#ダークエルフ王国見聞録 その20

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「物珍しき薬種に妙薬、猛毒の集まる夜市に行ってみたくはないか？」 来月に迫る納税の日の準備に里の者達が追われる季節のある夜、珍しいことに私とセラを訪ねてきた里の薬師・コルヴァスは、家長であり義母であるフェラフェレスの淹れた薬茶を飲みながらそう訊ねてきた #ダークエルフ王国見聞録

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突然のことで驚いたが、興味を引かれた私は彼女にその夜市の詳細を聞いてみる。なんでも、このダークエルフ王国の北東に位置する砒霜公の領地において、毎年この季節に医薬と毒薬を司る女神の祭礼が開かれ、それを信仰する薬師や錬金術師、医師などの職にあるものが集う #ダークエルフ王国見聞録

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この祭礼に併せ、医薬と毒薬を司る女神を祀る聖堂の庭場において、様々な薬種を売り買いする市が開かれる。この薬種の市は昼に行われるが、数年に一度近くの森の中において秘密の夜市が開かれ、それを知る者達により禁制の品々を含めた珍しい薬に毒が売買されるのだという #ダークエルフ王国見聞録

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この夜市は薬師たちが属する職能団体が主催するものであり、その構成員とそれらが認めた者が参加できるそうである。つまり、コルヴァスは構成員としての参加資格を有し、私とセラはその連れとして夜市への参加資格を与えられるということになる。 #ダークエルフ王国見聞録

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部外の者に開かれている市ではなく、禁制の品を扱うとなれば王都の許すものではないが、砒霜公と彼の地の教会はその市の開催を陰から支援しており、重要な収入源としているらしい。その夜市で取引される珍妙な品々は高価な物も多く、場代も安いものではないそうだ #ダークエルフ王国見聞録

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また、砒霜公はその領地に複数の鉱山を持ち、その名の通り、石黄や蒼鉛といった鉱物の薬種の商いを産業の一つの柱としている。このこともあって、砒霜公は薬師達の庇護者であって、彼女らにとって情報や物品の交換の場として有益である夜市を認めているのだという #ダークエルフ王国見聞録

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大変に興味深い話であり、是非ともダークエルフ達の秘密の夜市を見学してみたいが、返答をする前に、何故私とセラを誘ったのかを聞いてみた。その夜市が専門の知識を有した者のみに開かれるのであれば、異種族の学士である私や郷士であるセラは不適と思えたからだ #ダークエルフ王国見聞録

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「そろそろ税を納める頃合いで手持ちの金子が少なくてな。私も貴重な品を運ぶので人足や護衛が欲しいが、ちと余裕がない。それに学士殿は役人として我が国における通行自由、関銭免除の権利を得ているのであろう？まぁ、それに便乗させてほしいわけだ」 #ダークエルフ王国見聞録

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そのように言いながら、コルヴァスは悪びれることなく、三白眼の瞳でこちらの様子を窺いながら笑みを浮かべる。確かに、夜市が祭礼に併せて開かれるのであれば、神祇官としての公務で旅をするという大義名分が立ち、陛下から頂いた通行自由の証しを用いても良かろう #ダークエルフ王国見聞録

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調査官である私の目付を命じられたセラも、私と一緒であればこの権利によって庇護される対象であり、民部卿より賜った符には私とセラに加えて案内人一名の同行を認めると記されている。つまりは、私が同行すれば、砒霜公の領地まで、関銭も荷検めも無いと思われる #ダークエルフ王国見聞録

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金勘定に疎い山里の者達の中で、色々と怪しげな薬物を氏族長の町の商人と取引しているコルヴァスらしい算盤の弾き方と言えよう。神祇官としての特権をこのように用いることには抵抗もあったが、私としては理由に納得して彼女の誘いに乗りたい気持ちが高まった #ダークエルフ王国見聞録

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とは言え、今は里も忙しい時期であり、妻であるセラが同行してくれるかは不安であった。私は妻の方を向いて私は行ってみたいのであるが、どうであろうかと尋ねると、 「もちろん、目付のお役目であるから私も付いて行くぞ！コルヴァス殿、護衛は任せられよ！」と答える #ダークエルフ王国見聞録

