- S_Wakame_S
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3-2 「藻類基地の皆様は、木曾率いる水雷戦隊とチームを編成してください。任務は、敵艦隊側面からの強襲です。可能な限り、敵部隊の撹乱に努めてください」
2016-10-11 13:21:463-3 合同部隊総司令官の秘書官である翔鶴さんは、本隊の各部隊毎に事細かに指令を出されていた。綿密に連携やらプランの確認を行う様子が見られていたが、しかし私達に告げたのは側面からの突撃の指示一言だけあった。
2016-10-11 13:21:543-4 藻類基地所属艦娘、鳥海さん、金剛さん、五十鈴さん、そして私こと浜風の4名は、翔鶴さんか代弁する提督の命に従い、指定された座標へ移動を開始していた。
2016-10-11 13:22:053-5 「生きてようが死んでようが関係ない、私達は捨て駒なのよ。いつもそう」 鳥海さんが苦い顔をして吐き捨てるように言う。 「あからさまに扱いが悪いから、もう慣れましたけどネ」 対して金剛さんは笑顔だった。
2016-10-11 13:22:153-6 「特攻して可能な限り敵部隊を?き回す。艦娘の生死は問わず。私達はそれくらいしかさせて貰えない。南西海域での大規模作戦を遂行する司令官は無能ばっかりだわ。私達の受け皿となって下さってる藻類提督のがよっぽどマシよ」
2016-10-11 13:22:323-7 「ワタシ達の扱いが難しいのも理解はできますがねぇ」 擁護しているようで、金剛さんが全く擁護していないことは容易に想像ついた。 これが擁護ならば、金剛さんはその鉄の塊と大差ない大剣を担ぎはしない。
2016-10-11 13:22:543-8 ふと思い出すのは、1年前に死別した提督のこと。あの提督は、常に私達の損害を限りなく抑えようと采配を振るっていた。言い換えれば私達は常に提督の庇護下にあったと言える。 自衛することでしか身を守れないといった鳥海さんの弁も、今なら少し頷ける。
2016-10-11 13:23:043-9 ……ところで。 戦闘前というのに今日の海はとても穏やかだった。晴天で太陽が眩しい。戦闘前の剣呑な空気も、鳥海さんと金剛さんの雑談がかき消しており、これからピクニックにでも行くような呑気さすら感じさせる。
2016-10-11 13:23:163-10 で、あるのにだ。 私は隣を並走する彼女に目を向ける。長良型軽巡洋艦2番艦の五十鈴さん。彼女の艤装は、肌を一切露出しないフルアーマーだった。
2016-10-11 13:23:353-11 これから戦場になることを考えると、五十鈴さんのその姿は間違っていない。 しかし、鳥海さんの改二の制服に艤装、金剛さんのパンツルックに大剣、私の制服に少し大きめのシールドと比較すると、五十鈴さんの風貌は明らかに異質だった。
2016-10-11 13:23:583-12 様々な武器が格納されているのだろう、やたら巨大なバックパックと、そこから四肢の装甲に伸びる幾本ものパイプ。頭はヘルメットバイザーで、表情は伺えない。
2016-10-11 13:24:073-13 「あの、五十鈴さん。暑くないのですか?」 思わず尋ねてみた。五十鈴さんに声をかけたのはこれが初めてだった。 姿だけは昨夜も見かけたが、その時も頭から深くローブを被り、アームウォーマーとレッグウォーマーで肌を一切露出させない鉄壁っぷりであった。
2016-10-11 13:24:143-14 五十鈴さんはちらりとこちらに首を傾けると、横にふるふると振って、また前を向いた。表情はおろか目の動きすらまったく見えない。 会話終了。私はそれ以上何も言えなかった。
2016-10-11 13:24:193-15 「五十鈴はとってもshy。shyだからFull Armorなのよネ。何度も声をかけていると、そのうち慣れてくれるよ。Fightハマーン」 しかし金剛さんが会話を終わらせなかった。
2016-10-11 13:24:263-16 「それは金剛がしつこかったからでしょう」 五十鈴さんが初めて声を発した。凛とした声という印象であったが、ヘルメットでくぐもっており、それがなんだか勿体なかった。
2016-10-11 13:24:323-17 「金剛は勢いで押しますからね」 「チョーカイまでー」 「無遠慮よね」 「五十鈴ぅ……」 むーん、と金剛さんはほっぺを膨らませた。
2016-10-11 13:24:393-18 五十鈴さんは金剛さんとの話が終わるとこちらを向き直し、深いため息(と、思われる仕草)をついて、 「これが身体に合っているのよ」 と、金剛さんらと話してる時より固い声色で、私の先程の質問に答えてくれた。
2016-10-11 13:24:463-19 ひょっとして今のは、私に歩み寄ってくれたということか? と一瞬嬉しさがこみ上げたものの、この様子だと五十鈴さんときちんと会話できるようになるのは、もっとずっと先のことになりそうだった。
2016-10-11 13:24:533-20 さて、そうこう話をしている間に作戦海域の指定ポイントに到達した。 作戦海域には先客がおり、それは翔鶴さんの所属する艦隊の二番艦、木曾さんの率いる水雷戦隊だった。私達が護衛…という名の盾を務める部隊だ。
2016-10-11 13:25:013-21 「お久しぶりです」 鳥海さんが木曾さんに声をかけると、木曾さんは片手をあげて「よう」とフランクに返答を返した。 「ちょっと待ってろ、最終確認だけさせてくれ」 ゆっくりでいいよー、と金剛さん。みんな知り合いなのだろうか。
2016-10-11 13:25:073-22 さて。私達が合流したことにより、水雷戦隊面々もこちらに目を向けるが……その表情は様々だった。 木曾さんは自信に溢れており、私達に向けた目も真摯のそれだったが、他駆逐艦娘達はというと露骨に嫌な顔や訝しむ様子が目立った。濁ったようなその目つきは翔鶴さんも向けていた気がする。
2016-10-11 13:25:293-23 明らかに、歓迎されていない。 木曾さんは陣形や指示の確認を終えると、くるりと軽快な様子でこちらを向き直すと、とてもフランクな様子で話しかけてきた。
2016-10-11 13:25:383-24 「お待たせ。暫くぶりだな」 「お変わりないようで何よりです」 「まあな。金剛も五十鈴も相変わらずだなぁおい。いつ見てもすげー格好だよお前らは。 で、そっちは新入りか?」 「はい、陽炎型駆逐艦13番艦の浜風です」
2016-10-11 13:25:463-25 「俺は球磨型軽巡洋艦の木曾だ。よろしくな。 いやぁ、新入りが入ったのはよいことだが、それだけ負傷艦がいるということを考えると、素直に喜べないのが難しいなぁ」 「ハマーンはうちの期待のNew Faceだよ」 「ふむ、なるほど。では素直に新戦力に期待するとしよう」
2016-10-11 13:25:53