与太話まとめ

与太話です
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“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

@sousakuTL 「何を?」妹は辛抱強い様子でふうっと息を吐いた。シナモンとリンゴ、それからバターの匂いがした。「こういうとこほんとさ、お兄ちゃんはさ、男の人だよね」彼女はそれっきり黙る。

2016-04-17 18:05:42

食物同人誌という啓示

“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

「スープを染ませてしまえば、食感が本当にお義父様そっくり」「香辛料ですよ。しっかり振りましょうね」「風味もよくお似合いですこと」勝手なことを言いながら女達が私を整えていく。 門扉を見上げる。肉と力強い字で刻まれた表札。 ――私は今日、大豆肉として、この家の娘となる。 #食物同人誌

2016-10-02 00:19:20
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

「何故私に構うのですか」尋ねても、砂糖さんは困ったように笑うだけ。「性分なんですよ」とうとう砂糖さんはそんな風に応える。それが僕は悔しい。「なら、今のうちに逃げて下さい」体から荷重がにじむのを、僕は――リンゴは自覚する。「だって、僕は貴方と、…熱の中で苦く溺れたい」 #食物同人誌

2016-10-02 00:23:05
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

僕は誰だろう? 彼は呟いた。 僕は誰だろう? 彼の隣で彼が呟いた。こうして疑問は一瞬で波及、568222の定義が提出され、それにまた僕らの全数が応答した。ネットワークの中で思考が沸騰する。我らの名は合いびき肉。僕らはたくさんであるが故に、己の定義すら一人では行えない。#食物同人誌

2016-10-02 00:36:42
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

「大淫婦とは、君を言うのだろうね」腹立ちまぎれに呟くと、プラスチックの褥でゼラチンは悪辣に微笑んだ。「君は処女の果物に淫らな輝きを与え、魚の煮汁を冷たい鍋の中でぬるぬると踊らせる」笑みは莞爾に深く。「コラーゲンこそ人の形を支えるもの、だのに誰も気付かないのだもの」 #食物同人誌

2016-10-02 00:42:26
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

予感はしていた。冷えた体が大気に馴染んでしまった時に。私の体は今や平たく伸ばされて、フライパンに押し付けられている。皮目に熱が強引に割り込んで、脂が私の意図とは別に溢れてゆく。桃色の肉が色を変えていくことから、もう私は意識が離せない。

2016-10-02 00:56:17
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

だって、我がものではない声が、変性するたんぱく質の嗚咽としてさっきからずっとこぼれている。嫌だ、私は消化されたくない。誰かの肉体の中で、自分でないものとして異化の精密な過程に組み込まれたくなどない。 #食物同人誌

2016-10-02 00:56:23
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

圧力鍋の中で指を絡めたまま溶けていく野菜の恋人たち、蕩けるように笑むゼラチンの娼婦、嗚咽する鶏肉、その全てがここに至る。悲嘆も絶望も喝采も哄笑も、全てここの空漠の中に納めよう。 我は墓守。 我は大鍋。 我は、――人間。 #食物同人誌

2016-10-02 01:25:21
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

「ぼくというフランケンシュタインを作り出すために、人類がどれだけの英知を傾けてきたものか、分かっているのかい?」 「僕の名はカニカマ――kani commer、すなわち"訪れる者たるカニ"、今ここに在らぬものを在るべしとする意志の元に産み落とされたものである」 #食物同人誌

2016-10-02 01:46:10

シヴィライゼーションの夜

“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

閣下、わが国の夢は滅ぼされつつあります…… 精神の花は靴に踏みしだかれ、港の船は火を放って沈められ、首都の物憂いパサージュは瓦礫に埋められました。我々は焼けたトタン屋根の上での形態発生を強いられているのです。花は咲きません。春は来ません。来ないのです。

2016-10-02 22:14:31
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

哀れっぽい鳴き声の犬のように建築機械が泣いている あるいは前世は犬であったのやもしれぬ

2016-09-27 13:41:00
“ハッピーキツネおばんざい”ふーぎ @huhgi

ネコチャンは慎み深く完成された高貴な生き物なので、本能などという制御不能なものは持っていないのですぅ。ネコチャンが宿すのは、ただ、奉仕生物に仕事を与えてやろうという寛大で慈悲深い心のみなのですぅ。

2016-10-02 01:04:12