マーセナリイ・マージナル #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投擲し、飛び離れた。ナハトローニンは刃で打ち落とし、ゆっくりと間合いを整える。ニンジャスレイヤーの鼓動が強く打った。彼は咳き込み、力が失せゆく感覚に戸惑った。「何者か知らぬが、並の使い手ではないな」ナハトローニンは青いカタナを掲げた。

2016-10-21 00:03:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さきの斬撃を防いだ手腕は見事だ。ここで必ず殺しておく」「サツガイ」ニンジャスレイヤーは呟いた。「サツガイというニンジャを知っているか」「……」ナハトローニンの目が微かに動いた。ニンジャスレイヤーは地を蹴った。ナハトローニンは刃を返し、迎撃のイアイを繰り出す!

2016-10-21 00:05:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは高速側転を打ち、急接近した。またしても博打だ。彼は当初、スリケンを放って間合いを離そうとした。しかし身体を蝕む不可視の毒粒子の威力が想像以上のものである事がわかると、逆に一気に間合いを詰めにいった。ニンジャでなくば三度は死ぬ毒素量。ニンジャであっても……!

2016-10-21 00:10:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転から前転に切り替え、刃の真下を潜り抜けた。装束の繊維がボロボロと枯死し、劣化したペンキ屑めいて地面に散らばった。彼は血を吐きながらナハトローニンのゼロ・インチ距離に密着した。毒の進行の停止を感じる。ナハトローニンは離れようとする。掴む。

2016-10-21 00:13:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やはり貴様の周囲は毒の外だ」「離せ……」「離さん」彼は眼前のナハトローニンの腰をかき抱き、己がニンジャ膂力を振り絞って締め上げた。「離さん!」「グワーッ!?」ベア・ハッグ!江戸時代、レジェンドヨコヅナのライユウが岡山県の村を脅かしたグリズリーを素手で葬った際に用いたカラテだ!

2016-10-21 00:18:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴様……グワーッ!」何たる一流の熟練ニンジャ戦士をして離脱をゆるさぬ決断的ニンジャ膂力か!ナハトローニンの足が地面を離れた。もはやもがく以外に無し!「グワーッ!」逆手に持って刺そうとしたアクティブ・カタナが彼の手を離れ、地面に落ちた。ニンジャスレイヤーは締め続ける!「離さん!」

2016-10-21 00:23:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『認証者が必要です。セキュリティロックな』手を離れるやカタナが冷たい電子音を放ち、青い光が失せた。無害!やがて仰け反ったナハトローニンの両目とメンポ呼吸孔が赤黒の炎を噴きだす!「アバーッ!」ニンジャスレイヤーは締め続ける!「アバーッ!」ナムアミダブツ!

2016-10-21 00:25:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サツガイというニンジャを……知っているか……!」ニンジャスレイヤーはジゴクめいて問うた。「貴様に新たなジツをもたらした男だ……知っている筈だ!」「アバーッ!」悶え苦しみながら、ナハトローニンが呪詛混じりの答えを返した。「サツガイ……確かに俺は……サツガイに……だが知らぬ……!」

2016-10-21 00:30:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「アバーッ!」「辛抱しろ……死ぬのは許さん……死ぬ前に、おれに残してゆけ……残してゆけ!」ニンジャスレイヤーは言い放つ!「残せ!アユミを殺したニンジャの道筋を!」「アバババーッ!」ナハトローニンは赤黒の火を吐き、痙攣した。死神は彼の口から幾つかの言葉を引き出す……!

2016-10-21 00:37:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて彼はナハトローニンの背骨をへし折り、その臓腑を呪いの火で焼き焦がしてカイシャクした。「サヨナラ!」ナハトローニンは爆発四散した。ニンジャスレイヤーは地面に手をつき、身を震わせ、毒の自浄が生み出すジゴクの苦しみに声もなく耐えた。それは遠目には慟哭のようでもあったろう。

2016-10-21 00:42:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかしそれを見たものはない。街路には監視カメラも無い(そんなものは電子部品泥棒の即座の餌食だ)。ただ、無残に毒死した武装従業員の死体だけが転がっていた。イクサの時間、その後の時間は実際ほんの数分にすぎなかった。やがてニンジャスレイヤーは起き上がり、訝し気に耳を澄ませた。

2016-10-21 00:44:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(アイエエエ!)それは先ほど逃走したプロ受験生の遠い悲鳴だった。靄の中でニンジャスレイヤーは目を閉じ、短く思考した。ナハトローニンはあのプロ受験生の護衛だった。彼を追い詰める事は、商売敵の手の者たちにはもはや容易だろう。他人事だ。ニンジャスレイヤーは目を開く。後ろ姿が靄に消えた。

