化松実験日記

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(外は雨。ざあざあと降る秋の雨音に辺りの静寂は食われている。しかし、重い扉で隔てられた劇場内にまではそれも届かず、開演前の奇妙な静寂に包まれている。間もなく定刻の、9時である。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(…その静寂を切り裂くように開演のブザー音が響き渡る。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(深紅のビロードの幕がゆっくりと開き、まず貴方の目に入るのは、見上げるほどに大きい真っ白な、巻き上げ型のスクリーン。途端、ばちん！と音を立てて全ての照明が消える。幾らかの沈黙。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(ジジ…、と機械的な音と共に後方から細い光の筋がスクリーンへ伸びて反射すれば劇場は宛ら、古い映画館の様に容貌を変える。画面に映し出されるのは【化松実験日記】………どうやら、題名のようである。)

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(じ、っと短い音を立てて、画面が切り替わる。映し出されたのは薄暗いどこかの一室。光の少ないその場所で、テーブルに向かい合う二人の男が画面に映る。) pic.twitter.com/wAigXn3lFh

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(一人は、『化』と書かれた布で顔を隠した赤色のパーカーを纏った男。机の上に肘を置いてニヤニヤと笑みを浮かべている。その正面に座るのは、グレーのパーカーを纏った人物。体躯で男であることは伺えるものの、顔面に麻袋が被せられていて詳細は分からない。気を失っているのかぐったりしている。) pic.twitter.com/vdIxZUHsQK

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(ふと、赤パーカーの男がカメラの方を向いた。) 『………はーい、どーも皆さん今晩わーｖ……これちゃんと撮れてる？声聴こえる？見えてる？こういうでかい良いカメラってさぁ、あんまり扱った事ないからよくわかんねーの。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(男は、布の端からにやけた口元晒しながら、ペラペラと軽い調子で言葉を紡いでいく。) 『今日は劇場まで足を運んでくれてあんがとさん。…これから此処で色々やらせてもらうよぉ。…題して【化松実験日記】…折角だから、いつもは出来ないコトを色々させてもらおうかなぁって思ってる。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(呑気な口調と全く噛み合わない三日月のような不気味な笑みが口元に浮かぶ。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『…ん？……なんで舞台なのに態々、スクリーン張って映像を上映してんのかって？……人間の肉眼には限りがある。舞台の上の手元を見る為にいくら頑張っても、20倍光学ズームなんて誰も出来ないでしょ？………このカメラが皆の目の代わりに働くから、ちゃーんと見てってな？細かいとこまで。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(喋りながら男が、テーブルの上にガチャガチャと様々な物を並べ始める。鈍く光る金槌、錆びた大きな裁鋏、五寸釘、細く長い針の束、ペンチ、何が入っているのかガサガサと音をたてるプラスチックケース。他にも、一見すればただの工具や裁縫道具といった日用品たちが些か乱暴に並べられていく。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『……他の奴らも演ってるこの舞台。テーマはエロ、グロ、ナンセンス。…俺は特にグロテスクについて、頑張って考えてみたんだよねぇ、ここ一週間ばかり。』 (金槌を手に取って、撫でるように掌でいじりながら独り言の様に呟く。その間、麻袋男はぴくりとも動かない)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『えぐいホラー映画見たり、本読んだり…勿論、ここの観劇も。まあ、色々と悩んだけど……とりあえず今回に関しては《他人の痛み》を見ることで感じる《気味の悪さ》を如何に伝えられるか。……要するに、俺が今から色々して、どこまで皆に『グロテスク』だと思ってもらえるかってことをやってく。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『一応言っとくけど、痛いのが苦手なら、見ないでな？大した事はしないけど。』 (喋りながら、彼は麻袋の人物の右の手首を掴む。手袋で覆われた、だらりと力ない右手。それを机に置いて上から撫でながら相手の顔を覗き込み、にたり笑えば。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『《お前》も頑張ってね。』 (金槌をその指めがけて思いきり) ごしゃんっ！！！

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(些か間抜けな鈍い音を立てて、指の先が潰れてひしゃげる。途端、だらりと力抜けていた体が、ビクン！！と大きく痙攣する。) 『…昔から指先とか手を痛めつける拷問って結構多いの、知ってる？……命に別状がないけど、単純に痛いし、されてる側は一番よく見えるから。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

がっ！ごっ！ごじゃっ！ (指先から掌にかけて、喋りながら金槌を何度も、何度も執拗に振り下ろしていく。硬いものが砕ける音と生肉を潰す音が混じり合う。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『………あ、言いそびれた。今回の題名でもある『実験』のコト。実験の対象はこれを見てる皆の《想像力》………血や臓物や体液やら吐瀉物やら気持ち悪いもんを、切って貼って突っ込んで目の前に並べて見せるのは簡単だから。……あえて殆ど皆には見せない。こんな風に。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(手袋に隠され、布越しにジュちゃジュくと音を立てる麻袋男の潰れた右手に手を添えて、カメラに手を降って見せればぽい、とそれをテーブルに放り投げる。ぶちゃりと、手袋から僅かに染み出した粘着質な赤色の泡が音を立て割れる。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『俺の説明と、音と《コイツ》の動きでどこまで皆の中にある《グロテスク》な想像を引き出せるか……ん？目の前のコイツ？……皆に嫌な想像をお運びする《共演者》だよ。……声とか出せないように《色々》しちゃったけど、痛み止めも飲ませてあげたし、死ぬような事は多分しないし。大丈夫。大丈夫。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(まだ幽かに痙攣する男を横目に金槌を置けば彼は赤色のノートを広げて、ページを捲りながらテーブルの上の道具をガチャガチャ弄り回す。) 『…この一週間でちょこちょこメモしてたんだわ。どんな事をすれば皆に『グロい』って思ってもらえるか…全部は試せんけど…ま。どんどんやって行こうか。』

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(ノートから顔を上げて笑って彼は二十センチ程の、柄の付いた長短の針の束を持ち上げる。どの針も、普通の縫い針よりは遥かに太く、長い。)

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『……フェルティングニードルって、知ってる？フェルトの塊にさ、針をブスブス刺してくと、動物とか作れるやつあんでしょ？…それに使う針。縫い針とかよりも長くて扱いやすい。何より、見やすいでしょ？刺さってる所が。これを、こうやって……』 pic.twitter.com/qJlWBgmSzZ

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【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

(麻袋の越しの顔を、柔らかく撫でて行けば、探るように指で弄る。そして、見つけたその《場所》……右目の上に当たる部分に狙いを付ければ其処へ躊躇なく針の先を) ブツ、ん。

【GRAND FINALE】 @GREAT_NONSIX

『……手応えは殆どなし。あ、でも刺すとき、ブツん！って音は伝わってきた。…よく映画でさ、目から脳にグチャグチャっ！って行くシーンを見るけど、どれだけ奥に挿せば脳に届くんだろ。まあ、今日は目だけでいいけど……って。そんな暴れるんじゃないの。……いっぱい刺すんだから。』