伝奇小説家・荒山徹先生がアマチュア歴史研究家・鹿島曻について語る
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佐藤信弥先生『周ー理想化された古代王朝』のヘヴィな読後感の反動で鹿島曻さんの著作を再読し始めた矢先、飛び込んできた「兵馬俑は古代ギリシアの彫刻から影響を受けて作られた可能性」とのニュース。 鹿島先生! 鹿島先生! 鹿島先生! 天国でどのようにお聞きですか、鹿島先生! pic.twitter.com/Umj1Nsffpd
2016-10-18 15:14:43鹿島曻先生のシャクシ理論によれば、古代中国の歴史とはオリエント史を拝借したものである、と。 「中国史の夏は伝説上の国家で、そのモデルはウルとウルクであった」 山川の『詳説世界史』には、 「ウル・ウルクなどシュメール人(民族系統不明)の都市国家が数多く形成された」 と出てきます。
2016-10-18 15:22:58鹿島曻先生はつづけます。 「夏のあとの殷はイシンであり、周はアッシリアであ」る。 山川の教科書にはこう記述されています。 「アッシリア王国は(中略)鉄製の武器と戦車・騎兵隊などをもちいて、前7世紀前半に全オリエントを征服した。強大な専制君主であったアッシリア王は(後略)」
2016-10-18 15:29:26アッシリア王として有名なのは、アッシュル=バニパル王。わたしたちクトゥルー神話ファンにとっては、あのコナンの生みの親であるロバート・E・ハワードの短編「アッシュールバニパル王の火の石」でお馴染みですよね。クトゥルー神話譚と銘打たれた創元推理文庫『黒の碑』(夏来健次訳)に所収です。
2016-10-18 15:38:11「そいつはでかくて黒くてうすらぼんやりとしていた。そびえるほどのもの凄いやつで、人間のように立って歩きやがった。が、蝦蟇のような格好でもあって、しかも翼が生えてて、触手が垂れ下がってた」 夏来健次さんがお訳しになった「アッシュールバニパル王の火の石」の一節を引用しました。 触手!
2016-10-18 15:43:40鹿島曻説を続けましょう。 「周の霊王泄心がアッシリアの末王アッシュールウバリット・ハッランであった」 霊王は佐藤先生のご本の168ページに出てきます。鹿島説を続けます。 「その次の恵王費から恵公班にいたる十五人の王はシルクロードまたは中国大陸におけるアッシリアの亡命政権である」
2016-10-18 15:55:36「すると問題は秦である。秦のモデルはアケメネス朝ペルシアであるが、『史記』は「秦本紀」と「秦始皇本紀」を別冊にしているから両者は別の国家であろう」 「秦の郡県制度はペルシャのサトラップ制度と一致する」 「始皇帝の阿呆宮がダリウス一世のパラディスの模倣であることは云うまでもない」
2016-10-18 16:05:27鹿島曻説の結論は、バクトリア知事のディオドトスがクーデタによってグレコ・バクトリア王国を建て、これを司馬遷が『史記』に始皇帝の即位と記した、というものです。 「バクトリアから洛陽に至る道はさまで遠くはない」 なるほど、世界地図を見れば、そのことを実感しないわけにはまいりません。
2016-10-18 16:13:31バクトリアは、山川の教科書にこう出てきます。 「アレクサンドロスが没すると、彼が征服したアジアの領土はすべてギリシア系のセレウコス朝に受け継がれた。しかし前3世紀半ばに、アム川上流のギリシア人が独立してバクトリアをたてると(後略)」 始皇帝ことディオドトス王はギリシア人なのです。
2016-10-18 16:20:45ですから「兵馬俑は古代ギリシアの彫刻から影響を受けて作られた可能性」なんてニュースに接すると、なんで古代ギリシアと秦があ? と唐突感がぬぐえませんが、鹿島曻先生の仮説を杖にすれば、古代ギリシア→セレウコス朝シリア→バクトリア→秦の始皇帝とその兵馬俑、と逐次的にたどってゆけます。
2016-10-18 16:27:08鹿島曻先生のシャクシ理論は、すべてを無にしてしまう虚無の剣、無明の剣です。だって「そやかてシャクシなんやろ」なんて決めつけられたら議論なんか成り立ちませんからね。クトゥルー神話で同類を探すと、破壊を好む狂人が崇敬する、知性を持たない原始の混沌「アザトース」というところでしょうか。
2016-10-18 16:37:52あるいは、触れたものを一瞬で灰にする究極の腐敗、塵を踏むもの「クァチル・ウタウス」でしょうか。何にせよ、君子危うきに近寄らず、なのですが、ではあれ、アカデミズムの強権に屈しないためにも、シャクシというドスをひそかに懐中にひめて渡世するのもありなのではないか、と思ったりいたします。
2016-10-18 16:52:36鹿島曻先生の著作には、拙作もかなりお世話になっていて、その大恩ある先生をこともあろうに邪神の棟梁アザトースにもどくなど、失礼かなと思わないでもありませんでしたが、反面、実は賛辞でもあります。 近くは創土社さんが出してくださった『遥かなる海底神殿』の「海底軍艦『檀君』」がそう。
2016-10-21 16:50:06あの中に、悠久の古代より連綿とつづくダゴン・カルトなるものが登場いたしますが、世界で初めて「檀君=ダゴン」と喝破したのは鹿島曻先生です。もちろん鹿島先生のいうダゴン神とはメソポタミア神話に出てくる半人神のことで、拙作はそれをクトゥルフ神話の「父なるダゴン」に読み替えたわけですが。
2016-10-21 17:00:32「宇宙を破壊する邪神」であり「不潔で下品な冒瀆の言葉を吐き続けている」のがアザトースですが、アザトース鹿島先生は歴史の破壊魔とでもいうべき大魔王です。先生はまず『倭と王朝』で日本古代史を破壊し、つぎの『倭と辰国』で韓国・朝鮮と中国のそれぞれ古代史を蹂躙しようと触手をのばしました。
2016-10-21 17:11:17韓国がそれを防いだ顚末について考察したのが、野崎充彦先生の「『桓檀古記』注解にみる朝鮮ナショナリズム理解の齟齬」という論攷です。とても面白いのですが短すぎるのが難です。野崎先生には、このテーマでどうか畢生の大著を書いていただきたいと、切に、切に、切に、切に、切に望むものです!
