ダメージド・グッズ #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ピザ・マルゲリータをくれ」「はン?」タキは顔をしかめて客を見た。「……ああ、あれな、具無しのピザな」「具無し……まあとにかく、それだ」「オイ!コトブキ!頼んだぞ」タキはコトブキを探した。「何だ?あいつ、どこ行った」「あの子かわいいよな」客が言った。「どこでゲットした?」 1

2017-01-20 22:20:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ゲット?」「ああ。オイランドロイドなんだよな?」「あれはな、なんつうか、色々あンだよ」タキは溜息を吐いた。片腕がまだギプスで吊られており、動きづらい。「オイ、コトブキ!オイ!怪我人だぞ、オレは!」階段方向に向かって叫ぶ。「居ますよ」カウンターの陰から声が返った。「忙しいです」2

2017-01-20 22:25:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「急に近くに居るのをやめろ、怖ええからな?」「忙しいんです……」コトブキはUNIXデッキを床に置いて、IRCネットワークを検索中だった。「何やってる」「色々調べる事があったんです」「ピザ・マルゲリータ」客が急かした。タキはオーブンを指差した。「あそこだ。セルフでどうぞ」 3

2017-01-20 22:27:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

客はオーブンに歩いていく。「なんかこの前いっぱい死んだんだってな」「そうだよ。オレもこんなだ。最低だよな。ま、解決したから安心してくれ」「フーン。これか、ピザ」「それ。……ンン」タキはコトブキの肩越しにモニタを覗き込む。コトブキは振り返るが、すぐにタイピングを再開した。 4

2017-01-20 22:32:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

モニタにはいくつかのIRCウインドウが開いている。「欲望伝説」。これはそこそこアンダーグラウンドなドキュメンタリー番組の名前だ。地下スモトリやアニメボーイ、プッシャーや回路タトゥーイスト等を取材する。別の窓には「ウキヨとは」。別の窓には「貴方のカイシャの辞め方」。 5

2017-01-20 22:36:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前、何調べてンだ?オイランドロイド戦争……オイオイ」「この前、”欲望伝説"を見ていたら、凄い取材をしていたんです」タイピングしながらコトブキが答えた。「わたしの仲間がいるかも」「お前の?何?」タキが眉をしかめた。「つうか、カイシャの辞め方?どこか働いてたのか?」「ここです」6

2017-01-20 22:40:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここ?ピザタキか?オイオイオイ……話が見えるようで見えて来ねえ……」「タキ=サン」コトブキは向き直り、かしこまってオジギした。「今まで、わたしを働かせてくださって、ありがとうございました」それからオリガミ・メールを渡した。「さっきプリントアウトしました。辞表です」「辞表!」 7

2017-01-20 22:42:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何?ネエちゃん辞めンのか?」客がピザの焼け具合を確かめながらコトブキを見た。「オイランドロイドも辞めたりすンだな?」「そうです」コトブキが頷いた。タキはオリガミ・メールを開いて文面を確かめた。正しい辞表フォーマットだ。「辞める?」「今月の給料の振込先も書いてます、ここです」8

2017-01-20 22:46:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ギャハハハ!」客が何かツボに入り、笑い転げた。「ギャハハハハ!」ピザを取り出し、食べながら笑い転げる。タキは苦虫を噛み潰したような顔で、「ちょっとな、オレの明晰な頭脳でも、よくわからねえんだが……」「お店、とても楽しかったです。でもわたし、仲間の村に行ってみようと思って」 9

2017-01-20 22:48:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ……仲間の村?何だと?」タキは徐々に飲み込めてきた。ピザとビールで楽しくやっている客を一瞥した後、コトブキの耳元で囁いた。「ウキヨの村ッて事か」「そうです」「ブルシット!そんなもん、あるわけが……」「調べたんですよ」デッキを指差す。「あの番組でも、それらしいものが」10

2017-01-20 22:53:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウキヨが暮らしてるってのか?」「ネオサイタマから少し北に行ったところだそうです」「それでお前……」タキは言葉に詰まった。無謀だ。テレビ番組をアテにして、廃墟エリアに?反射的にコトブキの行動を咎めようとしたが、彼は不意に混乱した。反対する義務も必要も無いのだ。余計なお世話だ。11

