とうらぶ 残穢パロまとめ

自分が楽しむ用まとめ
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モーラベちさ @ino_chisa

「鵺、どうした」その隣で獅子王が、同じく肩に乗せた相棒を何やら気遣っている。カッカと笑う山伏を背に、屋敷の様子を伺うよう、長谷部が険しく目を細めた。「これは『本丸』なのかもな。だが妙だ、何の気配も感じられない。それに人里離れているとはいえ、これでは発見されても可笑しくないぞ」

2016-08-15 20:00:39
モーラベちさ @ino_chisa

「様子見がてら、住人に忠告する必要があるな。通常本丸は一般の目に触れぬようなっているが、何らかの不具合でこの空間に現出してしまったのかもしれん」言葉を続けながら屋敷へと歩み寄る長谷部を、ちょい待ったと、獅子王が制止した。「今日はあんたじゃない、ちゃんと隊長殿の指示を仰ごうぜ?」

2016-08-15 20:14:31
モーラベちさ @ino_chisa

そう獅子王に笑いかけられて、後藤は思わず背筋を伸ばした。漸く特が付いたからと、この度初めて隊長を任されたのだ。「そうだったな、悪かった。お前はどうしたい、後藤藤四郎」足を止め、長谷部も正面から向き直った。他の部隊員の視線を受け、思わず咳払いする「…長谷部の言う通りだ。行こうぜ」

2016-08-15 20:29:03
モーラベちさ @ino_chisa

門を潜り閑散とした庭を抜けるまで人影はなく、玄関から中へ呼びかけても反応はなかった。「総出か?一振りくらい残しておけばいいものを・・・」「こんな静かなところに一振りだけで留守番するなんて、寂しくて嫌だよ」「違いねえ」岩融、蛍丸、御手杵が口々にぼやく。「後藤」長谷部が何かを手渡した

2016-08-15 20:47:55
モーラベちさ @ino_chisa

「通信機だ。何か気付いたことがあれば、お前が逐一録音しろ。万が一この本丸に何かがあったとして、その通話記録が後々役に立つ」こういう情報収集も主命の一環だ。そう言うと長谷部は屋敷の中へと踏み入った。断りもなく、と咎めようとして気付く。何かがおかしい。この屋敷には生活の匂いがしない。

2016-08-15 20:55:20
モーラベちさ @ino_chisa

【通信記録】『(数秒のノイズ)俺達は色々と部屋を回ってみた。どの部屋もいやに埃っぽくて、空気が澱んでる。まるで長い間誰も住んでないみたいだ。炊事場に積まれてる野菜も腐ってるし、割れた茶碗も転がってる。これじゃまるで――待った、(ノイズ、通話が一度途切れる)』

2016-08-15 21:05:06
モーラベちさ @ino_chisa

「どうした後藤」急に足を止めた後藤を獅子王が気遣う。後藤は頭上の欄間を見据えたまま、ゆっくりとそれを指差した「…今、そこから誰かが覗いていた」つられて皆それに視線を向けたが、続いたのは笑いだった「この天井の高さだ。あんなところに誰の顔が届く」「俺のつむじだって見えないくらいだぜ」

2016-08-15 21:13:01
モーラベちさ @ino_chisa

岩融と御手杵に続き、獅子王が茶化す「お前、幾ら自分がでかくなりたいからって夢見るなよ」だがその笑顔のまま、そっと耳打ちした「…でも次見つけたらすぐ俺に言えよ。鵺を行かすから」背丈を伸ばしたい短刀と持ち主の為の小柄な背丈を誇る太刀は、そのポリシーこそ真逆だが友人のよう昵懇の仲だった

2016-08-15 21:27:53
モーラベちさ @ino_chisa

まだ日没まで時間があるというのに、座敷の奥へと進むにつれ障子を透かす光が弱まり、薄暗い室内は不自然なまでに底冷えている。申し合わせたわけではないのに、いつの間にか皆無言だった。床板の軋む音と、時折柱を小突き、何かを唱える山伏の低い囁きだけが静寂を乱していた。

2016-08-15 21:40:18
モーラベちさ @ino_chisa

「蛍がいる」突如、蛍丸が奥の間を指差した「チラチラ、光ってた」「室内にか?そんな時間でもないだろう」長谷部は否定したが、その方向へと御手杵が歩を進める。幾つかの障子を開く音が聞こえ、最後に「おい、来てみろよ」と呼ぶ声がした。辿り着いた再奥の間は一層暗く、襖越しだと中が殆ど伺えない

2016-08-15 21:51:18
モーラベちさ @ino_chisa

「この奥から音がしたんだ」御手杵は襖に手をかけるが、立て付けが悪いのか僅かに開いた位置から微動だにしない。どけ、と言うが同時長谷部が襖を袈裟斬りにした。剣呑な対処だが、どれを非難するような気性の刀はいなかった。一番の新参である後藤だけが息を飲み、本丸の主に心で詫びながら室内を覗く

2016-08-15 22:02:53
モーラベちさ @ino_chisa

暗い室内は、僅かに差し込む光では中に何があるか伺えなかった。闇に首を突っ込むと、埃っぽさと、何かが据えた匂いが鼻を突き思わず噎せ返る。だが隊長としての矜持が、誰よりも先に部屋へ進むことを己に強いた。気を取り直して一歩踏み入り、その気が折れた。ギャっと声を上げる。床が、ぶよと沈んだ

2016-08-15 22:09:32
モーラベちさ @ino_chisa

背後から長谷部が灯りを掲げた。万が一の夜戦を想定してか、彼が用意していた灯に照らされたそれは、床一面に敷き詰められた布団だった。八畳ほどの座敷に、組み木のように縦横に、畳が見えない程にそれが敷かれている。奇妙なのは枕の置き方だった。どの枕も布団の角に置かれている。全てが同じ方角に

