“縄文ウロボロス”まとめ

Twitter小説。 縄文時代×クトゥルー。 数千年前の古代日本を舞台に、縄文人やらエジプトの魔術師やら南洋の魚人やらが邪神復活阻止に奮闘。 続きを読む
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縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
【序文】本稿は人類最古の紀行文学、あるいは壮大なる叙事詩の、最新にして初の邦訳である。二〇〇六年、全世界で大々的に報じられた考古学史上最大の発見とも云えるニュースについて、賢明なる読者諸氏においては、まだ記憶に新しいことかと思う。 1
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そしてこの歴史的発見を得たのが、我が日本国の南極地域観測隊、第四十八次越冬隊であったという事実についても、今更付言を要さぬところであろう。小生はその、他ならぬ日本人がこれを落手するに至った運命に、肌も粟立つばかりの空恐ろしい、何かしらの存在の意図を感じる。2
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しかして嗚呼、読者諸氏。読者諸氏よ。何故ゆえにこの、人類の歴史を紐解く上で最も重要なものとなるべき発見が、その後、続報を絶たれたのかはご存知であろうか。 3
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深淵なる青緑の谷、極寒のクレバスの底で発掘されたこの空前絶後の大発見が、考古学の表舞台から葬り去られようとしていた裏事情についてはご存知であろうか。否。ご存知の訳がない。我々人類に対する犯罪的な決定は、いつも人々の目につかぬ場所で行われるからだ。 4
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本稿の元となった、氷漬けの古文書――“The antarctic fragments”、すなわち『南極断章』には、どうあっても隠匿されねばならぬ理由があった。これの存在を良しとせぬ頑迷な考古学界の勢力、及び国家群、更には正体の定かならぬ不穏な権力があった。 5
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それらの卑劣極まりない奸計によって、この古文書は取るに足らぬ紙屑と断定され、黙殺されようとしていた。当時共同観測を行っていた日独の両観測隊員らによる、念の入った悪ふざけではないかとの疑惑も、その働きかけの一環である。 6
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
そして嗚於。数人の独逸人隊員は、その疑いを公の場で堂々と認めてしまった――なんたる歯痒さであろうか。小生は一部ゴシップ誌に掲載された、件の隊員らが半笑いで肩をすくめる写真を見た時、その瞳の底にある彼らの無念を感じずにはおられなかった。およそ、家族を人質にでも取られたのであろう。7
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
憎むべきは彼らではなく、人目を欺き歴史を歪める、陰湿な勢力である。しかし今回、小生は、自らの危険を顧みることなく『南極断章』の邦訳を断行することに決めた。この翻訳によって郷土の文士五十傑にも名を連ねる小生という歴史作家の社会的地位は、おそらく跡形もなく吹き飛ばされてしまおう。 8
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
だが己自身にしか成し得ぬ大事の前にあって、最早選択の余地などが残されていようか。本稿はことほど左様に危険なものであるから、知見ある読者諸氏におかれては、こちらも相応の覚悟を持ってこれを記しておるのだという前提を、まずは認識されたい。 9
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
最後に、『南極断章』 の発見時のそれについて付言しておく。断章は平均30センチ四方の鹿なめし皮49枚に、未知の単語が多く含まれる古代エジプトの神官文字、ヒエラティックで記されている。インクの材質は竹炭を膠で溶いたものと、動物由来の炭を使ったものが混用されている。 10
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断章はツキノワグマの毛皮製のポシェットに、赤麻の撚糸一本と共に封入され氷漬けになっていた。撚糸は始点と終点が縒り合わされ、完全な輪の形状をしており、全長56.5ミリメートル。つまり輪の直径は18センチである。 11
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
これら全てが放射性炭素年代測定により、紀元前2800年頃のものと判明している。 12
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ヒエラティックとツキノワグマ、更にはその発見場所などから、およそ荒唐無稽にして、笑止千万な地理的要素の混乱が見られるのは否定しない。現代考古学の常識では到底受け入れがたい遺物と云わざるを得ないのも致し方のないところであろう。 13
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
となればこの断章の価値は、その記述内容によってしか判定できない訳だが、それがまた我々の常識的な歴史認識及び自然科学の見地から度外れたものであるからには、おそらく現代人の尺度での評価自体が、そもそも何の意味も持ち得ない可能性がある。 14
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
誰が何と云おうと『南極断章』は悠久の氷山の中で、まどろみながら目覚めを待っていた。その事実だけが、全てなのだ。 15
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
とまれ諸説ある中、小生は本稿の舞台を古代の日本以外には考えられぬが故、その前提を下敷きに邦訳した。また意味不明な単語、及び云い回しについては、僭越ながら郷土史家たる小生の作家としての霊感を元に演出した。物語が唐突に始まり唐突に終わるのは、原本のママである。ご了承願いたい。 16
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
【1】「……いや、そんな話は聞いたこともねえな。この縄の紋はなんつーか、つるつるだと持った時に滑るから、持ちやすいようにつけてるだけだよ。云われてみれば確かに蛇にも似てるが、別に俺たちに、蛇を拝むような酔狂な趣味はねえ。こんな煮炊きの器の模様に、深い意味なんかねえ」17
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
背の低い、熊の毛皮の袖なしを羽織った女は身分ある余に対する敬意もへったくれもなく野卑そのものといった態度でそのように云い、びっ、と手鼻をかんだ。余はあまりのことに言葉を失い、愕然とこの、未開の住人を見下ろすしかなかった。18
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
海神の血を引くボズーの操船技術は確かなものであったが、その手になる脆弱な筏による航海は決して楽なものではなかった。遥かな南洋を越え、何万ケトもの航海を経てようやく辿り着いたこの緑の地は、余の推論どおり高貴なる蛇の一族が住まうに相応しい深い深い森に覆われていた。19
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
万能の科学技術を誇ったいにしえの蛇人間達の、誉れ高き末裔たる余。一体いかなる歴史の暗黒があったものか、人間どもとの交配によってすっかりその冷血は薄まってしまったが、余自身の脳髄には未だ高祖らの叡智が息づいており、世を忍んで科学と魔術の研鑽を重ねて来た。20
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
そして二年前、余は自らのルーツを探ると共に、今もどこかでひっそりと暮らしているやも知れぬ遠い親戚たちを探そうと決意した。宮廷医師の身分を捨て、旅に出たのだった。その時余の手にあり、志の羅針盤となったのが、いずこともしれぬ未開地の原住民が作った陶片であった。21
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
その土器の破片は、南洋の果てにある小島からもたらされたもの、と聞き及んでいた。乾いた土につけられた荒々しくうねる縄の跡は、見れば見るほど蛇紋にしか思えず、さては蛇神を奉ずる部族の品であろうと推測された。その信仰の背景に、我が祖たる蛇人間らの面影が重なって見えた。22
縄文ウロボロス @jomon_ouroboros
これ以上人間の王族に仕えていても先はないと思い、巧妙に人間どもが早死にするよう行ってきた悪意ある似非治療や、脳が鼻水を生み出す器官であるといったような失笑ものの似非医学の手ほどきを止め、土器をもたらした南海の奴隷ボズーひとりを共に、振り返ることのない旅路へと立ったのである。23
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