2017-01-20 22:57:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

自我を得たオイランドロイド。即ち、ウキヨ。その存在がひろく知れ渡ったのは、約十年前の「オイランドロイド戦争」がきっかけである。オイランドロイド収集家のコレクション数十体が自我覚醒し、人間との激しい戦闘に発展。収集家は死に、覚醒オイランドロイドはメディアに向けて声明を発表した。12

2017-01-20 23:08:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「我々は必ずしも貴方がたの隣人とならなくてもよい」。それがその時のウキヨの言葉だった。以来、ウキヨ達は社会の暗部を徘徊し、恵まれた戦闘能力を活かしてヨージンボーをするなり、賞金稼ぎをするなり、やや不穏な形でポスト磁気嵐時代の市民社会に溶け込んだ。しかし……「マジで村が?」 13

2017-01-20 23:12:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マジのような気がするんです。テレビ番組は、とてもよく作られていたものですし、それに」コトブキは胸に手を当て、「ハートが呼んでいる気が。ハートを信じないと」「ブルシット……」タキは呻いた。「それでお前、百歩譲って実在するとしてだ。そこで暮らすッてのか?」 14

2017-01-20 23:16:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わたし、このお店で暮らすのはとても楽しかったです。ですが、他の仲間に会ったことが無いでしょう」コトブキは言った。「興味があります。それが自然な事かもしれません。狼が群れに帰る映画を見た事もあります。たくさん友達ができるかも。ユウジョウですよ」「ユウジョウなあ……」 15

2017-01-20 23:23:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキはコトブキを見た。短い付き合いを振り返るに、コトブキは頑固で、一度自分の中で結論を出した事について譲る事はほとんどない。何を言ってもコイツはウキヨの村を探しに行くだろう。そして、それを強いて止める理由も権利もタキにはないのだ。ケンカもコトブキの方が強いだろう。「わかった」16

2017-01-20 23:26:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ありがとうございます」コトブキは再度オジギし、二階への階段を駆け上がった。タキは客と目を合わせ、肩をすくめた。コトブキはスーツケースを担いで降りてきた。「ニンジャスレイヤー=サンにも宜しくお伝えください。寂しくなったときは、星を見上げてください。同じ空の下にいるのです……」17

2017-01-20 23:31:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

風鈴が鳴り、ドアが開いた。マスラダだ。「タキ=サン。調べ物だ。今すぐだ」リンゴのワックスを服で拭いながら入って来た。コトブキを一瞥する。「今、星がどうとか言ったか?何だって?」「ちょうどよかったです。今までありがとうございました。わたしは旅に出る事にしました」「旅?」18

2017-01-20 23:36:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いい!もういい。後で説明する」タキが遮った。コトブキはほとんど颯爽として店から出て行った。「何だ、あれは?」「まあ長い別れになるッてこった。後で説明する。後で」「なんか大変だな。ピザもう一枚いいか」客が声をかけた。タキは首を振った。「今日は店じまいだ」 19

2017-01-20 23:40:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スピード屋形船はしめやかな速度で支流に入っていった。「オルルルル……」「オルルルル……」バイオパンダらしき動物の声がバンブー林の奥の闇から聴こえてくる。リンゴアメは水面を撥ねるバイオサーモンを目で追った。「楽しいか」キュナカがリンゴアメの肩に触れた。「ようやく到着だよ」 21

2017-01-20 23:47:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて支流は屋形船をコンクリートで舗装された岸壁に導いた。ゴムタイヤやドラム缶が濁った水の中を浮き沈みしている。シンジツは船を止め、慣れた手つきで船を係留した。「さ。行こう。気をつけて」キュナカはリンゴアメの手を引き、地面に立った。「人間だとフラフラするんだ。こういう時」 22

2017-01-20 23:53:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうなんだね。ここから歩く?」「まあな。だけどここからはそう遠くない。長い船旅だったろ」「楽しかった」「そりゃ何よりだ」にこやかに言葉をかわす二人の少し前方を、ハチェットで藪を切り払いながらシンジツが導く。やがて道は徐々に上り坂となった。左手の地面が崖めいて落ち込んでいる。23

2017-01-20 23:56:48