入江の魔人外伝【リバース・デイ別伝:立つは芍薬】

リカルド=サンとのコラボレーション作品 ※本筋はリカルド=サンの『リバース・デイ』参照 リカルド=サンのアカウントはこちら@entry_yahhoo
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えみゅう提督 @emyuteitoku

【リバース・デイ別伝:立つは芍薬】

2016-10-09 20:32:21
えみゅう提督 @emyuteitoku

「アリエナイ!一体ナゼ…!」戦艦棲姫は体中に冷や汗をかきながら、今にも走り出しそうな勢いで歩く。普段は目もくれない道に落ちる髑髏も足を取られぬよう避けて進む。すでに敵連合艦隊との交戦が始まっている。しかし、戦艦棲姫には戦線に向かう前に、確かめなければならないことがあった。

2016-10-09 20:33:44
えみゅう提督 @emyuteitoku

艤装を装備する時間すら惜しい、低速である自分の機関が憎い、だが走れない、予想できる最悪の結果にたどり着きたくない。だが、体は前に進み続け、彼女はそれを目の当たりにした。「嘘ダ…バカナ!ソンナ…ッ!」本拠点が、破壊されている!深海棲艦の最初の勝利の証が燃えている!

2016-10-09 20:35:53
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ナゼダ!何ガ起キタ!」戦艦棲姫はヒステリックに叫んだ。拠点がダメージを負っているこの状況では、島そのものと繋がる中枢棲姫にも大きな影響が出る。ワイ・モミも例外ではない、主戦力の二人が動けなくなるかもしれない。「負ケル…!マダ戦ッテスライナイノニ!」

2016-10-09 20:37:39
えみゅう提督 @emyuteitoku

突き付けられたパールシティの危機を前にして、戦艦棲姫はようやく走り出し、ドアが無くなった拠点に飛び込んだ。腐った魚を焼いたような異臭が充満する拠点内で、彼女はエントランスにある砕けたドアの破片を目にし、足を止めた。「ドアガ拠点ノ中ニ…?空襲デハナカッタノカ?」

2016-10-09 20:40:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

航空攻撃により内部から爆発したのであれば内側に落ちているはずがない。入口に着弾したのならば、エントランスはもっと破壊されているはず。何者かが侵入したように見えるが、深海棲艦以外ならば島に近づいた時点で中枢棲姫が察知する。「何ガ、起キタ。ナゼ…コンナコトニ!」

2016-10-09 20:41:48
えみゅう提督 @emyuteitoku

戦艦棲姫は余計な疑問を置き去りにするため再び走り出す。艦娘はすでに目前、拠点の復旧は間に合わない。彼女は即時展開が可能な戦艦棲姫のクローン達を一斉起動するのが最善と考え、研究施設へと向かった。彼女は煙を吸わないように身をかがめ、滑るように拠点内部を走る。

2016-10-09 20:43:42
えみゅう提督 @emyuteitoku

廊下に倒れ伏す、見知った仲間達を踏み越える。顔を蹴り飛ばされても、手を踏み砕かれても、誰も抗議の声を上げない、誰一人として動かない。友への追悼も忘れ走り続けた戦艦棲姫がたどり着いたクローン製造所、そこもすでに悲鳴は鳴り止んだ後だった。「ウソダ…」そこには認めたくない現実があった。

2016-10-09 20:45:17
えみゅう提督 @emyuteitoku

試験運転にあった者も、調整途中の物も一隻残らず破壊され炎に包まれている。建造途中の形を成さぬモノは、カプセルから引きずり出され床にどろりとへばりつく。「コンナ…コンナコトガ、アッテナルモノカ!」崩れ剥がれ落ちる無数の同じ顔、それらが並ぶ堂々たる光景はもう二度と戻らない。

2016-10-09 20:46:27
えみゅう提督 @emyuteitoku

「誰カイナイノカ!教エテクレ、答エテクレ…!」戦艦棲姫は悲痛に満ちた声で叫ぶ。彼女の願いが通じたのか、施設の奥、立ち上る煤と炎の熱が生む陽炎の先に、動く物があった。それは確かに二本の足で立ち、巨人の如き艤装を従えている。「戦艦棲姫カ!何ガアッタ――ッ!?」

2016-10-09 20:48:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

戦艦棲姫は足を止めた。確かに奥に立つ者は己と同じ戦艦棲姫に属する兵器だった。だが、艤装の形状が違う、取り付けられた砲の配置が違う、本体も身長が違う、顔も違う。そして、何よりも、その戦艦棲姫のような何かが放つ、禍々しい気配が彼女の足を縛りつけていた。

2016-10-09 20:49:56
えみゅう提督 @emyuteitoku

炎に揺らめく空気を払うように現れたのは小柄な女と、六本の煙突を持つ巨大な艤装。戦艦棲姫は念のためカラテを構え何者かに問いかける。「貴女は、パールシティ所属デハナイナ。ロットナンバーヲ言エ」「ロットでございますね。ウフフ、問われるのはずいぶん久しいですわ、確かえーとぉ…」

2016-10-09 20:52:05
えみゅう提督 @emyuteitoku

小柄な女が考え込む間、戦艦棲姫のニューロンが過去の埋もれていた記憶を引き上げる。私は、こいつの顔を知っている。有りえない、こいつは極東の友軍に――レムリアに引き渡されたはず!「貴女、マサカ…」小柄な女は手を打ち戦艦棲姫の声を遮った。「ああ、思い出しましたわぁ」

