【ミリマスSS】音の雪#4(完結)【真壁瑞希】
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創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「しかしそれにしても、イベントというのは本当に行われているんでしょうか」瑞希は呟く。当然の疑問だ。こんなに静かなイベントというのは、基本的にはありえない。静かである、という状態に、何か意味があるのならば、話は別だが。「ステージにも誰もいなかったら、私はどうすべきでしょうか」 23
2016-11-16 22:28:59
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
足音が小さく柔らかくなる。ステージホール入口前のカーペットは吸音性に優れており、足音はほとんど鳴らない。瑞希は立ち止まった。ふん、と一息、ずずず、と何か重いものを引きずる音。二重扉の一枚目を引き開けているのだ。扉の底面がカーペットに擦れ、引きずられるような音が発生している。 24
2016-11-16 22:34:39
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「この劇場は、独りで歩くには、いささか、広すぎます」一枚目の二重扉がひとりでに閉まる。扉と扉の間の空間は、外界の音が遮断され、何も聞こえない。先ほどまでも静かだったとはいえ、電気の僅かな揺らぎや瑞希の足音、風の抜ける音、空調設備の音などが聞こえていたが、この場所は無音だ。 25
2016-11-16 22:38:04
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
いや……完全な無音というわけではない。ザー、ともサー、とも形容しがたい、静かな静かな音が鳴っていた。敢えて形容するならそれは、雪が降る音が聞こえるならばこんな音なんだろうな、という、少し冷たくて寂しい音だ。『この世界はかろうじて生きている』という声が聞こえるような音だ。 26
2016-11-16 22:45:20
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
俺は同時に、瑞希が電車の中で出会った346プロのアイドル安部菜々さんの話を思い出していた。“基調音”と呼ばれる音に関する話だ。『特別意識はしないけど、その音がなくなると、少し寂しい』、そんな音。「声がない世界は寂しいです」瑞希はそう呟いてから、もう一枚の扉を引き開けた。 27
2016-11-16 22:48:40
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「誕生日おめでとう！！！！！！！！！！！」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 29
2016-11-16 22:55:43
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
瑞希はどれほど驚いたことか。その驚きようは音からは察することは出来ない。瑞希は声も出ないほど驚いていたからだ。そして、俺は瑞希が驚く様子を“見ていた”。三日前の俺は二重扉の近くで瑞希が来るのを待っていた。瑞希はお約束のように目をこすってから、眼前の光景を改めて確認する。 30
2016-11-16 22:59:14
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
豪勢に飾り付けられたステージ。普段はステージ用照明が吊られている棒には「誕生日おめでとう」と手書きで書かれた紙がぶら下げられている。ステージ上には49人のアイドル、瑞希を除いた765プロ所属アイドル全員が揃っていた。スポットライトが瑞希を照らし出し、瑞希は目を細めた。 31
2016-11-16 23:03:31
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
俺《・》の革靴がホールの床を叩く音が近づいてくる。「ブルフP、これはいったい」「待て瑞希、先に謝っておこう」俺《・》は瑞希を制する。「俺は朝、『特別なことはしなくていい』と言ったな。アレは嘘だ。瑞希には特別なことをしてもらう」そう言って俺《・》は瑞希にある物を渡す。 32
2016-11-16 23:09:14
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
瑞希はそれを受け取って眉を寄せた。それはタスキであり、そこに書かれている文字は……「『今日の主役』……」「その通り。今日の主役は瑞希だ」「ミズキー！ 驚愕《サプライズ》しましたかー！」ロコの勝ち誇った声が飛んでくる。「「みずきんびっくりしてるよー！！」」と双子の声。 33
2016-11-16 23:14:32
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「なるほど」瑞希は神妙に頷いた。「つまり今日の皆さんは、私をここに誘導するために各所に配置されていたんですね」「さすが鋭いな。瑞希は気付かなかったろうが、765プロスクールには志保と奈緒がいたんだぜ。他の場所には、他のアイドルが」「瑞希ー！ おいでー！」奈緒の声だ。 34