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そうかそれは良かった、明後日に出立するので準備をしていてくれと言って、家長に礼を述べてからコルヴァスは帰っていった。おそらく私が行くのであれば、セラの性格からして付いてくるであろうし、護衛として有能な者を安価に調達できると期待していたのであろう #ダークエルフ王国見聞録

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「詳しくは知らぬが、お前の学問は珍しい品々なども調べるのであろう？良かったではないか。家のことをは心配せずともよい。お前の俸禄もあって今年は余裕がある。そうだ、私も幾つか里の品を持参して金子に換えよう。それで、母と妹によき土産を買えるとよいな」 #ダークエルフ王国見聞録

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コルヴァスに上手く利用されたなどとは微塵も疑わず、また家族のために不得手な商いをせんとする妻の笑顔に、私は薬師の企みを敢えて伝えるのを止め、単に調査としてではなく、妻との旅を良きものにしよう思った。そのような事情で、私達は砒霜公の領地へ旅立ったのである #ダークエルフ王国見聞録

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コルヴァスから話のあった翌々日の朝、我々三人は荷駄に多くの荷物を背負わせて里を発った。布袋の中にはコルヴァスが調合し、市で売るための種々の薬品に加え、私とセラで家の蓄えや山野から掻き集めた様々な薬種も詰めてある。 #ダークエルフ王国見聞録

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我が家に蓄えてあった熊胆や袋角といった動物由来の生薬に、乾燥させた死傘茸や紫焔茸といった茸類、干し山葡萄、養蜂を行う里の家々から買い付けた王乳や蜂巣脂などが主なものであり、いずれも薬種または毒種として尊ばれるものである。 #ダークエルフ王国見聞録

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また、私はコルヴァスと相談し、王都を経由して砒霜公の領地へと向かうこととした。元々の旅程とは異なるが、これは我々が持ち出す薬種を王都で金子に換えるためである 「うん？薬種の集まる市が開かれるのであれば、そこで売ればよいのではないか？」とセラは首をかしげる #ダークエルフ王国見聞録

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無論、それでもよいのであるが、今は各氏族領での納税が迫る季節であり、王都に最も物資が集まる前の、最も品の備蓄が少なくなる時期である。更に薬師達の大市が開かれるとなれば、王都での薬種の売り買いは減り、買い取りの値が上がるであろうと私はセラに説明する #ダークエルフ王国見聞録

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「ほー、そうなのか。相変わらず、商いに長けているな、旦那様は」と感心した表情を浮かべたセラの期待を裏切らないか心配ではあったが、私の目論み通りに、王都の薬種問屋では持ち込みを歓迎され、なかなかに良い値での取引が出来た。 #ダークエルフ王国見聞録

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また、砒霜公領における大祭の視察という公務の申請を王府で行い、旅費の支給を得た。王府から北西へと向かって“黒鋼の嘴と爪を研ぐ狗鷲”の氏族領に入り、その領府から街道を南西に進むと、ライトエルフの領域にほど近い砒霜公の領地へと入った。 #ダークエルフ王国見聞録

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北西にあるライトエルフの領域とは高い山々によって隔てられる砒霜公の領地は、山多き土地であり、前述した様に幾つかの鉱山を抱える。また、山々の間には太古より人の入らぬ深き森が隠れており、薬師や山師はそこにまだ見ぬ新しき薬種を追い求めるのだという。 #ダークエルフ王国見聞録

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“狗鷲”氏族との境を越えてしばらくすると、コルヴァスは足を止めて何やら王都で買った物を入れた包みを開ける。中から出てきたのは粗末な貫頭衣と頭巾であり、私にこれを刺し出して、着替えるようにと言う。 #ダークエルフ王国見聞録

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彼女の言うところでは、昼の祭礼と市はともかく、秘密の夜市に王府の役人装束で赴くのは警戒されてよくないのだという。そして、この国で自由民の人間などまず存在しないので、この服装で奴婢を詐称するのが得策であると、いつもと同じ気だるげな表情で説いてくる #ダークエルフ王国見聞録

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「コルヴァス殿、我が夫をそのように酷く扱うなど、流石に見過ごせませぬ」 「まぁまぁ、単にふりをするだけでよいのだ。警邏の者に見つかって厄介事になるより良いであろうに」 セラの強い口調での抗議もどこ吹く風である #ダークエルフ王国見聞録