2016-10-21 17:22:00鹿島訳『桓檀古記』はその副題「シルクロード興亡史」からもわかるように、アジアの古代史全体を根本から評価しなおすことを目指した気宇壮大なものである。 野崎論文から引用しました。 鹿島史学vs朝鮮ナショナリズム 「日韓の相互理解の困難さを垣間見せている」 先生はそうもお書きです。
2016-10-21 17:29:51もちろん鹿島史学を肯定しておいでなのではありませんよ。 「一読して本書を理解できる読者はほとんどないだろう」 「内容があまりに常識外れで理解しがたい」 「途方に暮れてしまいそうになる」 邪神アザトースの「不潔で下品な冒瀆の言葉」を前にして野崎教授はそう感想をつづっておいでです。
2016-10-21 17:37:24拙作としては次に『シャクチ』がそうです。「遼河を越えて」という物語で、謎の奥津城に入りこんだ主人公のシャクチに神像が語りかけますが、内容はそっくり鹿島史観の借用です。シャクシをシャクチでシャクヨウしてしまったわけです。なのに巻末の参考文献に鹿島先生の著書を落としてしまった!
2016-10-21 17:49:55戦国武将の長曾我部元親を主人公にした『蓋島伝』もそう。あれは聖櫃(アーク)をエルサレムから日本列島に捨てに行くという『指輪物語』ベースの物語ですが、そこに秦の始皇帝の正体は「グレコ・バクトリア王国のディオドトス王である」という鹿島説を援用しました。長曾我部一族は秦氏ですからね。
2016-10-21 17:55:09ディオドトス云々については原田実先生が『日本トンデモ人物伝』で簡潔かつ的確に要約なさっていますので、それを引用し紹介に変えさせていただきます。 秦始皇帝=バクトリア王ディオドトスが中国大陸を征服した後、歴史なき現地人が前漢王朝を建て、ユダヤ系の儒者にオリエント史の漢訳を行わせた。
2016-10-21 18:02:41「歴史なき現地人」とは言いも言ったり。鹿島曻先生を歴史の破壊魔(歴史テロリストと言うも可)、邪神アザトースに譬えたのもご理解いただけるのではないでしょうか。「日本にはこんなにトンデモない人たちがいた!」との惹句が帯に記された原田実先生『日本トンデモ人物伝』は、わたしの愛読書です。
2016-10-21 18:09:01原田実先生は『日本トンデモ人物伝』で「ちなみに、私は学生時代に二度、鹿島と会ったことがある」と記したあと、鹿島曻先生の印象をこうお書きです。 「凄みとユーモアをともに感じさせる容貌で、映画『仁義なき戦い』シリーズで金子信雄演じるところの親分をどこか彷彿とさせるところがあった」
2016-10-21 18:19:27実をいえば原田実先生と同い年のわたしも、1980年代の後半、道玄坂に鹿島曻先生の講演を聞きにいったことがあるので、「見てしまった者は存在の根底を破壊されてしまう」邪神アザトース鹿島先生をこの目で見ているのですが、凄みとユーモアとは言い得て妙で、確かに原田先生の記す通りの人でした。
2016-10-21 18:26:17この印象を、ほぼ20年の後、とある人物の講演会を見に行って「おお、アザトース鹿島先生に似ている!」と投影的に想起したのですが、それが誰であるかは、このくだらぬ思い出話のオチなので今は触れませんけれども、ともかく拙著の養分にするくらい密かに鹿島史学に魅かれていたようです。
2016-10-21 18:34:19