【ミリマスSS】音の雪#4(完結)【真壁瑞希】

これ(http://togetter.com/li/1043303)の続き。 例によって本垢の解説実況が付いていますが、そのおかげでたぶんサムネがわけわかんないことになってると思うんですよ。 しかし気にしないでお読みください。 サムネは本筋と微塵も関係ありません。
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創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

(これまでのあらすじ:『一日を録音する』仕事を引き受けた真壁瑞希。彼女は各地で様々な音を拾い続ける。宮尾美也が従える竜に乗って向かう最後の目的地は765プロ劇場。双海姉妹やロコによれば、劇場ではなんらかのイベントが行われているらしいが……?)

2016-11-13 22:42:39
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

鳩竜は空を駆け抜けていく。風でマイクが飛んでいってしまわないか、というか誰か一人吹っ飛ばされでもするんじゃないか、俺は気が気でない。「もうそろそろミリオンモールですね」とロコ。「ハクくん、あそこに降りてください〜」と美也。慣れている。ドラゴン通勤は頻繁に行われているらしい。 02

2016-11-13 22:49:46
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「お手柔らかにお願いします。私はそこまで恐怖に強いたちではないので」と瑞希。風の向きが変わった。下降気流に入ったのだ。「おふ、おっふぇ……お手、柔らかく……」瑞希は風圧に妨げられうまく発声できていない。風の音を聞いているだけでも怖い、歩ややよいならば音だけで卒倒しそうだ。 03

2016-11-13 22:54:51
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

実際に体験したら、などとは考えたくもない。永遠に終わらないジェットコースターに乗せられた錯覚に囚われそうになったとき、ようやく風が和らいだ。体が一瞬持ち上がり、どすん、鳩竜の脚が着地する。ミリオンモールの手前の駐車場あたりだろうか。はたまたモールの屋根の上か。 04

2016-11-13 22:57:03
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「ありがとうございました〜、ハクくん」「センキューです!」風が収まる。鳩竜がハトに戻ったんだろう。どういう原理かは知らない。翼の音が空へ遠ざかった。「じゃあ行きましょう、ミズキ!シアターのイベントへ!」「はい。……ここまで来ると、俄然楽しみになってきました。……わくわく」 05

2016-11-13 23:02:32
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

三人は移動する。ロコと美也の足音が消えたかと思うと、今度は瑞希の足音も消える。何事か、と思ったが、三人はハシゴを降りているようだった。靴が錆び付いたハシゴを叩く。喧騒が湧き水のように溢れてくる。ホイッスルが聞こえる。三人はモールの屋根の上から地上へと降りているのだ。 06

2016-11-13 23:11:30
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

三人はミリオンモールに降り立つ。ミリオンモールは、765プロが経営する大規模店舗街だ。765プロ劇場『クリスタルドリーム』を中心として放射状にストリートが並び、各ストリートごとに設定されたテーマに合わせバラエティ豊かな店舗が揃っている。アイドル関連グッズ商品店は当然存在する 07

2016-11-13 23:17:02
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

それだけではなく、765プロとスポンサー提携やブランドコラボをしている企業の店舗もたくさんある。中には、アイドル達が持ち回りで運営する飲食店や、特定のアイドルをテーマとした店も存在し、アイドルを日夜愛するファンにとっては、まさに夢のような土地である。 08

2016-11-13 23:21:10
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

有名どころでは「アイドルハンズ(ウォームハンズ)」「ウォーク・オブ・リボンズ」「双子のいたずら専門店」「佐竹飯店出張店」「ミーツ・ニカイドウ」「瑞希の部屋」「765放送局第二支所」「レッドバロン」「ロコと歩の英会話教室」などだ。年々ミリオンモールは拡張され続けている。 09

2016-11-13 23:30:45
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

平日でもモールは盛況だが、週末になると平日のおよそ二、三倍の人で賑わう。この日もモールは人の足音・話し声がそこら中に溢れていた。三人は会話しながらモール中心の劇場へと歩いていく。モールにはファンが構成する自警団『補正官《ガードル》』が存在し、治安は保たれている。 10

2016-11-13 23:34:59
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

補正官《ガードル》のホイッスルがどこかから聞こえる。この場所に来るファン達は補正官《ガードル》や事前予習により『オフ時のアイドルに迷惑をかけない』ことを叩き込まれており、モールを歩くアイドルにやたらと絡むことはない。これにより、アイドル達もモールで買い物を楽しめる。 11

