連作ツイノベ・「中国地方の魔法少女は――【第１章】」

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

ボク、鹿白月那の朝はそれなりに早い。朝の日課を考えると午前5時半の起床からほとんど動き尽くめだ。作家業である母は、昼夜の概念をとうの昔に放棄しているので、家のことはだいたいボクがやるようにしている。そうしないと一般社会のリズムに取り残されるから。主にゴミ捨てで。 #twnovel

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「――よし」洗濯物は干したし、洗い物も済んだ。今日はごみの日じゃない。炊飯器は昼に炊きあがりで予約済み、おかずは冷蔵庫の中いつもの所。問題無し。エプロンを外し時計を見る。午前7時57分。予定通り。玄関で靴を履き実習服の上着を取り、声をかける。「いってきまーす！」 #twnovel

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案の定返事は帰ってこない。寝ているんだろう。今朝はいつまでやってたのやら。上着に袖を通しカバンを背負いつつ玄関脇に回り、自転車を引っ張り出す。ボクの通う呉高専――独立行（略は家から自転車で10分ほど。通学の便はいい。そして「行ける？」「準備万端です、マスター！」 #twnovel

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ぽんっ、とそんな音と共に自転車のハンドルに現れたのは見まごうこと無きシマリス。見るからにふわふわした体は全体を茶色の毛に覆われ、背中からわき腹に走る三本の白い縞が特徴的。体に対して大きめの尻尾は先を丸め込んでいてキュート。ええ、所謂『魔法少女のマスコット』です。 #twnovel

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そんな見た目シマリスなこの子の名前はエゾ。「リスと言えば北海道じゃないですかっ！」とのことで、名前も本人の申告です。――使い魔の命名とか魔法少女の楽しみだと思ってからそこんところ実は残念かなって思ってたり(苦笑)。でも可愛いから許せちゃう――って親バカみたい？ #twnovel

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「マスターマスター！早く行きましょう！」「あ、そうだね」そんなことを考えてたら少しぼーっとしてたみたい。道路へ出て自転車に乗ると、ハンドルから器用に腕を伝い、トテトテと肩に上ってくるエゾ。エゾと出会ってからかれこれ一週間、ボクの肩上はエゾの定位置に決まりである。 #twnovel

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魔法少女になると決めたあの日、あの後、夕食まで食べた加奈さんは帰り際に「あ、そうだ。明日日曜日だけど予定あいてるかな？」なんて言い出した。「明日は――午前中部活です」年度明けの始業まで一週間、部活しか無いけど。「じゃあお昼からにしよう。13時ごろ迎えに来るね♪」 #twnovel

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翌日、午前中に部活を終えて帰ると、母と加奈さんが居間でお茶を飲んでいた。「ただいま、母さん――と、加奈さん」「おかえりなさい、月那」「つっきーおかえりー♪」さすが堂々としてる。「加奈さん、一時間以上早いですよ？」「うん、お昼ごはん一緒に食べたくてねっ♪」はっはっ #twnovel

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「ごちそうさまでした」――結局、あまり時間も無いので豚肉と残りの野菜で簡単に味噌炒め。ご飯は朝出る前に予約してあったし。「それじゃ加奈さん、ちゃっちゃと片付けて支度するんでもう少し待って下さい」「うんうん、大丈夫だよ」と、「月那、代わりましょう」珍しい声がした。 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「母さん？」「そちらの片づけは私がやっておきますから、あなたは支度をして来なさいな」「あ、うん、ありがとう」別に母さんに任せるのに問題はない。普段ボクが家事をしているのはただ仕事で忙しい母さんの代わりなだけだし。「なによりあまり人様を待たせるものではありません」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「じゃあ上で着替えてくるね」「ええ、こちらは母に任せなさい」母と入れ替わりにキッチンを出ながらエプロンを脱ぐ。あ、そうだ。「加奈さん」「ん？」「今日は結局どこに行くんですか？服装の都合もありますし聞いておきたいんですけど」「うんとね、ウチに――協会にご招待だよ」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「協会とは言っても本部は関東にあるからね。今日行くのはもちろん我らが中四国支部だよ」顔合わせ、紹介、そういうことらしい。「ついでに魔法少女の準備――戦闘衣装とか魔法を使う時の媒体、使い魔、いろいろするつもりだから、服装はいつも通りでお願いね♪」いつも通りかぁ…… #twnovel

