「超準解析は結局どんな感じの本でやるのがいいのでしょうか」に対する答

相転移Pさんに「超準解析は結局どんな感じの本でやるのがいいのでしょうか」と聞かれたので答始めたのですが,思いつきでだらだら書いてしましました.
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dif_engine @dif_engine

functional_yyさんから,ISTでも外集合まで範囲を広げれば正則性は一般には成り立たない旨のご指摘がありました.(いままでの連ツイではISTでの proper なset formation を前提としており,外集合は視野にいれていなかったことも付記しておきます)

2016-12-27 01:41:15
dif_engine @dif_engine

集合論の便利な公理として内包性公理(図式)だとか,もっと一般に置換公理(図式)があります.これはほげほげという性質のやつをXのなかから全部とってきて,みたいな気持ちを形式化したものだと言えるでしょう.

2016-12-27 01:43:09
dif_engine @dif_engine

ISTでは std という述語が追加されている都合上,内包性公理図式を無制限に拡大することはできません.「その代わり」に使えるのが公理図式(S:standarization)です.

2016-12-27 01:44:52
dif_engine @dif_engine

そうは言っても,無制限に内包性を使ってみたい場合があります.こうして作ったものはISTの世界からは improper set あるいは同じことですが proper class になってしまうとみなせます.

2016-12-27 01:46:53
dif_engine @dif_engine

ZFCって言ったじゃねえか,なんでBG集合論ぽい用語が出てくるんだよ,というほんっっっっとに些細なことにコダワッてしまうあなたのために,例えばIST集合論のモデルが推移的なクラスとして与えられていて…みたいなセッティングで考えればいいよという話がIST論文に載ってます.

2016-12-27 01:49:57
dif_engine @dif_engine

集合論の神である竹内外史の「現代集合論」ではゆるっとしたクラスベースでほわっとZFCが展開されているので,そういうのでいいんですよ(悟り)

2016-12-27 01:51:07
dif_engine @dif_engine

まあ,そうやってISTの世界からはみ出てしまう集合には,例えば halo(光暈)だとかgalaxy(銀河)とかいう少年のピュアな心を刺激する名前を持ったやつがあって,イケます.

2016-12-27 01:53:06
dif_engine @dif_engine

名前だけイケてるんじゃなくて,実際,ISTで「コンパクト集合上の一様収束する連続関数列の極限関数は連続である」みたいな定理を証明しようとすると必要.

2016-12-27 01:54:12
dif_engine @dif_engine

せっかく集合論宇宙全体を超準化みたいなかっこいいこと言っていたのに,その集合論宇宙の外側にはみ出して議論しなきゃいけないということを,別に気にしない人と,めっちゃ気にする人がいます.

2016-12-27 01:55:36
dif_engine @dif_engine

Nelsonは別に気にしない人でした.「だって,外集合に関してめっちゃ厳しい操作とかする必要は(知る限り多分絶対)ないし,ええやろ」という感じでした.まあ多分.

2016-12-27 01:56:55
dif_engine @dif_engine

Hrbáček(覚えてる?1978年に超準集合論を発表したひとだよ)は,「外集合死すべし」と唱えたのです.妻子を外集合に,マルノウチ・スゴイタカイビルで殺されたのかよというぐらいに彼は外集合を憎みました(ほんとかなぁ).

2016-12-27 01:58:48
dif_engine @dif_engine

かくして超準ニンジャソウルに憑依されたHrbáčekは,外集合スレイヤーとなって,日々スゴイツヨイ超準集合論を作り続けたのでした.

2016-12-27 02:00:01
dif_engine @dif_engine

その他にISTに不満を持った人の代表がPéraireです.Péraireは,std という述語は二項述語であるべきだと考えました.A.Robert流の説明を借りてこの状況を説明すれば,「x は y に対して相対的にaccessibleである」という感じになるわけです.

2016-12-27 02:06:09
dif_engine @dif_engine

PéraireのRIST(relative IST)は,ネルソンの I をもっと複雑にした形をしてます.Hrbáčekは(この辺は私の推測ですが)「私のBISTと組み合わせればもっと簡単になる」と考えました.かくして生れたのがRBSTです.

2016-12-27 02:07:40
dif_engine @dif_engine

そうだ,話が前後してしまいましたが,相対化のメリットは「複数回移行できる」ことです.さっきの例,一様収束する関数列の話では,移行原理が複数回使えないことから外集合をつかった議論を強いられていたとも解釈できます.RBSTでは,この例を始めとした二重極限などがちょっと楽.

2016-12-27 02:16:49
dif_engine @dif_engine

HrbáčekのBISTは,ネルソンのreduction algorithmについての不満を解消するために作られたと解釈できます.ISTの論文のアルゴリズムは,ネルソンが主張するような一般形では実行できないことがあります.

2016-12-27 02:09:38
dif_engine @dif_engine

これを救うためにはつねに量化がbounded な形で現れていればよく,さらに量化の範囲が std であれば良い...というような観察からBISTが生れたのだろうと推測してます.

2016-12-27 02:10:54
dif_engine @dif_engine

RBSTで解析学を基礎からやってみせた例としては Hrbacek らによる amazon.co.jp/dp/B00OYUO512/ があります.

2016-12-27 02:14:07
dif_engine @dif_engine

ISTによる解析学の本は,長年 Alain Robert の本(絶版)しかなく,フルに微積分を基礎からやってみた本でもありませんでした.しかし,(そこそこ)2011に Nader Vakil による amazon.co.jp/dp/B00AKE1Y9M/ が出ました.

2016-12-27 02:19:59
dif_engine @dif_engine

(Vakil本は最近まで把握していませんでした.うにさん情報ありがとうございます)

2016-12-27 02:20:54
dif_engine @dif_engine

Vakil本の範囲は,大体で言うと,杉浦解析入門からベクトル解析と複素解析を抜いたぐらいです.500pもあるので,もう少しなんとかしてほしかった気もしますが.

2016-12-27 02:22:17
dif_engine @dif_engine

強引にまとめに入る. 超準集合論のメリット:広大化だとか飽和モデルの話に煩わされる必要がない 超準集合論のデメリット:ISTが比較的使われているが,外集合をつかって初等的な解析学をやってみせるような本は少ない(A.Robert,N.Vakilしか知らない).

2016-12-27 02:24:43
dif_engine @dif_engine

超準解析を上部構造でやるにせよ,超準集合論でやるにせよ,基礎論の初歩的な話題である「言語と構造」だとか,公理的集合論では「有限性」をどう扱っているかみたいなことはよく理解しておかないと,多分消化不良を起こすでしょう.

2016-12-27 02:26:27
dif_engine @dif_engine

この辺に関しては,キューネン「数学基礎論講義」あたりが良い準備になると思います.

2016-12-27 02:27:20