2016-11-16 23:19:29
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
瑞希を、光と音が包んでいる。瑞希は微笑んだ。「嬉しいです」「ん。そうか。ならよかった」「誰が発案を？」「んー。今回の収録が瑞希の誕生日に被ったのは完全に偶然だったんだ。で、それをアイドルのみんなに話したら、誰ともなくこのサプライズが企画されてな。本当に、自然発生的に」 35
2016-11-16 23:24:01
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「そうですか」「『賑やかな音に囲まれてる方が瑞希らしい』って言ってたのは誰だったかな。瑞希は静かなイメージの方が強いが、みんなからすると逆だったんだろうな」瑞希はステージへの階段を降り始める。アイドル達は瑞希の登壇を今か今かと待っている。「あ、瑞希、質問なんだが」 36
2016-11-16 23:28:03
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
俺《・》は瑞希の背中に逡巡する。「……やっぱりいいや」「……？」「ほら、みんなが待ってるぜ」瑞希を呼ぶ声が俺《・》と瑞希を割いた。「そうですね」瑞希は階段を降りていった。俺《・》はその場で瑞希を見送り、ステージホールを後にした。……俺《・》関連の箇所は少しカットしなきゃな。 37
2016-11-16 23:33:34
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「瑞希ちゃん、これもどんどん食べてね！」美奈子が瑞希にどんどんとご飯を勧める。パーティーは佳境に達していた。瑞希には入れ代わり立ち代わり様々なアイドルが誕生日の祝いに押し寄せていた。「美奈子ちゃん、あんまり無理をさせてはいけないのですよ」どこからかまつりの声が響く。 39
2016-11-16 23:43:35
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
「すいません、少し席を外します」瑞希はそう言って立ち上がった。「えっ、どうしたの？ お腹こわした？」と美奈子。「薬あるよ」「大丈夫です」「お花摘みなのです？」「はい。すぐ戻ってきます」瑞希はそそくさとパーティー会場・ステージホールを後にする。 40
2016-11-16 23:46:45
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
ステージホールに最も近いトイレは、ステージホールに沿い奥まった場所に配置されている。ホールを前にして右手側が男性用、左手側が女性用だ。瑞希はもちろん女性用トイレへと早足で向かった。男性用と女性用は反対の位置にあり、当然だが俺は女性用トイレに入ったことはない。俺は唾を呑む。 41
2016-11-16 23:53:30
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
瑞希は個室の扉を開けて駆け込んだ。収録のことを忘れているのか、それともこの箇所はカットするものだと信じているのか、マイクのことを気にする気配はない。……もちろん商品にする際はカットするが、仕事だ、何が録音されているのか、俺は確認しなくてはならない。これは俺の責務なのだ。 42
2016-11-16 23:56:56
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
あたりは静まり返っている。床のタイルや木製の扉に反響するのは衣擦れの音だけだ。衣擦れ……つまり、瑞希が服を、脱いでいる。下着を、あの紺色のスカートを、ずり下ろしている。そういうことだ。当然だ、トイレなんだから。ここは真昼間の公園でもなければ夜の路地裏でもない、トイレの中だ。 43
2016-11-16 23:59:46
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
催した瑞希が服を脱ぐのは、何もおかしなことじゃない。何も、何一つも、まったくもって正しい行動だ。正しい。正義だ。そうこれは正義だ。不埒なことを考える悪は滅せねばならない。瑞希の行為はあくまで正義であり、男性諸兄が想像を掻き立てられるような悪の道へ踏み込むことはない、性的なものは何
2016-11-17 23:05:42
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
はぁ、はぁ、と荒い息遣いが聞こえてきた。荒い……まるで、獲物を前にして興奮した獣のような、息遣い。何を、何をしてるんだ瑞希！トイレの個室で息を荒げる！？いったいぜんたい何をしてるんだ！！俺がこのシーンをカットする保証なんて、どこにもないのに！そんな！ 45
2016-11-17 23:08:07
創務丹/蝶乃雨冠(ﾁｮｳﾉ ｳｶﾝﾑﾘ)
@chou_tan_
それなのに、瑞希、お前はまさか……！ト、トイレの個室で……！服を……下着を脱いで！つまりは、あの部分を外気に晒して！俺が聴いてるかもしれないのに！耳をそばだてて聴いているかもしれないのに！ああ！息が、お前、息がどんどん早くなってるじゃないか！？どういうことなんだ！瑞希ィッ！ 46
2016-11-17 23:11:56