シャード・オブ・マッポーカリプス:ウキヨ、コトブキ

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【今回のエピソード】 ・「ニンジャスレイヤーPLUS」に掲載の「シャード・オブ・マッポーカリプス」の1エピソード ・時系列はシーズン1第3話「サンズ・オブ・ケオス」の直後 ・ピザタキにやって来たコトブキとタキが登場する ・更新1回分で終わる短編

2020-10-07 19:50:00
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PLUS特別放送 シャード・オブ・マッポーカリプス:ウキヨ、コトブキ pic.twitter.com/srH4BnAxry

2020-10-07 19:57:00
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「ハイ、イラッシャイ」タキは寝ぼけ眼で入店者を見た。気弱そうな男だった。近所の人間じゃないな。真昼間、危険地域を観光にでも来たか? タキは見当をつけた。「あの、ここ……ピザ屋ですよね」男は尋ねた。タキは新聞を見ながら答えた。 1

2020-10-07 20:00:00
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「見りゃわかるでしょ」「いやあ……」 男は曖昧に笑ってカウンターに近づいた。「ご注文は」「どんなピザありますかね……えっと、そうだな、僕、ポルチーニが好きで……」「ポルチーニ?」タキは顔をしかめた。男は慌てて首を振った。「あ……ゴメンナサイ!」 2

2020-10-07 20:04:00
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「それじゃあ、クアドロフォルマッジ……」「ア?」タキは顔をしかめた。「ゴメンナサイ!」男は慌てて首を振り、メニュー冊子に目を落した。「あの、これ……このノリとモチの……」「アー、ノリを切らしてる」「エッ、そうなんですか? 困ったなあ」「オレは困らねえな」タキは新聞をめくった。 3

2020-10-07 20:07:00
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「エー……じゃあどうしたらいいんですか。ぼく、辛いのや、味の濃いお肉が入っているのはあんまりなあ」男が上目づかいでタキを見た。タキは新聞をクシャクシャに丸めて立ち上がった。その手には銃がある。「テメェ、ナメてんのか」「アイエッ!?」 4

2020-10-07 20:10:00
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「ウチはそういうピザ屋じゃねえんだよ。……カエレ!」「アイエエエエ!」男は悲鳴を上げて逃げ去った。タキはドアの外に出て、店外のストリートを睨んだ。「ッたくクソが……ア?」定位置に戻ろうと振り返ったタキは、階段の脇の椅子に腰かけているオイランドロイドに気づいて仰天した。 5

2020-10-07 20:13:00
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髪は淡いオレンジ、アオザイを着ている。コトブキだ。「いつからそこに居やがる」「さっきですね」姿勢正しく座っているコトブキは少しも身体を動かさずに答えた。「ギョッとするからマジでやめろ」「何がですか?」「そうやって家具みてえに止まってたり、いつの間にか場所を移動してたりだ!」 6

2020-10-07 20:17:00
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「止まり、動き、両方NG……ジレンマの発生です」「自然にしろッて話!」 「難しいですね」コトブキは立ち上がり、店内をゆっくりした摺り足で往復し始めた。「何やってる」「カンフーのエクササイズです!」「ああそう」タキは諦め、マゴノテ・マッサージャーで自分の肩を押しながら、目で追った。 7

2020-10-07 20:20:00
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コトブキはオイランドロイドだが、自我がある。所謂「ウキヨ」だ。情報屋稼業として裏社会に通じ、ソウカイヤの連絡窓口(応答はないが)を持つタキでさえ、ウキヨとこうして言葉を交わし、遠目ではない直接の面識を持ったのは初めてである。 8

2020-10-07 20:23:00
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オイランドロイドが自我を持つ事案が広く知られるようになったのは、2038年以降の事だ。覚醒したオイランドロイドたちは、自身を「ウキヨ」と名乗った。ウキヨの初期の認知は凄惨な事件とセットだった。 9

2020-10-07 20:26:00
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オイランドロイドが性的な玩具として使用されるケースは珍しくない。実際機械であり、自我を持たず従順であるゆえに、ひどい扱いをする所有者もしばしば居た。そういった者たちが、突如ウキヨとして覚醒したオイランドロイドに血祭りにあげられるケースが相次いで起こった。 10

2020-10-07 20:29:00
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ウキヨは生身の人間より遥かに強い。重く強靭で柔軟な身体と反射神経を持ち、感情の起伏が少なく、必要とあらば容赦ない殺戮者になる。「我々は必ずしも貴方がたの隣人とならなくてもよい」。俗に「オイランドロイド戦争」と呼ばれた2039年の事件で、首謀者のウキヨがメディアに発信した言葉である。11

