【憑依:ホラー】氷井町フォークロア「涼しい部屋」

いわゆる小説モドキ。 忘れ物をした女の子が底冷えする話です。
0
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

それにしても、近頃の忌々しきこの暑さ。 どうにかして憑依のネタにできないものでしょうか。

2016-08-17 00:12:18
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

む、では逆に、怪談『涼しい部屋』といったような展開はどうでしょうか。

2016-08-17 00:13:16
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ 旧校舎部活棟の一室には、いつも気温の低い部屋がある。 日の当たり方か、風の流れからか、とにかくそこは一年中、妙にひんやりとしているのだ。 もちろんこんな部屋は格好の「怪談の種」だ、流れている噂をまとめると、こうなる。

2016-08-17 00:21:46
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∵∴∵ 「かつて寒さで死んだ人間を祀る祠があり、それを取り潰して学校が立てられた」 「その祠があった位置こそ、この教室の真下なのだ」と。

2016-08-17 00:23:44
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ 「そして、その祠の怨霊達は今も寒さに震え続け」 「暖かい人の温もりを求めて人を呼ぶのだという」

2016-08-17 00:27:38
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ だが「涼しい部屋」は、そんな怪談をものともせず、暑さに喘ぐ生徒達によって利用されていた。 部活後の休息、期限の近いレポートの仕上げ、サボっての一眠りなど、ただの便利な空調スペースであるかのように扱われていた。

2016-08-17 00:31:52
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ そんなある日、忘れ物をした少女が、夜の学校に忍び込み、 『涼しい部屋』でモノ探しをしていた。 「おっかしーなぁ、確かこの辺だったと思ったんだけど」

2016-08-17 00:36:31
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∵∴∵ 少女は机の奥をガサゴソと漁り、出てくるもの一つ一つにため息をついている。 「うぅ~! アレが見つからなかったら追試になっちゃうよぉ、この部屋にある筈なのにぃ~!」 「……それにしても、この部屋ってこんなに寒かったっけ?」 「まだ八月の夜だよね……?」

2016-08-17 00:44:01
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ 指先が震え、手足が悴む。まるで、雪の中に居るようだ。 そんな事を考えながら手を動かしていると、一枚の紙が滑り落ちた。 「あ!」 「あった! これだぁ~! よし、急いで戻らないと!」 少女は探し物を手に取り、ドアへと急ぐ。 だが―― 「あ、あれ? ドアが開かない……?」

2016-08-17 00:49:57
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ 部屋のドアは、凍り付いたように動かない。 「なんで!? この部屋カギなんて無かったはず……!」 刺すような冷気が肌を突く。 そして―― 「ヒッ!!?」 一際強烈な冷気が、少女の背筋に走った。

2016-08-17 00:55:54
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∵∴∵ 「ぁ……ひぅ! ……やぁ……なに、これッ!!」 少女の身体は寒さに凍えるように、身体を丸め、全身を震わせる。 その時、彼女は確かに聞いた。 怪談の主の、怨嗟を。 『寒イョオォオ! ココハ冷タイィィィィ!』 『タスケテクレェ』『温モリヲォォォ……』

2016-08-17 01:11:30
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ 少女の意識はそこで途絶え、その肢体は床に崩れ落ちた。 おぞましいほどの冷気は掻き消え、湿気を帯びた生ぬるい暑さが部屋に充満していた。 暫くすると、倒れ付した少女が目を醒まし、立ち上った。 俯いた様子で、表情は伺えない。

2016-08-17 01:19:33
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

∴∵∴ 少女は口の端を上げ、自らの身体を抱き締めた。 「ャっタ……」 「カらダだ……ヌクもリだ……」 そして、自らの身体を撫で回しながら、言った。 「……あタタかイ……!」 「もウ、こレで、寒くナい……!」 少女はとても愛おしそうに、その身体をずっと撫で続けていた――

2016-08-17 01:33:07