- S_Wakame_S
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3-26 藻類基地に来て、これまた新しい出会いがあった。木曾さんはまた随分と気持ちいい割り切り方をされる方のようだった。 負傷艦というだけで扱いにくさを感じさせる扱いを受けてきただけに、理解のある艦娘とあったのは、藻類基地以外では初めてだった。
2016-10-11 13:25:593-27 「よろしくお願いします」 「ん、ああ、よろしくな。一応私がここの旗艦やるから、何でも聞いてくれていいからな」 いい人だ。 一方背後では駆逐艦達が怪しい眼差しを向けていた。ひそひそ話をしている様子も伺える。 木曾さんもわかっているようで、鳥海さんとの雑談の中で、
2016-10-11 13:26:103-28 「うちの隊も最近大胆な再編成があってな。翔鶴旗艦の第一艦隊が、交戦中に轟沈艦を出してしまってさ」 「そうだったのですか。同胞が海に沈む話は、いつ聞いても胸が痛みます」 「おかげでうちの隊も面子がガラッと変わってなー。俺も新人教育の真似事みたいなことになってるんだよ」
2016-10-11 13:26:153-29 だから、と私に目を向けて、 「だから、まぁ、何か言われても水に流してやってくれ。お前も色々苦労してるとは思うけど、まぁ相当の手練れの臭いがするからな。先輩として、よろしくやってくれると嬉しい」
2016-10-11 13:26:243-30 ま、こいつらを鍛えるのも楽しいんだけどな!と、鳥海さんの方に顔を向け治して木曾さんは笑う。 「作戦までまだ時間あるし、もう少し話していこうぜ」 「そうですね、ご一緒します。申し訳ないですが、皆さんは先に所定位置待機でお願いします」
2016-10-11 13:26:293-31 鳥海さんはそう残して、木曾さんと笑いながら移動していった。他基地との面識もあるとは……鳥海さんの人柄もあるのだろう。 そういえば、そんな鳥海さんが何故藻類基地に所属しているかを私は知らない。金剛さん同様、そのうち知る機会がありそうなので、今聞くつもりはないのだけれど。
2016-10-11 13:26:533-32 さて、と私は、鳥海さんの指示通りに作戦開始位置まで移動することにした。慣れつつあるとはいえ、変な目を向けられ続けるのはやはり堪えるので、早めに先に行くことにしたのだった。
2016-10-11 13:27:003-33 しかしそれは金剛さんと五十鈴さんも一緒だったようで、金剛さんが私に並走し、その後ろから五十鈴さんも同行してきた。 「ハマーン。今いい?」 「はい、なんでしょうか」
2016-10-11 13:27:063-34 「その、夜中はごめんなさい。ありがとう」 「起きてらしたんですか?」 「いいや。でも、いつもは布団と枕を汚してしまうから。それがcleanだったから、ね」 こんなにすまなさそうにしている金剛さんを見るのは初めてだった。
2016-10-11 13:27:123-35 「見ちゃったのでしょう?当然よね」 否定する理由もないので、私は肯定した。 「でも、私は気にしてませんよ。さすがに初めは驚いてしまいましたが、そういう方もおられるんだな、と思いましたので」 上手く握ることのできない右手に、自然と力が入ったことに私は気がついた。
2016-10-11 13:27:173-36 「摩耶を沈めてしまった時のFaceがネ、毎日Dreamに出てくるの。『あの時のことは一生忘れられない』なんて生ぬるい。摩耶が毎晩、私に会いに来るの。 とても怖い。眠るのは、いつも辛い」
2016-10-11 13:27:273-37 「艤装を装着するとね、35.6cm連装砲が抉った顔を摩耶が見せつけてるの。もちろんHallucination、幻覚なんだけど、それがとっても怖くって、気付いたら私は艤装を装着することができなくなっていた」
2016-10-11 13:27:343-38 「摩耶はね、過ちを犯した私に、その重さを忘れないようにいつも問いかけてくるの。これ以上の不幸と間違いをワタシに犯させないように、ワタシの中で生きている。 だから、私はGreat Swordを手にした」
2016-10-11 13:27:403-39 「戦わないと生きられない。だからこそワタシは、摩耶の死を無駄にしないために、"自分の意思で持つことのできる武器"を振るって生きることにした。鍛えることは、ワタシの武器を振るうための覚悟と、責任だから。 だからね、ハマーンも、死なないでね」
2016-10-11 13:27:463-40 金剛さんの言う"死なないでね"。 その重さは、誰のどんな言葉より重かった。 「金剛さんは、とっても強いですね」 「強くないと生きていけないからネ!」 にしし、と歯をむいて笑う金剛さんの笑顔が眩しい。
2016-10-11 13:27:543-41 あんだけ反吐を履いても、夜が怖くても、これだけ笑っていられる金剛さんに後光が差して見えるようだった。いや、現に差している。 この人は自分の過ちを抱えて、それでも前を向いている。
2016-10-11 13:28:023-42 その姿勢が、なんだか羨ましかった。いや、羨ましいんじゃない。 「私も、金剛さんを見習って頑張ろうと思います」 この感情は、尊敬だった。
2016-10-11 13:28:103-43 「お、おう……ワタシを見習うがよいわぁ!」 「金剛さん、顔が真っ赤ですよ。照れてるんですか?」 「照れてない!」
2016-10-11 13:28:153-44 2人して笑う。気持ちよく笑ったのは、いつ以来だろう。 金剛さん、素敵な人だ。こんな素敵な人がいるなら、私はそれを見習おう。
2016-10-11 13:28:203-45 そう思うと、私の胸の内でわだかまっていたものが、少しほぐれる気がした。金剛さんや他の人たちからしたら、私は以前の提督のことや今後のことでウジウジ悩んでいるように見えただろう。 まずはそこから変わろう。そう思った。
2016-10-11 13:28:273-46 2人とも早くしなさい!と、気づいたら先を行く五十鈴さんに2人揃って怒鳴られた。あははと笑って、私と金剛さんは加速した。
2016-10-11 13:28:333-47 鳥海さんと木曾さんは、作戦開始ギリギリに戻ってきた。 側面突撃部隊は、これで木曾さん率いる水雷戦隊6名と、藻類基地部隊4名と合わせて10名。
2016-10-11 13:30:353-48 「そういや、翔鶴からはお前らを盾に突撃するように指令が出てるんだが」 木曾さんの口からとんでもない言葉が出てきた。が、 「けど、俺の流儀に反するし、何よりはいそうですかと盾になるタマじゃないだろ。お前らは好きにやれ」 「Thank you キソー!アイシテルー!」
2016-10-11 13:30:413-49 金剛さんが笑顔で大剣を抜いた。風を切る音が凄まじくて、斬られたわけではないのに一瞬肝が冷えた。 しかし水雷戦隊の駆逐艦達からはブーイングが上がっていた。だが、 「お前ら、藻類基地だからとこいつらを舐めない方がいいぞ。こいつらは、間違いなく俺より強い」
2016-10-11 13:31:02