代筆屋さんの話

代筆屋さんっていいよね、と思いつつ徒然に書き散らしたやつ。
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乃井 @no_el_ty

「刺繍のやりとりで会話する変わった種族への恋文を承ってしまったんだけど、愛の告白なんて誰にも見せずに墓まで持ってくものらしくて、好きって伝えるのにどう縫えばいいか分からない……誰か知らないかな……」からはじまる代筆屋のお話誰か書いて

2016-11-09 00:30:40
乃井 @no_el_ty

「お?どうしたんだい代筆屋の姉ちゃん。針なんぞ持って」 「それがですね。恋文の代筆を請け負ったんですけど」 「はあ、恋文」 「恋文を贈る相手が、オフルーム族なんです」 「オフルーム族?森に住んでる、数の少ないやつらか?やたら凝った服を着てる」

2016-11-10 11:15:52
乃井 @no_el_ty

「そう。彼らって喋らないでしょう?」 「喉がないって言われてるな」 「そのかわり、彼ら、刺繍で会話するんですって」 「気の長ぇこったな」 「そもそも、念っていうんですか?彼ら、一族の間だと、相手の頭に直接話しかけられるらしいんですけどね。大事なことを伝えるのには、刺繍を贈るとか」

2016-11-10 11:18:49
乃井 @no_el_ty

「なるほど。そんな一族に恋しちまった奴がいると」 「文字どころか、刺繍ですからね。請け負ったあとに聞いてびっくりしましたよ」 「……それで、どう刺繍すれば恋文になるのか、分かるのかい?」 「そこですよ」

2016-11-10 11:20:37
乃井 @no_el_ty

「さっきも言いましたけど、オフルーム族が刺繍で伝えるのって、凄く大事なことなんです」 「おう」 「特に愛の告白なんて、服の内側に縫い付けて、後生大事にするらしいんですよ。お墓に入るときには、棺に一緒に入れて埋葬するんだそうです」

2016-11-10 11:22:51
乃井 @no_el_ty

「まさか、墓を暴くわけにもいきませんし。困っているんですよ」 「なるほど」

2016-11-10 11:24:13
乃井 @no_el_ty

……からはじまる代筆屋さんの刺繍奮闘記誰か書いて?

2016-11-10 11:24:29
乃井 @no_el_ty

「適当にそれっぽいものを縫ってやればいいんじゃねえの?恋が叶うかどうかまでは面倒見れないだろ」 「それでも、正しく伝えられるものを渡せなければ、代筆したとは言えません。そんな適当な仕事はできませんよ」 「姉ちゃんは真面目だなあ」

2016-11-10 11:43:57
乃井 @no_el_ty

「それに、そもそも『それっぽい』が分かんないんですよ。色なのか、モチーフなのか、パターンなのか……」 「それで悩んでたのか」 「そもそも、刺繍に取り掛かる前に、情報収集が必要ですよね」 「一式用意する前に気付きたかったな」

2016-11-10 11:47:22
乃井 @no_el_ty

「……分かんないですね……」 「そもそもオフルーム族が謎の一族すぎるな」 「……そういえば、なんで手伝ってくれてるんですか?」 「いつぞやの謝礼がまだだったから」 「ちゃんと現金で支払ってください」 「ちぇ。まあそれはそれだ」

2016-11-10 11:49:57
乃井 @no_el_ty

「あいつらの村に行ってみねえか?」 「オフルーム族に直接聞いてみるってことですか?」 「ああ。あいつら、話せないけど、こっちの言ってることは分かってるだろ?直接刺繍の手ほどきしてもらえばいいじゃねえか」 「その発想はなかった」

2016-11-10 11:51:53
乃井 @no_el_ty

「むしろなんで考え付かなかったんだよ。手っ取り早いじゃん」 「だって極少数一族だから、誰かに言ったら、贈られる相手にバレるかと」 「あー、そういうアレもあるか」 「まあでも、他に手がかりもないし、行ってきます」

2016-11-10 11:54:35
乃井 @no_el_ty

「……なんでついてくるんですか」 「姉ちゃん、森に入ったことないだろ。獣避けの吊るし香炉も持たずに入ったら喰われちまうぜ」 「えっ」 「尾長熊の目撃情報あったばっかだからなー」