2016-10-21 00:50:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ!」ムキョウは公衆トイレの壁に押し付けられ、その口を塞がれた。彼を囲む三人のヤクザは三つ子のように同じ顔をしていた。クローンヤクザだ。「悪く思わんでくれよ。恨みはない」その後ろで、チョンマゲ・ヘアのサラリマンがガムを地面に吐き捨てた。「当然これは経済活動の一環だ」

2016-10-21 00:55:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殺すのか」ムキョウは抑えつけられながら不明瞭な声を発した。ヤクザの一人がドス・ダガーを抜いた。「ああ殺すよ」サラリマンが外を気にしながら答えた。ここは試験会場のシモタバイカ大学の隣の公園だ。バンブー林に隠され、この狼藉を人々が知ることは無い。「ガリ勉野郎にはわからん世界だよ」

2016-10-21 00:59:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「自分は……」ムキョウの目に涙が浮かんだ。何の涙だろう。彼は思った。ヤクザから逃げるルートも、こうして試験会場を想定して組み立ててしまった。ニンジャ同士が殺し合って、ヤクザに襲われて、それなのにまだ自分はヒョットコムのランクの事を気にしている。「だって、それしかないんだ」

2016-10-21 01:02:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そりゃそうだろうよ」サラリマンが新しいガムの包み紙を開いて口に入れた。「よくある、よくある。来世で頑張れ」彼は親指を下向けた。クローンヤクザが頷いた。ムキョウは目を閉じた。「……リヨコ……」「アバーッ!?」「ザッケンナコ、グワーッ!」「スッゾ、グワーッ!」「コラ、グワーッ!」

2016-10-21 01:05:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」殺戮音と悲鳴がひととおり聞こえ、そのあと静かになった。ムキョウは恐る恐る目を開いた。彼は息を呑んだ。首をへし折られ、あるいは刎ねられて床で動かない死体が四つと、赤と緑のツートーンの血溜まり。たった今までムキョウを殺そうとしていた連中の。……そして赤黒の死神が立っていた。

2016-10-21 01:08:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……死神。衝撃の中でじっとその恐ろしい影を見る。ムキョウでさえ気づいた。相当な負傷をしている。さきの戦闘の傷か。「ナンデ」ムキョウは思わず問うた。ニンジャスレイヤーは肩を揺らし、荒い息を吐きながら、壁に背をもたせた。「行けよ。試験なんだろ」言葉を切り、付け加える。「……悪かった」

2016-10-21 01:16:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア……」ムキョウは死体とニンジャスレイヤーを交互に見て、外へ走り出た。タノシイのトリップ効果はもはや無い。めちゃくちゃな出来事が起こり過ぎた。腕時計を見る。時間はまだかろうじてある。きっと試験の結果は散々だ。いや、カジバチカラが出るだろうか。

2016-10-21 01:20:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

どうしてさっき生きたいと思った。いや違う。生きたいのだ。家へ帰ればリヨコがいる。ルーチンでも生活がある。走る。ルーチン。センタ試験の結果を使って大学に進学する事もできる。異常な出来事があったせいで、そんな夢想にまで考えが及ぶ。そんな事はしないが、選択肢はある。それで充分だ。走る。

2016-10-21 01:23:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イェー!みんなアリガトな!」タキがソファの上に立って両手をひろげると、常連客は歓声で応え、おごりのグラスを高々と上げてみせた。壁には「生存おめでとうタキ」とショドーされた紙がダーツで留められている。ピロリリー!ピンボール台がタイミングよく電子音を発した。「カンパイ!」

2016-10-21 01:26:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキはソファにストンと腰を落とし、左右に座るマイコの肩を抱いた。そしてグイグイと酒を呷る客たちを満足げに見渡した。「いやあ、ファッキン最高だな、こいつは!」タキが緩んだ笑顔で呟くと、誰かが「タキ、サイコー!」と叫んだ。なにしろタキの驕りだ。「いやあオレも最高!面倒が全部消えた!」

2016-10-21 01:28:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「面倒って?」隣のマイコがタキにもたれかかった。「そりゃお前」タキはマイコの豊満な胸を肘に感じながら、いいにおいを嗅いだ。「オレを詰めてたクソヤクザとヨージンボのニンジャを、イカレ頭のニンジャが潰してよ。超ラッキー。そのイカレ野郎も、もっと強い奴のところに行っちまって死んだから」

2016-10-21 01:32:48