2016-10-09 20:53:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

「【P-0 №--】でしたね」ロットが表す意味【Prototype 0 No Number】。戦艦棲姫は思い出した、試験機の名は――「ピオン=サン…ナノカ?」かつて艦娘の戦力配置図と引き換えに貸与され、その後クローン製造方法の譲渡を条件に配属転換された、戦艦棲姫複製計画の原型。

2016-10-09 20:55:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

「裏切ッタノカ、ピオン=サン!」「いいえ、騙していたのですわ、最初からね」「イヤーッ!」戦艦棲姫の返答はカラテシャウト。ピオンの左肩目がけてチョップが繰り出される。戦艦棲姫は中枢棲姫の護衛も務める恐るべき使い手、ピオンの体は袈裟懸けにあっけなく切り裂かれた。

2016-10-09 20:59:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

「あら、すごい」間の抜けた言葉を残し、ピオンの上半身は脇腹の皮一枚を繋げ、ずるりと床に滑り落ちた。「クチホドニモナイ。コンナ奴ニ我ラノ拠点ガ、ココマデ破壊サレタノカ…ドウシテ貴女ガ…」己の不甲斐なさに戦艦棲姫はうなだれる。彼女が目線を落とした先にはピオンの顔があった。

2016-10-09 21:00:48
えみゅう提督 @emyuteitoku

目を見開いたまま床に頬を付けるその顔は、口元を釣り上げ、眼球をぎょろりと動かし戦艦棲姫を見返した。動いている!生きているではないか!「ナ…ッ!イヤーッ!」止めを刺そうと戦艦棲姫は腕を振り上げ――られない、右腕がない。彼女の腕を消し飛ばしたのは、ピオンの艤装の主砲だった。

2016-10-09 21:02:53
えみゅう提督 @emyuteitoku

本体に大きな損傷がある場合、艤装に正常な指示は送れない。しかし、ピオンの艤装は指示を受けずとも、飼い主を守ろうと自分の意志で、戦艦棲姫に対し主砲を放つ。二発目の砲弾が左足を吹き飛ばす、三発目が右足を引きちぎる。両足を失い、戦艦棲姫は左腕だけを支えに地に落とされた。

2016-10-09 21:06:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

戦艦棲姫の驚愕は続く。ピオンの体の切り口から血管のような赤い紐が伸び出し、落ちた体を引き上げ結び付けていく。「自己修復機能…ソウカ、ソウダッタナ…」「何を驚きますか、オリジナルに近くあれと私に命じたのは貴女達でしょう?」ピオンが言葉を繋ぐ間に傷は全て縫合されていた。

2016-10-09 21:08:15
えみゅう提督 @emyuteitoku

「どういたしました?クローン計画の最高傑作なのでしょう?貴女もどうぞ傷を治してくださいな」ピオンは戦艦棲姫を見下ろしくつくつと笑う。戦艦棲姫は傷口からカラメルのような黒い液体をだらだらと流す。傷が治る気配はない。自動修復は亡失技術であり、クローンには備わっていないのだ。

2016-10-09 21:09:22
えみゅう提督 @emyuteitoku

ピオンは勝ち誇る。失敗作として極東の友軍へ売り飛ばされた怨みがようやく晴らされる。不気味な笑顔を張り付けるピオンに対し、戦艦棲姫は微笑を浮かべた。「最高傑作カ…貴女ハ大キナ勘違イヲシテイル。セッカクダカラ教エテアゲル」「あら?私に間違いがあるのでしたら、どうか訂正願いますわ」

2016-10-09 21:11:23
えみゅう提督 @emyuteitoku

「クローン計画ノ最高傑作ハ貴女ダ、ピオン=サン」「あらまあ、ウフフ――コケにするつもりか!」ピオンは戦艦棲姫の体を支える左腕を蹴りで千切り飛ばし、ダルマのように転がる彼女の髪を鷲掴みにする。「私が失敗作でないならば、なぜ手放した!なぜ魔人の下へ引き渡した!」

2016-10-09 21:13:18
えみゅう提督 @emyuteitoku

「完成形ニハ容易ニ手ヲ加エルコトハデキナイ、故ニ極東ノ友軍ノ技術ニ賭ケタノサ。私ハ反対シタノダガナ。アリゾナハ、レムリアヲ信用シスギタ」「なら私は…クローンですらないというの?」「アイアンボトムサウンドカラ回収シタ、オリジナルノ部品ヲ結合シ建造サレタノガ【P-0 №--】貴女ダ」

2016-10-09 21:15:23
えみゅう提督 @emyuteitoku

「『失敗作を送る』トイウ指令ガ変更サレタノヲ知ラナカッタヨウダナ」「なら…失敗作は――」「【L-11 №21】私ダヨ」ピオンは戦艦棲姫の髪から手を離し、彼女の体を地に降ろす。「ピオン=サンハ失敗作デハナイガ、レムリアニ貴女ヲ送ッタノハ”失敗策”ダッタ。ハハハ、インガオホーダナ」

2016-10-09 21:18:38
えみゅう提督 @emyuteitoku

ピオンは一つ沈黙挟み、戦艦棲姫の肩に手を置いた。「いいえ、それでも私は失敗作ですわ。兵器として傑作品だとしても、レムリア様は我々を等しく人間として扱ってくれます。だから――」ピオンは戦艦棲姫の肩から手を滑らせ首を締め上げた!「私のような歪んだ人間を作ったのは失敗だったなぁ!」

2016-10-09 21:20:49