2016-11-10 12:01:17
乃井 @no_el_ty

「お、村だ。……姉ちゃん大丈夫か?」 「(喉の鳴るぜひゅーという音)」 「ほら、水飲んで」 「(ごくごく)……まさかここまで疲れるとは」 「いつも家で座って書き物してるからだぜ。ちっとは運動しろよな」 「それが仕事ですもの……」

2016-11-10 12:03:58
乃井 @no_el_ty

「……それに、歩くのは苦手なんです。足に慣れないので」 「? ……で、ついたけど。変わった形の家してんなあ。土壁か?」 「どの家も真四角ですね。丈夫そう」

2016-11-10 12:06:33
乃井 @no_el_ty

「お、第一村人発見」 「!!!」 「……慌てて家に入ってしまわれました」 「まあ、村まで来る外のやつらはそうそういねえから、驚いたんだろうな」 「……あなたの狼頭に怯えたのでは?」 「ええ?俺?」

2016-11-10 12:09:01
乃井 @no_el_ty

「あれ、出てきたぞ」 「老人が一緒ですね。お洋服を見るに、おばあさんでしょうか……え?……おうちに入っていいんですか?」 「なんか歓迎ムードか?よかったじゃないか」

2016-11-10 12:10:51
乃井 @no_el_ty

「よい香りのお茶です」 「躊躇なく飲むよなあ」 「おいしいですよ」 「……まあ毒のにおいはしねえけど」 「毒を入れるような人たちじゃあないでしょう。たぶん」

2016-11-10 12:12:38
乃井 @no_el_ty

「わかんねえぞ。こいつら農業もしてなきゃ多分狩りもしてない。どうやって儲けてるのか分かんねえんだ、俺らを眠らせてどっかに売っぱらったり……」 「お忘れかもしれませんが、彼らは喋れないだけでこっちの言葉は分かってますよ。……あ、商隊共通語が書けるんですね。すごいです」

2016-11-10 12:15:46
乃井 @no_el_ty

「『人売りはしないが、外の人らにそう思われても仕方がないかもしれない』ですって。彼らが穏やかな気風でよかったですね」 「すまん」 「『<狼被り>は毛皮のために狩られたから余計にそう思うだろう』……ですって。外の事情を案外よくご存じなんですね」

2016-11-10 12:17:51
乃井 @no_el_ty

「『商人が教えてくれる』……なるほど。……ふむふむ」 「ばあさん、なんだって?」 「この人は、村を訪れる商人たちと交渉する役割を持つんですって。彼らは、刺繍した布類を売って生計を立てているそうですよ」 「ははあ、なるほど。近くでよく見るとすげえもんな、こいつらの服」

2016-11-10 12:20:32
乃井 @no_el_ty

「で、俺らを、買い付けに来た商人だと思ったってわけか?」 「そうみたい。……違うんです。少しその……立ち入ったお話になるんですけど、いいですか?実は――」

2016-11-10 12:22:03
乃井 @no_el_ty

「……案外あっさり教えてくれたな」 「微妙な色の違いが余所の人には分からないだろうからって、糸まで用意してくれましたしね。……彼らの『言葉』が通じずに、他の一族と交流する機会がない、と言ってました。案外、寂しがりで、もっと他の人たちと、関わっていきたい人たちなのかもしれませんね」

2016-11-10 12:27:45
乃井 @no_el_ty

――それから1週間―― 「できたのか?」 「ええ。先程、差出人の方にも針を入れてもらいました」 「……そういえばオフルームのやつらは、男も刺繍をするのかな?」 「……わたしもこの間知ったんですが、オフルーム族の人たち、みんな女性です」 「えっ。じゃあどうやって増えるんだ」

2016-11-10 12:32:32
乃井 @no_el_ty

「増えるなんて言い方しないでくださいよ!……なんでも、村の中でも背の高い女性が、年に一度、男性になるんだそうです。その……そういうこと、は年に一度だけ、その人と。結婚とか恋は、女性同士でするものなんだそうで」 「……じゃあ、依頼人のやつ、フラれるんじゃないか?」

2016-11-10 12:35:44