The last story...

その剣は穿つ。彼らの想いを乗せて。 運命を喰らう絶望を打ち払う為に。
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ばしこし@文垢 @bs_ks_0

彼らの感謝の意を背に感じながら、ベルゼの魂は光の中に溶けていく。だが、その命の鼓動は消える事はない。過去を断ち切り、己の中の絶望を打ち破った彼は、いつの日か。再びこの地で、咆哮を轟かせるだろう。「…さっきの、彼は」。不意に、イースの声がしばしの静寂を破った。「…ああ、彼は」。99

2016-09-10 21:53:37
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

ハイドは先の出来事を思い出す。かつて共に戦場に立った事、絶望の淵で―――彼が本当の強さを教えてくれた事。「…彼も、かつては私達と共に戦った仮面の戦士だ。…そして」。消えていった光の粒子はもう見えないが。微かに残るベルゼの魂の鼓動を感じながら、彼女は己の相棒ゆっくり撫でた。100

2016-09-11 19:52:44
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「私に…真に大切な事を、教えてくれたんだ」。大切な者を、愛する者を守れる力が、己の中に存在するという事を。「…そうだったのか。…彼にも、感謝してもしきれないくらいだな」。未だ手に残る盾斧の感触を握りしめ、イースはまだ記憶に新しい彼の背中を思い出した。「…凛々しかった」。101

2016-09-11 19:57:29
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…あぁ、とても……っ」。緊張の糸が一気に緩んだのか、ハイドの体はその場に崩れ落ちるように力を失った。「…!ハイド、」。しかし、その膝が地に着く事はなく。彼女の体は、隣に立つイースの腕に支えられてバランスを保った。「…大丈夫か?」。「…すまない、気が…抜けてしま、って…」。102

2016-09-11 20:01:18
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

イースの不安げな声が頭上から振る。その声と、己を支えてくれる腕のあたたかさに安心感を覚えながら、ハイドは視線を上へと向けた。「……っ」。刹那、その言葉が途切れる。抱えられるような体勢の中、至近距離で二人の視線が交わる。彼の綺麗な青い瞳に吸い込まれそうな感覚。103

2016-09-11 20:07:31
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

言葉を失ったハイドは、熱くなる顔を隠すようにイースから目をそらした。彼の目を見ていられない。心臓がこれまで感じた事のない速さで鼓動を刻む。「———!」。一瞬。イースに抱き寄せられたと気付くのに、そう時間はかからなかった。彼女を抱き締める腕の力は強く、呼吸さえ苦しいほどに。104

2016-09-11 20:16:08
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「…い、っ…」。「…っ、ごめん…」。苦し気に声を上げるハイドを見、彼は慌てて力を緩めた。自分の腕の中で縮まった彼女は、とても小さく、そして。「…ごめん、自分の気持ちに…歯止めが効かなくなって」。無意識に動いていた。彼女を想う気持ちは、彼の意識をも時に支配する。「…ハイド」。105

2016-09-11 20:21:12
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

改めて気付いた事がある。絶望と死の中で、己に希望と命を与えてくれたのは。「あの時...俺にかけてくれた言葉」。一度緩まった抱き寄せる力が、また強くなる。「...嬉しかった」。ハイドを想う彼の心は無意識に力となり、一層強く彼女を抱き締める「…君は、二度も俺を救ってくれた」。106

2016-09-11 20:38:25
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

再び向き直る二人。イースが紡ぎだす言葉の一つ一つを噛み絞めながら。「…今度は、俺が君を救う番だ」。交差する視線の中、彼の言葉はハイドの心に染み渡るように。真剣な眼差しは、彼女を捉えて離さない。逸らしたくても、イースの瞳はそれを許さない。「……一体、どうやって、……」。107

2016-09-11 20:53:17
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

羞恥心と戸惑いの気持ちは、何度もハイドの言葉を途切れさせる。彼の意図が、うまく読み取れない。それは感じる熱が、思考回路をショートに追い込んでいるからなのか。イースはその右手を彼女の頬に添えた。俯きかけた顔を自分の方へと向け、近付く。何か言いかけたハイドの唇を、塞ぐように。108

2016-09-11 21:17:27
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

優しく触れる場所から流れてくる彼の想いは、とてもあたたかくて。心地よく永遠にすら思える時間の中、名残惜しそうにゆっくりと顔が離れていく。「…君の背負う罪を、俺も一緒に背負うよ。…だから」。イースはその瞳にハイドの姿を映し出す。添えた右手で、彼女の頬に流れる涙を拭いながら。109

2016-09-11 21:29:30
ばしこし@文垢 @bs_ks_0

「俺と、一緒に居てくれ」。ハイドは頷いた。彼の言葉に、何度も何度も。流れ落ちる涙は止まる事を知らず、イースの手を濡らす。待ち望んだ未来は、恋い焦がれた人物は、あたたかく彼女を包み込む。彼の想いを胸に感じながら。ハイドもまた、彼への揺るぎない感情を再確認する。「愛してるよ」。110

2016-09-11 23:32:46
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