを、頼みます」。笑ってそう言ったイースの瞳は、優しく揺らめいていた。53

2016-09-27 00:04:12
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…ふん」。ゆっくりと消えていく彼を見送りながら、願いを託された人物は、静かに瞳を閉じた。己の存在を、この命の鼓動を。そして、先のイースの願いを今一度、脳裏に蘇らせながら―――。54

2016-09-27 00:04:52
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「……俺の、名は……!」。意識が混同する。記憶が錯綜する。混ざり合うそれらは、しかし彼の心にその名を、魂を示す。《何をわけのわからねえ事を言ってんだ》。瞬く間に距離を詰めたその巨躯は、とどまるイースに向けて赤く疼く腕を振り下ろした。56

2016-09-27 00:06:01
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

先程と同じ挙動。地面を抉り取り大地を揺るがす一撃を、その身に受けしまったら。《所詮その程度かよ!》。避けきれない。荒鉤爪の剛腕が、イースのいた場所を踏み荒らす瞬間、ハイドの視界から彼が消える。「…そ、んな……」。"イース"。彼を呼ぶ声と、悲痛な叫び声。57

2016-09-27 00:07:16
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースの持つ盾斧は攻撃を受け流すと、その姿を変えて。反撃の一撃は至近距離の腕を捉え、その動きを相殺する。《―――!?》。ただならぬ雰囲気に、初めて巨躯が後退った。様子を伺うように、イースを睨むように見据える。《…なんだ、さっきと様子が違うじゃねえかよ。なんなんだてめえは!》。58

2016-09-27 00:08:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

全てをその目で見たハイドもまた、言葉を失っていた。イースを纏う何かが、変わったのがわかる。「…イース……お前は…」。まさか、まさかと。今まで感じていた事が。次元をも超える記憶達の叫びが。今、答えを告げる。ハイドの視線の先。ゆっくりと体を起こしたイースは、その顔を上げた。59

2016-09-27 00:09:56
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

銀色の髪の合間から見えるは、狂おしいほどに―――紅い瞳「……俺は、ベルゼ。…仮面ベルゼ」。手に構えた斧を、片手で振るう。ゆっくりと持ち上げられたそれは、対峙する青きティガレックスへと向けられた。 「…お前の絶望は…どんな味がするんだ?」。60

2016-09-27 00:10:35
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

爆音と轟音が響き渡り、絶えず巻き上げられる砂は視界を奪う。振りかざす刃と刃のぶつかり合う音が、幾度となく空気を揺るがす。ただでさえ動きの速い荒鉤爪の隙を見出すのは至難の技。「…!」。ここか。着地した奴の足元、今なら。考え巡らせる意思は瞬時に軌跡を探し出し、確実に狙いを定める。62

2016-09-27 00:12:51
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

…が。「…ッ!?」。俺の意思は、確かに前へと踏み出した。手に持つ斧を引き、距離を詰める為に地を蹴った…はず。だが、この体はまだ俺の意思についてきてはくれない。「…チッ!」。この一瞬の隙でさえ、荒鉤爪は見逃さない。間近に迫った爪を咄嗟に変形時のガードポイントを駆使していなす。63

2016-09-27 00:13:39
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

盾で防いだとはいえその一撃は重く、俺はそのまま数メートル弾き飛ばされる。幸い、受け身を取る事はこの体も許してくれたようだ。「…ッはぁ、…!」。息が上がる。無理もない…この体は、もとはといえば"奴のもの"。俺と魂を分かち合う存在だとしても、すぐに動きこなせるわけがない。64

2016-09-27 00:14:47
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

盾で防いだとはいえその一撃は重く、俺はそのまま数メートル弾き飛ばされる。幸い、受け身を取る事はこの体も許してくれたようだ。「…ッはぁ、…!」。息が上がる。無理もない…この体は、もとはといえば"奴のもの"。俺と魂を分かち合う存在だとしても、すぐに動きこなせるわけがない。64

2016-09-27 00:14:47
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

《おいおい、この程度か?》。そんな間にも、荒鉤爪は猛攻を緩めない。全く、血の気が多いのは他の種と何ら変わりはしない…。小さく皮肉を浮かべながら、剣に変形させた相棒を振るい、幾度となく振りかざされる爪を盾でいなす。「…く、…!」。しかし、奴の一撃の重さは俺の体力を遥かに凌ぐ。65

2016-09-27 00:15:20
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

このままだと、俺が力尽きるのが先になってしまう。…どうするか。「…それならば」。荒鉤爪の振り上げられた腕を、己との距離が限りなく近くなった際の絶妙なタイミングで防ぎ、それを盾斧の力に変える。カチッ、と小さく音が鳴るのが聞こえた。「……後は、見定めるだけ」。66

2016-09-27 00:17:16
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

力を纏い、オーラを宿した盾斧を再び構え直し、俺は荒鉤爪を見据えた。そう、どこかで必ずその時は来る。あとは、この体力が尽きる前に…見出せばいいだけだ。67

2016-09-27 00:17:33
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「防戦一方、じゃないか…」。俺達の戦いの一部始終を見ていたハイドにも、状況が劣勢なのは見て取れただろう。視線だけを動かして彼女を見やる、と。動けない、のか。無慈悲に襲い掛かる荒鉤爪の連撃を盾でいなしながら、少しばかり距離を取る。69

2016-09-27 00:19:04
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

…それもそうか。あいつからすれば、今の状況は受け入れ難いものだろう。動きたいのに動けない―――差し詰めそんなところだろう。「…ッ!?」。不意に、俺の目の前で荒鉤爪が体の向きを変えた。馬鹿な、一体どこを狙うつもり…。思考回路が答えを導き出すとほぼ同時。70

2016-09-27 00:20:13
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

荒鉤爪の赤く煌く腕が、地を擦るように走る。「―――ッくそ!」。間に合うか。俺はありったけの力を脚に集中させ、奴が狙う先へと飛ぶ。間一髪のところで構えた盾を開き、迫る大岩を受け止めた。そのまま、中の爆薬を炸裂させて岩を砕く。破片がそこらかしこへと飛び散るのが見えた。71

2016-09-27 00:20:43
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

砂煙の上がる中、徐々に晴れる視界の先の存在を見据える。「……どうした。囮に頼らなければならないなど…」。俺の背後には、未だ動けない人間の姿。奴は、彼女を狙う事で、必然的に俺の隙を突くつもりだったのだろうが。……舐められたものだ。「……俺を、恐れているのか?」。72

2016-09-27 00:21:37