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そして――「お待たせしました」「おお、そうなるんだ？」着替えてリビングに降りてきたボクに加奈さんも少し苦笑気味の様子。「制服以外だと大抵こんな感じで機能性重視になっちゃうんで」カーゴパンツにウエストポーチ、Ｔシャツの上からパーカーを羽織って、「実習服を上に一枚」 #twnovel

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この実習服、要するに高専機械科生が機械実習の授業のために購入する作業着なんだけど「使い勝手が良いんですよねー」用途が用途だから油汚れにも強いし、作りの深い左右ポケットはそれを利用して内ポケットもあるし、ボタン付き胸ポケットも左右両方。「ああ、素晴らしき機能美哉」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「つっきー、普段そう言う恰好なんだね？」「ええ、はい、まぁ」「うんうん、いいね。そのジャケット風の実習服とウエストポーチが特にいい。デザインに組み込みやすそうだ♪」え？「これでデザインするんですか、衣装？」「うん。つっきーも着なれた服の方が動きやすいでしょ？」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

パシャ「魔法少女の衣装だもん、結局は戦闘用の服だからね。動きやすくて防御もきちんとできて、それでいてみんなの憧れる魔法少女らしさがあって――まぁうちのデザイナーも優秀だから心配はいらないよー。あ、次後ろ向いてー」パシャ。なぜか加奈さんに写真を撮られているのですが #twnovel

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「この写真データを先に送っておくの。これを基にデザインプランをおこしてくれるから」PDAを操作する加奈さん。おそらくメールに添付しているんだろう。「向こうに着く頃にはいくつかできてるから、その中からつっきーの希望を聞いて修正していく感じで。良い衣装にしようね♪」 #twnovel

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「はい、ありがと。OK♪」パタンと、PDAを閉じ、加奈さんが写真撮影の終わりを告げる。特に何もしてないないのに肩にどっと押し寄せるこの疲れはなに……？というか服装のデータにしては撮影枚数が多かった気がする。あとポージングもいらな――「ほらー！行くよ、つっきー！」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

――いつの間にか玄関を出たらしい加奈さんに呼ばれて我に返る。けれど、（え？え？加奈さん、今、ここにいた、よね……？）いや、疲れたせいで、ぼーっとしてしまったのかもしれないけれど。「ほら、月那。呼ばれていますよ？早くお行きなさい」「あ――はい、い、行ってきますっ」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「――バイク」――玄関で慌てて靴を履き（少し迷ったがいつも通りでスニーカータイプの安全靴にした）、外に出ると門扉の前でバイクが低いアイドリング音を響かせていた。「あっ、しまった。靴のこと忘れてたよ……」加奈さんの言葉も目の前のバイクに心奪われそれどころではない。 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

（うわなになになにこのバイクこんな綺麗なフォルムの子初めて見た結構大きいし排気量750ccはあるよねいや1000いってるかなおおエンジンやっぱり大きいなぁ4気筒だけどどうだろうV型？ふむマフラーは4-1-2の二本出しでサイレンサーはチタン？アルマイトが綺麗――） #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「――っきー？つっきー？」はぇ？「ああ、良かった、戻ってきたね……」目の前には加奈さんのなんだかとても疲れた顔。そんな顔の加奈さんは珍しいなぁ、なんて他人事のように思っていると「ねぇ、つっきー、ホントに大丈夫？」凄く怪訝な顔をされてしまった。「え？何がですか？」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

そう言い加奈さんに焦点を合わせたボクは驚いた。「加奈さん、それ……？」「え、ああ、これ？どう？似合う？」口元を不敵に歪めニヒルに笑う加奈さんが身につけているのはライダースーツ。マットブラックの生地とプロテクターに炎を模ったような紅いラインが映えて「格好いい……」 #twnovel

佐藤“頭痛役”太一郎 @robonagare

「そう？ありがと♪」左脇にスーツと揃いのデザインのヘルメットを抱え、右手をつきだしてVサイン――ってなぜそんなポーズが貴女には似合うのですか。「でね、つっきー」はい？「さっきの写真撮影、靴の事をすっかり忘れちゃってたんだ。悪いんだけどもう一回いいかな？」写真…… #twnovel