2016-08-15 22:21:40
モーラベちさ @ino_chisa

「皆、北の方角に枕が置かれておる」山伏が静かに呟いた。「北枕とでも?莫迦な。寝相が悪くて蹴飛ばしたのだろう」長谷部が毒づく。「いや、わざとだな」岩融が低く反駁した。「奥に立ててある屏風を見てみろ」皆一様に奥を見た。一見気づかないそれはよくよく見れば「絵が逆さだ。逆に立ててある」

2016-08-15 22:28:13
モーラベちさ @ino_chisa

「死人の為の部屋ってことか?」獅子王が奥に進みながら、しきりに相棒をあやしていた。鵺の低い唸り声が、すっかり入口で硬直した後藤の耳にまで届く。「汚れた室内、長い不在に加え珍妙な部屋まで設える――後藤!通信記録で残しておけ、この本丸の住人がとんだ怠惰な連中だということを」

2016-08-15 22:43:38
モーラベちさ @ino_chisa

【通信記録】「(先程より強いノイズ)――というわけで、奥にはこんな場所があった。言っておくけど、俺は別にビビってるワケじゃない。だけど、これ以上探索するのは…正直気が進まない。何か嫌な雰囲気がするんだ。それに俺は短刀なのに、ここの闇は殆ど目が効かなくて、気味悪いんだ…おい!?」

2016-08-15 22:50:11
モーラベちさ @ino_chisa

【通信記録】(マイクから離れたか、遠くから聞こえる声)「御手杵の兄ちゃん、何してるんだよ!」「いや何かめくったら、隠し扉を見つけたんだ」「階段だよ、これ地下に繋がってるのかな?」「俺達ではギリギリ通れるか否かだな」「待った、まさか降りる気なのかよ?」「そりゃ見つけたからにはなあ」

2016-08-15 22:57:02
モーラベちさ @ino_chisa

【通信記録】「最後まで調べなくては、正確な報告も出来ないからな」「ま、待ってくれよ!」(複数人が階段を下りる音)「何かおかしい、俺達本当に進んでいいのか?此処何か変だぜ、まだ昼なのにこんなに暗くて、寒いくらい涼しくて、静かで…何で静かなんだ?蝉の声は?あんなにうるさかったのに!」

2016-08-15 23:04:21
モーラベちさ @ino_chisa

【通信記録】(ノイズが急に強くなる)「みんな待てよ!もう降りたのか?早すぎるだろ、こんなに狭い階段、そんなに急に降りられるのか?こん・・・暗・・・待・・・の、あ、・・・・・・での、か・・・(音声が殆ど不明瞭になる)・・・なんだ、ここ――(通信中断)」

2016-08-15 23:10:51
モーラベちさ @ino_chisa

目を凝らすと、階段を下りた先が広い空間であることがわかった。手探りで進む。時折足元から吹く冷たい風が脛を撫でて、声を出しそうになるのを必死に堪えては、腹腔に息を溜める。右手で自身である短刀の柄を握った。その馴染んだ感触に、些か平静を取り戻し――そしてそれが瞬時に奪われた

2016-08-15 23:26:29
モーラベちさ @ino_chisa

気配がする。一人、二人ではない。勿論仲間のものでもない。この空間に犇めく、無数の気配を感じた。即座に抜刀し、気配に向けて構えるも、右に左に上下、すぐ後ろに、そして眼前に迫る気配に、どう立ち回ればいいのか見当もつかない。先に進んだ仲間達を案じつつも、最後に意識は自分の胸元に向いた。

2016-08-15 23:34:21
モーラベちさ @ino_chisa

そこには昨夜、自分が初めて隊長を任されたと聞き、兄から送られたお守りが下がっていた。どのような敵でも怖じることなく、最後まで戦い抜いてこそ刀の誉れ。そう自他へと訓戒する刀の、それでも兄としての情がこれを授けた。どうか無事に帰れと自分の懐へ忍ばせた。いち兄ごめん、きっともう帰れない

2016-08-15 23:42:52
モーラベちさ @ino_chisa

刹那、眼前に一閃の太刀筋が走り、すぐ傍らに見知った気配を感じた「後藤藤四郎――」ストラを険しく翻しながら「逃げろ!」鬼気迫る紫の瞳が叫ぶ「他の連中はもう駄目だ!」部隊員の中では彼が一番練度が高いからか、それとも他の面子が室内戦に向かない者達だからか、ただ疑念は一瞬で絶望に変わった

2016-08-15 23:53:33
モーラベちさ @ino_chisa

「俺が引きつける、お前だけでも――」長谷部の姿が闇に消える。後藤の抜刀の姿勢は崩れない。見えない敵に対峙しながら闇に叫ぶ「俺も戦う!俺は隊長だろ!隊員を残して逃げられるかよ!」闇が返す「隊長だから確実に生き残り、この状況を伝えろと言っている!さもなくば、被害が連鎖するだけだ!」

2016-08-16 00:00:06
モーラベちさ @ino_chisa

確かに自分達を捜しに他の部隊が此処へ来れば、自分達のよう何の情報もなく奥へと踏み入ったら、鼠取りが鼠に、その鼠が自分の可愛い弟達であったらーー「早く行け!!」闇がもう一度叫ぶ。その切迫した声に押され、遂に後藤は駆け出した。前も後ろも殆ど見えない。冷たい風に足が縺れて思わず転んだ。

2016-08-16 00:05:45
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