2020-10-07 20:32:00
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これは百体以上のオイランドロイドを蒐集していた闇カネモチのもとで数十体の覚醒ウキヨが反乱を起こし、ヤクザトルーパーとの激しい戦闘の末、闇カネモチと周辺者を殺して逃走したという、驚くべき事件だ。「必ずしも」……。奥ゆかしい言葉ではある。 12

2020-10-07 20:35:00
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こいつはどうなんだ?タキはカンフー・ムーブを行うコトブキを見ながら考えを巡らせる。ヤバイのか?ヤバくないのか?……タキが過去に見かけたウキヨは皆「ヤバイ奴」らだった。強力なニンジャやヤクザの護衛として、ナギナタやトンファー、カタナで武装し、虫でも見るように人間を見ていた。 13

2020-10-07 20:38:00
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奴らは到底、ファッションモデルやコメディアンやサラリマンには成り得ない。市民はウキヨを恐れ、ウキヨは市民にとりあわない。両者には、種としての断絶がある。廃墟や地下に隠れ潜むか、あるいは人の世に出て、闇社会のヨージンボとして暮らすか。奴らの生活手段といえば、そのどちらかだった。 14

2020-10-07 20:41:00
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「ハイ!ハイ!ハイヤーッ!」中腰姿勢で踏み込みながら、コトブキは三連続の短打を繰り出し、伸び上がって片足立ちで静止した。そのまま首だけ動かしてタキを見た。「どうしました?」「やめろ、店ン中で。ここはピザ屋だぞ」「だって暇なんです」コトブキはカンフーをやめてカウンター席に座った。15

2020-10-07 20:44:00
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タキは顔をしかめた。「暇で結構!ここにビンテージVHSなんてものはねえ」「構いませんよ」「生まれた時から、その開かずの間とやらにいたのか、お前?」「多分そうですね」コトブキは頷いた。「でも、世の中のルールや道徳はよく理解できていますから!」「カンフー映画でな?」「はい!」 16

2020-10-07 20:47:00
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タキは肩をすくめた。コトブキは訝しんだ。「今、あなたが、わたしを侮った雰囲気を感じました」「だったら何だ」「わたしはフィクションを教科書にして、大切なことを沢山学んできました……。鵜呑みにして悪い影響を受けているという決めつけは心外なんです」「アー、もういいって、わかったよ」 17

2020-10-07 20:50:00
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「ところでニンジャスレイヤー=サンは?」「知るかよ」タキは答えた。「このまま戻ってこなくても全く困らねえ」「でも、戻ってきますね?」「……ああ」タキは舌打ちし、渋々頷く。「アイツ、オレの命を救ったッて、つけこんで来やがるンだよ」「きっと、彼は困っているんです」コトブキは言った。18

2020-10-07 20:53:00
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タキはコトブキを見た。「……まあ、そうだろうな」「多分そう……アッ!」コトブキが店外を見て驚き、立ち上がった。「大変です!」ドアガラス越し、店外の路地で四人のカラテパンクスに因縁をつけられている男が見えた。タキは欠伸した。「なんだ。さっきのポルチーニ野郎じゃねえか」 19

2020-10-07 20:55:00
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カラテパンクスは男の頬を張ったり、眼鏡を奪うなどしていたぶり、最終的にはジャックナイフを取り出した。タキは溜息をついた。「ほっとけ、ほっとけ。観光気分でブラついてたんだろ……オイ! ほっとけって!」「いけません!」コトブキは店外へ飛び出した。 20

2020-10-07 20:57:00
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コトブキはツカツカとカラテパンクスに近づいていった。ナイフが迫る。コトブキは拳を構えた。「オーゴッド」タキは頭を抱えた。「ハイヤーッ!」「グワーッ!」「ハイヤーッ!」「グワーッ!」目にも止まらぬ連続攻撃。四人のカラテパンクスは顎を打たれて脳震盪を起こし、水溜まりの中に転がった。21

2020-10-07 20:59:00
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「劇終……」「大バカ!」タキは店外へ出、コトブキを引っ張った。「殺したのか?」「大丈夫です。むしろ殺人を防ぎました。義侠心が刺激されました」「面倒を作るな!」「意識が混濁して忘れてくれます」「キミ、助かったよ」被害者の男がコトブキに歩み寄った。「エッ……オイラン……ドロイド?」22

2020-10-07 21:02:00