未完成世界の鎮守府　第6話

奇くらげ@金曜日東へ45a 12/4岩岡M16A1 @boneofjellyfish

＃未完成世界の鎮守府　06（上）ハヂメ

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海洋情報軍呉海防管区所属阪神防衛隊、別名・六甲鎮守府。私の新たなる居場所。 そこは実に奇妙な場所だった。何が奇妙なのかといえば、それはまず鎮守府施設そのものにはじまる。 そこそこの市街地と工場地帯の沖合にある浅瀬。そこに一隻の駆逐艦が停泊している。#未完成世界の鎮守府

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正確にはもう駆逐艦ではないし、停泊といってもおそらく二度と動くことはない。元海上自衛軍所属の駆逐艦「あさぐも」。直線基調のデザインを持つこの船は10年ほど前、回航中に深海棲艦の攻撃によって漂流しこの場に座礁したらしい。 #未完成世界の鎮守府

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既に退役済みだった彼女はそのままこの場所に据えられたまま、洋上施設となった。 彼女と、彼女に横付けされた3隻の錆だらけの台船や艀。これが六甲鎮守府の全敷地。その上に各種対空兵器、何棟かのプレハブ小屋、そして温室がおもちゃ箱を引っ繰り返したように配置されている。#未完成世界の鎮守府

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そして問題が一つ。元々が駆逐艦だから非常に狭い。その犠牲になったのは開発設備だ。入渠施設のおまけとして装備開発、それも大がかりでないものをするのがやっとという有り様で― ―― #未完成世界の鎮守府

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チーン、という些か間の抜けた音が鳴り響いた。その音源である開発機器の蓋を開けると、中には艦上攻撃機・彗星が鎮座ましましていた。 「まぁ、ハズレではないわね」 私の後ろから機械の中身を覗いた提督さん―栗林由希子一等情報正（大佐）は苦笑気味にそう呟いた。 #未完成世界の鎮守府

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「あの、すみません」 「なに、誰がやってもこれを思い通り操ることはできないの。あなたに責任はないわ」 「にしても出ないわね」 「この機械、一体何なんですか」 #未完成世界の鎮守府

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「私たちにもよくわからない。この妖精がいなければ動かせず、しかも妖精の存在をもってしても特定の装備を狙って作ることは無理。工業製品としてははっきりいえば失格よ」 #未完成世界の鎮守府

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それが証拠に各機械メーカーが自分たちだけでこれと同じ開発機を作ってもそれはまったく機能しなかった、と提督さんは続ける。 「少なくとも、強力な対地攻撃用の装備が開発できない以上、今回の特定海域攻略への支援攻撃は困難ね」 「では」 #未完成世界の鎮守府

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「これ以上の投資ははっきり言えば無駄よ。通常警備任務も続けなければいけない以上、資源は温存しなければならない」 「今回の海域はひどいの？」 「ひどいなんてもんじゃない、過去最悪の困難さとかいう評価も聞こえてくるわ」 #未完成世界の鎮守府

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「他の似たような部隊じゃ、虎の子の航巡を喪失したなんて話も聞くわ。まぁあなたたちの連度の向上や、新規人員の獲得には成功したしそれでよしとしましょう」 提督さんの言葉に私は思わず工廠棟の薄汚れた窓に目を向けた。 #未完成世界の鎮守府

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その向こうでは新たに配置された陸奥、阿賀野、そして磯風が教導役を務める吹雪を先頭に、ミリタリーケイデンズを歌わされながらランニングをしているはずだった。 「開発は中止、連絡担当の萱島は引き上げさせます。申請書類は…明日でいいわ」 「了解」 #未完成世界の鎮守府

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その時、工廠の壁に付いている内線電話が鳴った。提督さんが受話器を取る。 「こちら作業部、栗林です。鳳阪鎮守府から？…ふん…海域輸送の…分かったわ。すぐ戻るから保留にしておいて頂戴」 #未完成世界の鎮守府

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「ところで今日はまだ退勤時刻ではないわね？」 受話器を元に戻した提督さんが私に尋ねた。 「はい」 「じゃあ隼鷹の艦載機整備を手伝って頂戴、それが終わったら本日は上がりでよろしい、復唱」 #未完成世界の鎮守府

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「了解、復唱します。瑞鶴‐仁島准尉相当官は現時刻1440をもって開発任務従事を終了、隼鷹‐堀部少尉相当官の艦載機整備任務の支援につきます。以上です」 私たちは型通りの敬礼を交わすと、それぞれにとっての持ち場へ続く出口へと歩いていった。 #未完成世界の鎮守府

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―天気はよろしい、まことによろしい。ただ、息ができぬだけ。 フィリップ・K・ディック「高い城の男」より― #未完成世界の鎮守府

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それは私が左手と引き換えに1個部隊と渡り合った3日後の昼のことであった。 「あるいはそれを見越した部隊配置をなぜ行わなかったのか」 「野島近畿防衛局長」 「その件に関してですが、過去34年にわたり大阪湾内での不可知海域出現は確認されておらず…」 #未完成世界の鎮守府

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大阪で行われた関西地区の自治体担当者―はっきり言えば知事たちその人であるが、それと軍関係者を呼んだ対策会議。それはもはや名ばかりで、実際は軍関係者を糾弾する宗教裁判と化していた。 #未完成世界の鎮守府

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軍の事務担当のいい年をした人たちがいかにもテレヴィジョン受けしそうなエネルギッシュな…いや、彼もその顔がひどくむくんでいる、そんな市長に散々どやされている。その光景を冷ややかに見るより年嵩な中高年たち（すなわち他の自治体の知事や担当者たち）。 #未完成世界の鎮守府

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その空間はよくこれだけ続くものだと思うほどの、聞くに堪えない言葉で支配されている。いや、その言葉を発し続けている彼でさえ、一体何を自分で言いたいのかわかっていないのではないかとさえ思われる。 #未完成世界の鎮守府

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まるで軍艦としての私が沈んだ後、連合国への降伏を決めるために喧々諤々の議論を行った、その様子を描いた映画よりもはるかに醜悪なものを見せられている気がした。 #未完成世界の鎮守府

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「あなたの言動はすべて言い訳に聞こえるッ」 「お言葉ですが、我々は国民の税金に基づき適切な安全保障体制を構築し、国民の生命財産を保護することを職務としております。その点に関して適正な部隊配置を―」 「その部隊が大損害を被っては元も子も―」 #未完成世界の鎮守府

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はっきりいえば、私を含むこの場の軍関係者は呈のいい贖罪羊―いや、もしかするとあの牧野尾とかいう男を含めてここにいる全員がそうなのかもしれない。 #未完成世界の鎮守府

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私の横には近隣の鎮守府の提督とその秘書官のための席が用意されていたが、そのすべて空席になっていた。緊急警備出動を理由に欠席したらしい。当然だ。今最前線で警戒任務に当たっている人間からすればこれほど馬鹿馬鹿しい会議はないだろう。来なくて正解だ。 #未完成世界の鎮守府

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「栗林…一正、あなたはこの件に関してどうお考えか」 「栗林阪神防衛隊司令」 ああ、ついに提督さんも祭壇に上がってしまった。もしかして来るのではなかったのかもしれない。 #未完成世界の鎮守府