物書きだけど、ラノベ書くのそっちのけでガチで婚活してみた。 ~お見合いハイキング編~
- akegarasusarasa
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「そ、それじゃ、皆さん、始めますんで、二列でついて来てくださいね~~~」 と山岳ガイドさんが全員に声をかけた途端、 「……帰りてェ」 と、一瞬で彼らのテンションがガタ落ちになっていました。 早ッ! 心折れるの早ッ! まだ開始して二歩目ぐらいでした。
2016-11-24 21:14:58昔、クロネコヤマトでバイトしていたときに、花火大会の日にヤンキーが八人、休んだことがありまして。 「全員が『腹痛』で休みやがった! いいわけぐらい少しは考えろ!」 と、年老いたベース長が一個二トンもあるクール宅急便のボックスを押しながらガチギレしていたことを思い出しました。
2016-11-24 21:16:19でも、ヤンキーってそれで社会に適応できないのかと思いきや、おっかないからその労働力の穴をまわりの誰か(主に我々)が無言で埋めてゆくので、サボっていても、意外にオタクやニートタイプよりも上手いこと、世渡りしてゆけるんですよね(偏見です)。ヤンキー最強伝説。
2016-11-24 21:18:42さて、ハイキングは生憎の霧で、さして盛り上がらないまま下山となりました。 ヤンキー達はというと「帰りてェ」「ヒャッハーーーーーーーー!」のローとハイを繰り返しながら、しかし、実際に帰ることはなく、「列から離れないでください!」というガイドさんのいうことはガン無視。
2016-11-25 17:43:28サイレントヒルのような霧の中で消えたりあらわれたりして、神出鬼没。山奥でヤンキーが霧の中から急にあらわれるって超怖い。 ハイキングはさほど盛り上がらないまま下山(もう終わり)。 ロッジの厨房でカレー作りが始まりました。参加者達は男も女もヤンキーの監視下で黙々と料理をします。
2016-11-25 17:47:07ここでもプライベートな会話は一切、できない、婚活の場にはそぐわない緊迫した空気が続きました。 ヤンキーが居たぐらいで何を大袈裟な? と思われるかも知れませんが、彼らはそこらのヤンキーとはヤバさが違います。気に入った女性とLine交換をしたり、名刺一枚、渡すことですら危険でした。
2016-11-25 17:47:53万が一、彼らに名刺を奪われ、個人情報を知られたら、それこそ人生は終わりです。 文明社会など一皮剥けば、DQNの原始的な暴力によって支配されそうになることを、私は「ウォーキングデッド」で学びました。 我々にできることはただ粛々と、奴隷のようにカレーを作ることだけです。
2016-11-25 17:48:33同じ班の野球帽をまぶかにかぶった青年が、人参を刻みながら小声で私に囁きました。 「チッ、会話もできないって、どんなお見合いパーティーだよ」 「……シッ! 彼らに聞かれたらブッ殺されますよ!」 幸い、うちの班のヤンキーは女子と何か喋っていたため、聞き咎められはしませんでした。
2016-11-25 17:50:14アラサー女子と喋るヤンキーは婚活っていうより、カツアゲの現場にしか見えませんでした。 「女子と喋ることはおろか、私語もままならない! おかしいですよ! こんなお見合いハイキング!」 帽子の青年は誰もが思っていることをストレートに吐露しました。確かにおかしいです。
2016-11-25 17:52:48でも現実にお見合いハイキングがヤンキーの襲撃(参加)に遭っているのですから仕方ありません。 「お、俺、今日、誕生日だったのに……軽く祝って貰おうと思ってたのに」 ああッ! それはなんだか可哀想です。私が知る限り、最悪の誕生日だと思いました。ハッピーバースデイ(適当)。
2016-11-25 17:55:58さて、カレーはなんとかできたんですが、材料を一人一品、持ってくる闇鍋的なルール。私は料理用赤ワインを持って行きました。 カレーに赤ワインを加えるとコクが出て、色もハヤシライス風のルウになり、好き嫌いは分かれるものの、悪くないです。 ところが、うちの班に居たヤンキー。
2016-11-25 17:57:53華奢ですが、富樫が描くヤバい人の目をしたようなキャラなんすが、カレーを一口食べるなり、 「ゲロ吐きそう。ぺっ!!」 と、ご丁寧に一度、口に入れたものを皿に吐き出しました。 他人の皿にではなく、自分の皿に吐き出したのがまだ救いですが、さすがにムカッと来ました。
2016-11-25 18:00:54が、安全圏で生活してにおりますと、年下の相手からそんな失礼なことをいわれた経験も乏しく、完全に思考停止をしてしまいます。 「キミキミ、いくらなんでも失礼だよ」 なんてことを口走ろうものなら顎に一発、いいやつを貰いそうでしたので、みんなして( ゚д゚)ポカーンとしてました。
2016-11-25 18:02:34そうこうしているうちに、ただスプーンが食器をカチカチ叩く音とヤンキー達の嘲笑のみが聞こえる楽しい食事の時間も終わりまして。 好みの相手の名前を紙に書き、成立したカップルを読み上げるマッチングタイムになりました。 「オレだめだ~~。ほとんど喋れんかった~~」 「オレも~~~」
2016-11-25 18:05:06あちこちから男性陣の弱音がこぼれます。 私もモチロン、「芋、もう入れていいっすか?」ぐらいしか女子と会話をしておりません。 しかし、アウトドアファッションのセレブ男子達の何人かは女子と喋れていました。 ヤンキーはともかくとして、これは彼らに女子を総取りされたのかな――?
2016-11-25 18:06:11と、思ったのですが……。 「本日の成立カップルは……」 タカタカタカタカ~~(ドラムロール)。 「0組です!!!!」 主催者の一人が成立カップル数を読み上げた瞬間、人々がざわめきだちました。 ゼロ? ( ゚д゚) 男女合わせて100人近い人間が参加して、ゼロって!
2016-11-25 18:08:31全員(ヤンキー含む)がポカーンとしてしまいました。 しかし、この結果には無理もありません。 前述した通り、会話をすることもままならないお見合いハイキング。 こんなところで目立ってしまったら、男子は生命の危機、女子は貞操の危機を感じずにはいられません。
2016-11-25 18:09:50それでも終了後、駐車場から車に乗るまでに女子に連絡先を渡そうとする勇士も何人かいました。 しかし、女子達は猛ダッシュで軽自動車に乗り込み、アクセルベタ踏みで下山してゆきます。イニシャルDみたいでした。 こうなると、もはや五体満足で山を下りられたことを感謝するしかありません。
2016-11-25 18:11:58なお、一緒にカレー作った帽子の青年とだけは名刺交換をして、フェイスブックで今でも繋がっております。 それから一度も会ってはいませんが、遠くで元気そうに暮らしております。 ただ、毎年、この時期になると、 『今日は〇〇さんのお誕生日です。お祝いのメッセージを送りましょう。』
2016-11-25 18:13:49と、いうメッセージ表示されるたびに、 あの緊迫感溢れるお見合いハイキングと「ヒャッハーーーーーーーー!」の声が蘇り、私は深夜に一人、ベトナム帰還兵のような心持ちになるのでした。 (つづく)
2016-11-25 18:14:42