亜里沙のことが大好きな雪穂　短編（５）「私を真っ白にして」

亜里沙のことが大好きな雪穂 @yukiho_0_arisa

「亜里沙、今から、屋上行かない？」 昼休みが終わる少し前、亜里沙に声をかける。亜里沙はいたずらっぽく目を細めて笑った。 「雪穂も素直になったね」 「ま……まあ、亜里沙のおかげでね」 昼休みの屋上は、２人きりになりたいときに使う。学校でそれができるタイミングは、他にあまりない。

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が、しかし。行ってみると、今日は珍しく、先客がいた。 「あれ、お姉ちゃん」 扉の音に気づいていたのだろう、私たちがその姿を見つけたときには、お姉ちゃんもこっちを見ていた。 「あー、ごめんね。これはお邪魔しちゃったかな」 お姉ちゃんが申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。

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「う、ううん、別にそんなことは」 あるんだけど。 「どうしたんですか？」 亜里沙が尋ねると、お姉ちゃんは「ときどき、ひとりでここに来たくなるときがあるんだ」と答えた。珍しいこともあるもんだ。 「寂しいの？」 「たまにね。あんまり気にしないでね？」 お姉ちゃんはぱたぱたと手を振る。

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どうしたものかな、と思っていると、屋上の扉が開く音が聞こえた。今日はずいぶんと来客が多い……と思って見てみると、海未ちゃんだった。海未ちゃんはお姉ちゃんと視線が合うと微笑み、そのあと私たちに気づいて首を傾げた。 「珍しい組み合わせですね」

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「あ、私たちは偶然お姉ちゃんにさっき会っただけで」 「なるほど」 静かに頷くと、海未ちゃんはお姉ちゃんのほうに歩いていった。 「そろそろ、昼休みが終わりますよ」 「うん、そうだね」 そう言いながら、お姉ちゃんの隣に寄り添って立つ。

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優しい声だった。それを聞いて、お邪魔は私たちのほうだな、と思った。亜里沙のほうをちらっと見ると、亜里沙は両手をくいっと上げて「やれやれ」と言わんばかりにため息をついて、笑った。まあ、こんな日もある。私たちは静かに屋上を後にした。

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「あれ、待ち合わせだったのかな」 「そんな感じじゃなかったよ。たぶん、海未ちゃんが探しにきたんだよ」 「そっか。うん、雪穂が私を迎えに来てくれたときみたいな顔してた」 「私もあれくらい美人だったらなあ」 「でも、いい顔だよ。すごく安心できて、大好き」 「ありがと……♡」

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「こないだのライブ、最高やったよ～、雪穂ちゃんも亜里沙ちゃんも可愛かったよー」 「う……私的には、あまり思い出したくはない……」 「ええよ、初々しくてああいうのも。んーーお姉さんがちゅーしたろか♪」 「おねーちゃーん、希さんがまた浮気してるよー」 「やーん、冗談、冗談」

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「雪穂ちゃんはモテモテねえ」 希さんに抱きしめられつつ撫でられていると、お茶を持ってきた絵里さんが戻ってきた。今日は絵里さんの部屋で、４人でお話。 「反省は次に活かせばいいのよ。結果的に自然体の２人を見せることができてファンは増えたみたいだし、今回はこれでよしと切り替えましょ」

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「というわけで、雪穂の精神力を鍛えるための荒治療を考えたいなって」 「できれば穏便にお願いしたい」 亜里沙の楽しそうな声に、ひとまず釘を差しておく。 「全校生徒の前で、屋上から大声で歌ってみたら？」 「穏便にお願いします！！」 希さんけっこう容赦ないからこわい。

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「屋上といえば、そうだ。この前、お姉ちゃんがちょっと寂しそうにしてましたよ。絵里さん、また今度練習の様子でも見に来てくれたら、きっとお姉ちゃんも喜ぶと思います」 都合の悪い話の流れをごまかす意図も若干ありつつ言うと、絵里さんはきょとんと少し目を丸くしたあと、笑った。

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「知ってる。昨日、海未から電話があって、ほとんど同じこと言われたわ。似てるわね、やっぱり、海未と雪穂ちゃん。亜里沙がすぐに懐いた理由がよくわかるわ。穂乃果の近くにいると、似てくるのかしら？」 とても興味深いと言わんばかりに、目を輝かせながら。確かに海未ちゃんなら言いそうだなあ。

