#ダークエルフ王国見聞録　その３

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

一番鶏が鳴き、西にある湖の水面が朝日に染まりだす頃に我々は起床し、身支度を整える。ダークエルフの女性達は昨日までの正装ではなく、村で着ているような質素で実用的な服装をしている。徴税官がこの部族長の町に来る明日まで、今日の内に村の産物を現金化する必要がある #ダークエルフ王国見聞録

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族長の館で、村ではあまり食べない小麦のパン、腸詰と玉葱をとじたオムレツ、根菜のスープの朝食を頂いた後、土蔵のある郭へ向かう。土蔵の前には預けていた荷馬車が城兵によってつながれており、奴隷の男オーガが支持を受けながらせっせと木箱や樽を荷台に乗せていた #ダークエルフ王国見聞録

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昨日、土蔵に保管されていた村の産物の内、木の軸に定まった量を巻いた大蜘蛛糸や、天蚕糸の絹布、鷹羽の束、茸などの薬種はそのまま物納するものであり、そのまま土蔵に残していく。嵩張らず、比較的軽いものが中心であり、王都への輸送の便も考えられている様だ #ダークエルフ王国見聞録

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これに対し、各種食料品や毛皮、炭などの産物は、各里から納税のために人々が町に集まる時期に開かれる市で売り買いされ、現金化される。その現金の一部を税に当てると共に、村に入用なものも購入する。また、村から税として持参した貨幣も、撰銭・両替を町でする必要がある #ダークエルフ王国見聞録

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私と女戦士、荷が積まれた馬車を動かす女獣使いは物資の売り買いを、村長とその他の女性達は銅貨と銀貨の詰まった袋を持ち、両替商への持ち込みを担当することとなった 「村長として、色々行くところもありますので、売り買いの方はお願いしますね」 #ダークエルフ王国見聞録

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村長達と城門からしばらくのところの辻で別れ、我々はこの里の産物を長く扱っている商人の店まで向かうことになった。 「商いはよく分からん。同じダークエルフ、信頼を以て言い値で買い、言い値で売る」と女戦士 「私もそんなものですね～」と女獣使い。先行き不安である #ダークエルフ王国見聞録

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我々が向かう商人の店は、納税に関わるために大量に集積される物資の扱いを国家から許可された、いわば御用商である。ダークエルフ王国に、統制品という概念は一部を除いて無い様であり、自由に物の売り買いをしてよいものの、「大量の物資の移動」には許可が必要である #ダークエルフ王国見聞録

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特に、小麦、木材、玉鋼やミスリルなど戦略物資となるものや、酒や塩などについては売買は自由にされるものの、例えば王の天領や貴族の直轄地や各部族の支配地内での移動は自由ながら、他の地域へ一定量を超えて移動させるには許可を有する商人が関わる必要がある #ダークエルフ王国見聞録

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人間の里まで産物を売りに来ていた利発な兄弟を連れて来ればよかったのではと聞いたが、どうやら納税については大人の仕事という決まりらしい。そうこうしている内に、町の真ん中を通る表通りから１本東の通りに位置する、土蔵をいくつか備えた商店の前に到着した #ダークエルフ王国見聞録

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店内に入ると、まずエルフの少年の丁稚が我々を出迎える。奴隷かと思いきや、首輪・手枷の類は見えない。人間の私には物珍しいものも含め、様々な商品が雑多な様で何かしらの法則に整理されて積み上げられた店内の奥に、煙管を咥えた黒髪の女店主が帳面台に座っていた #ダークエルフ王国見聞録

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「店主殿、今年も世話になる」 ダークエルフの女戦士がゆったりと紫煙を吐き出す店主にお辞儀をする。 「今年もよい商いをさせて頂けると嬉しいですわ。ともあれ、まずはお茶など召し上がり下さい」 女店主は店の奥にある客間に我々を案内する #ダークエルフ王国見聞録

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このごろの天候の話などをよく磨かれた黒木の長机で交している我々にエルフの少年が茶と菓子を漆盆に載せて持ってくる。 草木が描かれた茶壺から少年エルフの丁稚によってカップに注がれたお茶は豊かなハープの香りのするお茶であった #ダークエルフ王国見聞録

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「しかし、今年は珍しいお方が同行しておりますね。人間の男とは・・・。我々の商売に興味がおありで？人間は何でも売り買いしますから、例えばダークエルフの女奴隷なども」 商人らしく抜け目のない視線に少々の嗜虐の光を絡めさせながら女店主はこちらに問いかける #ダークエルフ王国見聞録

