亜里沙のことが大好きな雪穂 短編(3)「私たちの歌」
- yukiho_0_arisa
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実際、亜里沙は目立つ。こんな綺麗な金髪を、私は他に見たことがない。街中を歩いてるときは、あからさまにじろじろと見てくるひとは少ないけど、ちらちらと見ていたり、声の大きな女子たちが騒いでるのが聞こえたりする。注目を浴びるのは私ではなく亜里沙なんだけど、私のほうが窮屈な思いになる。
2016-09-12 20:22:15一時期は、お姉ちゃんと一緒に歩いていても似たような状況だった。違う点といえば、そのときは見ているのはほとんどが高校生以下の子で、近寄ってきて話しかけてくる子も多かったことだ。 私、身近に人気者が多すぎる。いや、そんなこと言ってないで、私自身が注目されないといけないんだけど。
2016-09-12 20:26:31それにしても、いつかは慣れるんだろうか、この状況。亜里沙に聞いてみると「うーん。でもスクールアイドルやってるんだから、目立つのはいいことだよね。あ、でも、雪穂とデートしててもすぐ知り合いに見つかっちゃうのは恥ずかしいかなあ」って、笑いながら。 なにもう可愛いなもう!!
2016-09-12 20:30:43「あ、亜里沙! 私たちが記事になってるよ!」 「おー! 雪穂も可愛く撮れてるね♡」 「亜里沙もね!」 「ありがと! ……うん、でも」 「でも、だねえ」 「やっぱりまだ『μ'sの妹』なんだね」 「まだまだ仕方ないかー。それだけμ'sが偉大だったんだよ」 「そうだね」
2016-09-24 22:14:55「半分くらい、私たちというよりμ'sの紹介みたいになってるもんね」 「記事も書きやすいんだろうね。あー、つまりまだまだ私たちは特別書くこともないってことかあ」 「でも! 注目してもらってるのは確かだし! 今のうちに最高の私たちを……見せたいよね」 「うん、やることは変わらない」
2016-09-24 22:21:10「『μ'sの妹』って、重いね……」 「ほ?」 相変わらず平気で寝そべりながらお菓子を食べているお姉ちゃんに対して、ほとんど無意識で呟いていた。 「あー……うん。私たちさ、どうしてもそう見られるから」 「なんで重いの?」 「いやいや。だってもう伝説のμ'sだよ」 「雪穂は雪穂だよ」
2016-09-26 21:19:25「でもただの無名な私たちじゃないんだよ、やっぱり。それのおかげで最初から注目してもらってるから、わがままは言えないけどね」 「うーん。私はまだμ'sが伝説だとか実感わかないけど……ま、μ'sっていうか『高坂穂乃果』の妹だし。それなら『なーんだ』って感じじゃない?」 「いやいや」
2016-09-26 21:23:59「確かに私にとってはお姉ちゃんはいつまでもお姉ちゃんだけどさ」 「ありがと雪穂っ! 大好き♡」 「わっ……う、うん……ともかく、お姉ちゃんも世間から見たらあのμ'sのリーダーだからね。スクールアイドルからしたら雲の上の――」 「私、リーダーだったんだ!?」 「そこ!?」
2016-09-26 21:25:48「ま、難しいこと考えないでさ、雪穂や亜里沙ちゃんがやりたいこと全力で楽しもうよ」 「それは……そのつもりだけど」 「うーん、私はこういうアドバイスとか苦手だなあ……私も全力で走ってきただけだし」 「うん、知ってる」 「そだ! こういうときはにこちゃんだ!」 「え?」
2016-09-26 21:28:49「にこちゃん、いつも、みんなからどう見られるとか、そういうことすごく気にしてたから。きっと雪穂にもいいアドバイスくれるんじゃないかな。うん! 私も久しぶりにお話したいし、呼んでみよっか」 「あ、えっと、いいの……かな」 「大丈夫! ……たぶん!」 「……うん。ありがと」
2016-09-26 21:31:02「にこちゃんだー! 久しぶりー!!」 「静かに! ……どこで聞かれているかわからないのよ。気をつけなさい。私は人気アイドルなんだから」 「うちの中なんだから、そんな心配しなくてもー」 「まったく、穂乃果は相変わらず無防備ね。あんただって今も伝説の人なんだからね」 「普通だよー」
2016-09-27 20:20:43というわけで、矢澤にこさんが、うちにやってきた。お姉ちゃんと、私と、亜里沙と、にこさん。この四人で、一階の居間で。ほとんど話したことがないので、ちょっと緊張してしまう。 「あんたたちも、久しぶりね」 「はい」 「ま、アドバイスってことだけど――」