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「２人とも、どうしてまず私なのかしら」 「穂乃果ちゃん、えりちに一番甘えてたからなあ」 「そんなに甘やかした覚えはないんだけど」 「え？　本気で言ってる？」 「私から見ても、お姉ちゃんが一番頼りにしてた先輩は絵里さんだと」 「うーん」 心外そうに言いつつ、割と嬉しそうな絵里さん。

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「海未も、真面目というか、強いというか、不思議よね。立場的に、自分以外の誰かに会えなくて寂しがってるなんて、悔しがったり認めたくなかったりしそうなものだけど。そんな感じ全然なくて、会ってあげてくれると嬉しいです、って申し訳なさそうに言うのよ。あの子、どこまでも穂乃果優先よね」

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「朝練は今度、希と一緒に神社まで行くわ。ライブはいつも見てるけど、練習は久しぶりに見るから楽しみね」 「ありがとうございます」 「で、雪穂ちゃんの特訓の件なんだけど」 はい。逃げられませんでした。 「それこそ、似た者同士な海未に聞けばいいんじゃないかしら」

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「穂乃果がよく言ってたけど、海未も最初は、人前で歌うなんてとても無理って感じだったみたいよ」 「確かに、あの海未ちゃんがこんなことできるんだって思って、びっくりしました」 「そっか。雪穂ちゃんのほうが海未との付き合いもずっと長いのよね。どうやって克服したのか、聞いてみたら？」

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で。 「今でも克服できたつもりはありませんが」 お姉ちゃんの部屋で、今度はお姉ちゃんと海未ちゃんと、亜里沙と私。海未ちゃんは困惑したように答えてくれた。 「穂乃果とことりが引っ張って支えてくれるから、なんとかやれました。それだけです。まあ……鍛えられる経験も、多かったんですけど」

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「秋葉原でチラシ配りしたり、メイド喫茶でアルバイトをすることになったり……いろいろありましたね」 「メイドさんの海未さん、可愛かったです！」 「あ、ありがとうございます……」 あのときの亜里沙、海未ちゃんにベッタベタにくっついてたもんなあ。あー……過去のことだけど嫉妬しちゃう。

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「雪穂も、亜里沙ちゃんに抱きしめられたあとはちょっと落ち着いてたし、毎回ライブの前はああしてもらえば？」 「あ！　それですね！」 それですねじゃない。あれは応急処置みたいなものだし。と言うと、お姉ちゃんはふふーんと笑った。 「じゃあ、もう一つのほうでしょ」

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「ん～～～～～っ！　雪穂ちゃんは『ちっちゃいやり手』って感じでキュートだし、亜里沙ちゃんはおとぎ話の世界からそのまま出てきたみたいな可愛さ！　２人ともすぐに大人気間違いなしだよ～～♡♡」 はい。こうなるわけで。 メイド姿の私たちの前で、ことりちゃんのテンションは最高潮だ。

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「あの、一日体験なんて、お店や他の店員さんに迷惑じゃないですか？」 「うちはノリで適当にやってるから大丈夫だよ～、雪穂ちゃんは真面目だね！」 「は、はあ」 店長さんがこんな感じなので、ことりちゃんの紹介であっさりと一日体験が決まってしまった。

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「はー……雪穂、すっごい可愛い……一生私に奉仕して……」 「亜里沙のほうが本当に危険なくらい可愛いよ……っていうか今すごいこと言ったね？」 「雪穂みたいに可愛くて優秀なメイドさんが側にいたら、幸せな人生なんだろうなあ……ダメになっちゃいそう」 うっとりした目と声。私もダメになる。

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「仕事終わって家に帰ったとき雪穂に迎えられたら、そのまま一番美味しい雪穂をいただいちゃうんだ……ごちそうさま」 「あの亜里沙」 また絵里さん変なこと教えてない？　いやまあ嬉しいけどね？ 想像しちゃうと私もすぐ赤くなっちゃうからね？　今ことりちゃんの前だからね？

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「はい！　らぶふわ♡パンケーキとお米サイダーですね！　ごゆっくりお待ち下さい」 「雪穂ちゃん、次は８番さん持っていって。お姉さん風で」 「お姉さん！？　が、がんばってみます」 なんで私にそんなものを。 「はい、お菓子焼いてきたわよ。がんばるのもいいけど、ちょっと休憩ね？」

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とりあえず絵里さんのイメージで。ハラショー。 まあ、定型の仕事は忙しくて大変なだけで、案外なんとかなる。私より亜里沙のほうが苦労していたみたいだ。問題は―― 「可愛い～～！！　一緒に撮ってもらっていいですか！？」 「あっあっ……撫でたい……いい？」 こういうアドリブだ。