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「い、いや、店主殿。気を悪くしないで頂きたいが、これは我々の里の客人でな。なにやらみんぞくがくなる学問を修める学士で、無害な人間であるぞ」 「そ、そうですよ、この人間に比べたら森の牡鹿の方がよほど有害」 戦士と獣使いは商売相手の気を悪くしたのかと心配げだ #ダークエルフ王国見聞録

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奴隷狩りなどをする輩と一緒にされるのも癪であるので、自分はそのような行為に加担していないことを述べ、ダークエルフも他種族の奴婢を使役していることを女店主に問う。 同行の二人は少々不安げな視線をこちらに寄せている #ダークエルフ王国見聞録

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「我々は戦場で捕虜を取り、奴婢にすることはあっても、無辜の民を襲って奴隷などにしませんわ。そこのエルフも奴隷ではなく、オークに襲われた村から流れて来た者をこちらで保護しているだけですわ」 戦いの民としての矜持からか、やや不興を覚えた表情で女店主は言う #ダークエルフ王国見聞録

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「まぁ、誤解が解けたならばよろしいですわ。種族が異なれば習慣も倫理も異なるし、理解し合うのは難しいです。人間の先生も、みんぞくがくとやらを修めているのであれば、それはよくご存じのハズでは？」 もう、この議論は終わりであると女店主は紫煙を吐き出す #ダークエルフ王国見聞録

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店の外では荷馬車から里の産物が店の者達の手によって下ろされ、帳面に種類と量が羊皮紙に記録されてゆく。番頭から紙を受け取った店主が帳面台にそれを置き、手にした渡鴉の羽ペンで紙に引取り値を書き足し、我々に示してくる 「このくらいでいかがかしら？」 #ダークエルフ王国見聞録

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普段は里で獣達を使役し快活に振る舞う女獣使いも、巨躯のオーガや大熊にも恐れを抱かぬ女戦士も、商売という空間には不向きなようで、漠然と「うむ、ありがたい」「いいお値段じゃないですかね」と書かれた額面をよく確かめもせずに頷いている。 #ダークエルフ王国見聞録

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羊皮紙を受け取って額面を見やれば、決して悪い取引値とは思わないが、同時に懇意にしている商売相手としてはそれ程好い値でもない。ましてや、店主が御用商であればなおさらである。第一、今年は鮭の不良年、その燻製はもう少し高値でもよいハズである #ダークエルフ王国見聞録

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「あらあら、そうでしたわね。もう少し色を付けさせて頂いてもよいですわ」 懇意の相手を逃してはならぬ、この人間も来年は居ないであろうという算段を付けたのか、女店主は値に線を引き、多少上げた値段を提示する。これ以上、彼らの取引に介入するのもよくないであろう #ダークエルフ王国見聞録

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「そちらの人間のセンセイ、ちょっとこちらへ」 台の上で丁稚が金貨や銀貨を積み上げていく中、腕に巻いた金銀の装身具をじゃらりと鳴らし、部屋の奥へと女店主が呼ぶ。 「里に肩入れするのは結構ですが、あまり商売の邪魔をされても困ります」 彼女は耳元で囁く #ダークエルフ王国見聞録

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「こちらもあくどい商売をする気はありませんので・・・。まぁ、人間の国での、こちらとこちら、あとこちらの取引値を教えて頂ければ、来年からも色々とご奉仕させて頂きますよ」 抜け目のない瞳で彼女は問う。どうも、彼女もまた人里との密貿易に手を染めているらしい #ダークエルフ王国見聞録

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空になった荷馬車は、女店主と手を振る丁稚たちに見送られながら大店を後にする。 「今年は、お前のおかげでいい商売になったな」 「やっぱり、人間はそういうの得意なんですかね～」 店から出ると何故か元気を取り戻す女戦士と女獣使いは貨幣で重くなった革袋を抱える #ダークエルフ王国見聞録

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宿場であったダークエルフの少年達が人間の店主相手に抜け目なく、かといって警戒されずに商いをしていたのを鑑みれば、単純に彼女達に商取引や物産の価値というものに知見がないだけのことであろうが、それは黙っていた。一向は、朝から賑わいたつ町の市へと足を向ける #ダークエルフ王国見聞録