未完成世界の鎮守府　第6話

奇くらげ@金曜日東へ45a 12/4岩岡M16A1 @boneofjellyfish

「その件に関して私は意見を表明する立場にありません」 「あなたの行動に問題はなかったのか」 「私は自身の職務に従ったままです。その適格性を判断するのは私ではありませんよ」 「では誰だというんだ」 #未完成世界の鎮守府

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「ご存知ありませんか、我等が最高指揮官、内閣総理大臣その人ですよ」 「あなたは詭弁を呈するのかッ」 「ああ、付け加えていうならさらに先がありますね。その総理大臣を選出した日本国民です、当然それにはあなたの選挙区民も、あなたもふくまれますが」 「…」 #未完成世界の鎮守府

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「牧野尾さん、もうその辺でよろしいんじゃないですか」 初老の偉い人―たしか京都府知事だったか―が聞き飽きたという感じでなだめはじめた。「それに…」 「市長、そろそろ議会のお時間が」 #未完成世界の鎮守府

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「では本日はこれにて閉会とさせていただきます。この件に関しては自治省を通じて厳重に抗議させていただきます」 そう吐き捨てると牧野尾という男はうんざりした様子の秘書を連れ会議室を出て行った。 #未完成世界の鎮守府

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―― 「やれやれ、ずいぶんと見苦しいものを見せてしまったようね」 結局会議は自然解散となり、私たちは外の廊下を覇気もなく出口へ向かって歩いていた。 「本当に抗議があった場合どうすればいいでしょう？」 #未完成世界の鎮守府

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「ないわよ。あれは自分の苛立ちをどこに振り下ろせば分からないのか分からないからそう言ってみただけよ。だいたい彼、政治主張としては以前は中央省庁を解体するなんて言って言ってたのよ」 自治省としても抗議された所で困るでしょうね、と面白がるように提督さんは言った。 #未完成世界の鎮守府

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「お話し中失礼します」 声がした方を振り返った。そこには暗緑色の制服をかっちり着込んだ男。 「陸上自衛軍第3師団参謀本部所属、入江真吾中佐であります」 実に軍人らしからぬ爽やかな顔の青年、軍隊より街角の交番が似合いそうな男だな、と私は思った。 #未完成世界の鎮守府

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「火砲を出せないかとの件ですが」 「どうなりました」 「やはり大規模なものは無理です。ナナマル（70式戦車）を予備含め3両、ロクマル（60式106㎜自走無反動砲）を5両、これも予備含むです」 「それだけあれば十分です。この件八王子は何と？」 #未完成世界の鎮守府

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「事が事だけに、一括で処理できるよう調整しているので、とりあえず現場のことは地方局レベルで何とかしてくれということです。おたくの支管区長と御木川くん、でしたか、彼らに駆けずり回っていただいて何とかここまで」 #未完成世界の鎮守府

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「ありがとうございます。で、陸さんとしては直掩にどの程度をご希望ですか」 「作戦参謀から要望を預かってきました」 こちらです、と入江中佐は提督さんに数枚の書類を手渡した。それを受取り、中身を確かめた提督さんが一瞬顔をしかめたのが分かった。 #未完成世界の鎮守府

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「…あー、頭数は足りています。ですが指揮官―正規のですが、それと編成が間に合わない。呉に人を出してもらえるよう頼んでみますがすぐは厳しいでしょう」 「やはりそうなりますか」 「あと、こちらの秋月型駆逐艦ですが、うちの鎮守府には現在在籍しておりません。」 #未完成世界の鎮守府

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「他の艦隊から廻してもらうのもかなり厳しいでしょうね…。あぁ、代わりといってはなんですが、L90（35㎜2連装高射機関砲）と67式対空ロケット、あと艦娘用装備の25㎜単装機銃を準備させます。確約はできませんがそれで何とか」 「お願いします」 #未完成世界の鎮守府

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「何を考えているのです」 見送る入江中佐を後に階段を下りながら大淀が提督さんに尋ねる。 「友ヶ島をアラモの砦に仕立て上げるのよ」 「その表現は不吉すぎます。せめてサムター要塞程度になりませんか」 「虎頭要塞でもいいわよ」 #未完成世界の鎮守府

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「提督はそれでも構わないかもしれませんが、あいにくこちらは旧西側圏です。ところでドボクグループに連絡を取りますか？」 「今回はいいでしょう。借りはなるべく少なくしておいたほうがいいわ」」 何やら訳がわからないが、話が大きくなりかけているのは間違いない。 #未完成世界の鎮守府

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「…提督、瑞鶴さんの理解が追いついていないようです」 「えっ、あなた、どこまで理解しているの？」 「提督さんがあの島を、要塞にしたがっていることはなんとなく」 「えーっと、違うのよ、そう…難しいわね」 提督さんがどうも慌てているようなそぶりを見せる。 #未完成世界の鎮守府

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さすがに身内が理解していないことには危惧があるのか。いや、そもそもこの人の態度はどこまでが本気なのだろうか。 「大淀、あなた説明して頂戴」 「仕方ないですね。では時間も時間ですし、続きは帰りの車の中でしましょうか」 #未完成世界の鎮守府

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ツイ鎮の続きを出しておく

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鎮守府の業務用車である日産セドリックは大淀の運転によって非常に軽やかに転がされていた。それは彼女の運転技術がうまいということを差し引いても、やはり渋滞するほど自動車が多くないためだろう。どうやらこの世界でも深海棲艦の攻勢が自動車にまで影響しているらしい。 #未完成世界の鎮守府

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「で、どうですか？腕の調子は」 「上々よ。むしろ上々すぎて不安になる位」 #未完成世界の鎮守府

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軽巡ホ級によって噛み千切られた私の左腕。今、その左腕は確かに存在している。もちろん勝手に生えてきたわけではない。 #未完成世界の鎮守府

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これはあの場で私とごく短い邂逅を果たし、そして私の身代わり（本人が違うと言うとしても事実はそうだ）となって吹っ飛んだ大井の左腕―川内が回収してきたそれを縫合したものだった。聞くところによればこの世界では艦娘というものはそういう風に修理、いや治療できるらしい。 #未完成世界の鎮守府

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砲撃で吹っ飛ばされた脇腹も同様に細胞から作った部位を移植し、そして砲身が刺さったあばら―おっと、これは普通に縫合されたものだった。 #未完成世界の鎮守府

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「で、手術後3日目で一応安静にしていろという私を叩き起こして、あんな場所に連れて行って、これ以上何を理解しろというの？」 「瑞鶴」 大淀は私の隣に座る提督さんの気分を推し量ったのか、やや嗜めるように言った。 #未完成世界の鎮守府

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「構わないわ、それは事実だもの」 「…わかりました。では説明します」 #未完成世界の鎮守府