2016-11-13 23:38:00
蝶丹☔ @iamtantanman

なんとなく「ガードマン」的な響きに聞こえますが補正官《ガードル》の「ガードル」っつうのは女性用下着の名称です。『美しさを補正し大事な一線を守り抜く』的な意味合いですがネーミングセンスがヤバイし思考回路が気色悪い。誰だこんな名前にした奴。(画像のピンクのやつ) #shomupopo pic.twitter.com/ghDMnZA0At

2016-11-13 23:43:32
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創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

やがて、周囲を埋め尽くしていた靴の音、人々のざわめきがくぐもる。三人は建物の中へ、劇場の中へ入ったのだ。静かだ。祭りが開催されている気配もなければ、ライブが行われている気配もない。「静かですね」瑞希が俺の気持ちを代弁してくれる「電気も点いていませんね……どこでイベントを?」 12

2016-11-13 23:47:51
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

パチ、と瑞希が壁の凸を押し込む。カチカチ、とコンロを捻るような音がした。電気が点いたのだ。一瞬の静寂。三人以外、誰もいない。「ふしぎですね〜」「とりあえず、ウェイティングルームにでも行ってみましょう」控え室のことだろうか「どこもかしこも真っ暗ですね……」瑞希は少し悲しそうだ 13

2016-11-13 23:56:31
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「もうイベントは終わってしまったんでしょうか」「いえ、そんなことは……ウェイティングルームには誰もいませんね」「ステージの方に行ってみましょう〜」コツン、コツン、コツン。三人の靴の音だけが、廊下に響いている。「……初めてこの劇場に来たときのことを思い出します」 14

2016-11-13 23:58:36
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「そうですね〜」「ロコも今、同じことを考えてました」三人は廊下を歩きながら思い出話を始める。この劇場の名は『クリスタルドリーム』という。元々この地には『夢涯(ゆめはて)』という廃劇場があり、765プロが買い取って765プロ劇場『クリスタルドリーム』として再建したのだ。 15

2016-11-16 21:58:35
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

ここを買い取る前までは、採算の都合から、各地を転々とする小型劇場が劇場星《シアターズ》の拠点だった。「LTH戦略《ストラテジー》が始まってすぐでしたっけ、このシアターに来たのは」「そうですね……。埃が大量に舞う巨大廃劇場を見たときは何の冗談かと思いましたが……」 16

2016-11-16 22:01:49
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「みなさんと一緒にお掃除したらあっという間でしたね〜♪」「ええ。最初は、大きすぎるんじゃないかと懸念していたんですが、なんだかんだ言ってこの劇場は……宮尾さん、こっちです」瑞希が美也を引き留める。「ミヤ? まだですよ!」「瑞希さん先頭を歩いてください〜」「了解です。導くぞ」 17

2016-11-16 22:05:47
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

三人は今どの辺りにいるのだろうか。足音だけでは、さすがにわからない。しかし、俺の予測からすると、そろそろこのあたりで――「……なんだかんだ言ってこの劇場は、765プロ全員揃ってちょうどいい、くらいの広さですね」ロコと美也からは何の応答もない。――ロコと美也は―― 18

2016-11-16 22:09:21
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「……伴田さん? 宮尾さん?」瑞希の後方からは足音が消えている。「……ロコさん?」瑞希は振り返る。――二人は、瑞希の視界から消えている。そのはずだ。「えっ………………………………………………………………………………………………………………………………」瑞希は困惑している。 19

2016-11-16 22:12:34
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

無理もない。あずささんならまだしも、普段そこまで迷子率が高くはない二人が、一瞬にして消滅したのだ。まあ、美也は先ほど迷う前兆をしていたから、美也についてはまだ納得できるにしても、前兆も何もなかったロコまで消えてしまうのは、瑞希にとって全く理解できないことだったろう。 20

2016-11-16 22:16:11
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

「……宮尾さーん、伴田さーん」瑞希は控えめに二人を呼ぶ。返事はない。当然だ。二人は既に、その付近にはいない。「宮尾さーん」この劇場には隠し通路が幾つもある。「伴田さーん」それを使えば、誰にも気づかれず劇場内を移動できる。「宮尾さーん、伴田さーん」返事はない。 21

2016-11-16 22:20:37
創務丹/蝶乃雨冠(チョウノ ウカンムリ) @chou_tan_

二、三分ほど瑞希はそうして二人を探していただろうか。やがて、はあ、とため息をついた。「……とりあえず先へ進みましょう」瑞希は再び歩きだす。「きっとお二方は別ルートでステージホールに向かったのでしょう。また後で合流できます」一人分の足音が、劇場内に響いている。 22

2016-11-16 22:25:41