2016-09-27 20:25:22「次が勝負! よ」 「次ですか?」 「そ。1曲目見たわ。思ったよりよくやってるわね。あんた達の場合は、最初から注目を浴びてる。その中で無難な立ち上がりできてるわ。で、次。μ'sの影響力が下がる次に、再生数が下がったら、もう終わりと思いなさい」 びしっと。怖いことを言われた。
2016-09-27 20:31:31「2曲目に、自分たちの最高の作品を持ってくるつもりでやるの。ここが平凡な出来だったら、3曲目で挽回しようと思ってももう『イマイチ』な印象ついちゃってるから手遅れよ。次で、私たちが高坂雪穂と絢瀬亜里沙だと、自分たちのカラーを全力で見せつけなさい。そしたら、あんたたちなら、いける」
2016-09-27 20:34:13「私たちのカラー、ですか」 「そうよ。9人いるμ'sとは違うの。いろんなカラーを自由に出せたμ'sを目指しちゃだめよ。2人でやるなら、自分たちの色を出して突き抜けるの」 「亜里沙、私たちのカラーってなんだろう」 「……なんだろ?」 「これなら誰にも負けない、ってもの、ない?」
2016-09-28 19:37:37悩む私たち。待つにこさん。口を開いたのは、亜里沙。 「雪穂のことが誰よりも好き。これだけは、絶対誰にも負けない」 「……」 「……」 あっけにとられるにこさんと、久しぶりに恥ずかしくて頬が燃える私。 「あ、亜里沙、嬉しいけど、たぶんそういうことじゃなくて」 「違うの?」
2016-09-28 19:41:02「――いや、いいんじゃない。雪穂、あんたはどうなの? 亜里沙のこと」 「え!? わ……私ももちろん、絶対に誰よりも亜里沙のこと、大好き……です」 「ふーん……」 うう。さすがに、お姉ちゃんの前で言うのは、めちゃくちゃ恥ずかしいぞ。 ほらー! お姉ちゃんニヤニヤしてるー! もー!
2016-09-28 19:45:54「じゃ、それがあんた達のカラーってことで、いいんじゃない。その気持ち、全部遠慮なく次の曲に込めてみたら。振り付けも、PVも」 「え? え?」 私と亜里沙のこの気持ちを……そのまま? えっと……すごいこと言われてない? 「いいじゃない。それも大事なストーリーよ。楽しみにしてるわ」
2016-09-28 19:51:30「にこちゃん、変わったね? アイドルはみんなのものだからそんなの絶対ダメ、って言いそうなのに」 私と亜里沙がどうしようかと目で相談している間に、お姉ちゃんがそんなことを言った。なに言ってるのよ、とにこさんは呆れたように言った。 「穂乃果のおかげよ。わかってる?」
2016-09-29 20:59:48「本物のアイドルになろうとして必死過ぎて失敗したのが私。スクールアイドルは、全力で、楽しみながら、私たちを表現すればいいって教えてくれたのは穂乃果よ」 「私、そんなこと言ったっけ?」 「あんたがやってきたことが、そういうことなのよ。無自覚っぷりが、らしいけど」 「えへー」
2016-09-29 21:03:46「ありがとー! やっぱりにこちゃん大好きだよー!」 「はいはい。いちいち抱きつかないの」 「にこちゃん、やっぱり小さいなー」 「殴るわよ」 聞こえてくる会話から、2人の信頼関係が伝わってくる。素直に、ああ、いいなあって思った。これがμ'sの力、なんだろうな。
2016-09-29 21:08:21「あの……にこさん。ありがとうございました。私たちも、私たちらしさを表現します」 「全力でね」 「はい!」 「うん。穂乃果も、絵里も、慣れてるあんた達には実感わかないかもしれないけど、すごい力持ってるのよ。せいぜい頼ってやりなさい」 「うんうん」 お姉ちゃんも嬉しそうに頷いた。
2016-09-29 21:14:46私たちへのアドバイスが終わった後、にこさんとお姉ちゃんは、お姉ちゃんの部屋に行った。そのあと、海未ちゃんやことりさんが来てたから、きっと話が持ち上がっていたのだろう。 私たちはもちろん、すぐに作戦会議開始だ。私たちを全力で表現するために。「最高の2曲目」を作るために。
2016-09-30 20:54:01それにしても。 「にこさん、噂に聞いていたより、ずっと先輩っぽいというか……落ち着いていたよね」 にこさんが帰った後、お姉ちゃんに聞いてみると、私もびっくりしたよ、って答えた。 「でも、あのあとはすっかりいつものにこちゃんだったけどね。賑やかだったなあ。元気もらっちゃった」
2016-09-30 20:57:19「たぶん、それだけ真剣に雪穂のこと考えて応援してくれたんだよ。本気でやっていればいつでもきっと力になってくれるんじゃないかな」 「……ちゃんと、結果を見せたいね」 「うん。私も期待してるよ! 大丈夫、雪穂も亜里沙ちゃんも可愛いし!」 「ありがと……よし、やるぞ!」 「おー」
2016-09-30 21:03:23