白い男の話

李氏 @BLUEPANOPTICON

「そうして肝を冷やしながらの作業にも慣れてきた頃、新しく高校生の女の子が同じシフトに入ってきたんだよ。うわー若いのに気の毒だなぁと思って、とりあえず自分の知ってる範囲で事情を説明したのね。ヤバいから辞めた方がいいよって」

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「でもその子は私慣れてるんで大丈夫ですって言って。んで俺も気になって詳しく話を聞くとその子はどうやら霊感持ちの子らしくて、何度もその種の体験をしてきてるみたいなんだよね」

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「へーそんなの本当にいるんだってなってね。こういう霊の通り道みたいなの直感的に分かったりするのって聞いたら、『何となくは感じ取れますね、でもここのはかなり変というか、筋がこう、歪められてるというか』って」

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「それってどういうことって聞いてもそれ以上は教えてくれなくて。仕方なく彼女にレジの仕事教えながら例の白い男が来るまでの時間をやり過ごしてたのよ」

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「そうこうしているうちに天井から例の声が聞こえてきて、うわ来たなと思いながらお経を読み始めた訳。気になって横のレジを見たら、案の定彼女は腰抜かしてて。まぁ幽霊って聞いてまず思いつくビジュアルじゃねぇもんな、アレは」

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「しょうがねぇなぁと心の中でぼやきながらお経を何度も唱えたよ。言われた通りに。隣で女子高生がガクガク震えてるよ、『お父さんお父さん』なんて言ってさ。まぁ霊感少女って言ってもまだ高校生だからね」

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「でも途中から何だか様子がおかしくなり始めて『お父さんそれ以上ぶたないで』とか『お母さんの顔が潰れちゃう』とか訳の分からないことを言い始めて。どうしたと思って横見たら白目剝いて痙攣してて。うわやべぇってなって」

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「白い男は相変わらず迫ってきてて、俺が必死に祈祷しても止まってくれなくて、進行方向が彼女のいる方になってて。無心で祈り続けていたら、隣から断末魔みたいなもの凄い叫び声がして、恐る恐る横のレジを見ると」

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「女子高生と白い男がカウンター越しに立ってて、二人ともこっちを見てて。女の方の口角が上がって、笑っているように見えて、そのまま裂け目が耳の付け根まで広がって、中は真っ黒で何も見えなくて」

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そこで友人が気を失っちゃって

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彼が次に目覚めたのは病院のベッドの上ということらしくて。周囲の看護師に事情を聞くと、コンビニの客が店の真ん中で一人倒れている友人を発見して、呼びかけても返事をしないので仕方なく救急車を呼んだのだと教えてくれて。

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その時はまだ女子高生は行方知らずという状況で、後日近くの山で彼女らしき死体が見つかったそうで。警察の話によると外国の文字で書かれたお札のようなものが食道から胃にかけてぎっしり詰め込まれていたとのことらしくて。死因は不明で。

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「それで自分の身体を医者に調べてもらってもなんも異常がないということらしくて、退院になって、その後何日か警察からの取調べを受けて、職場になんとか復帰出来て」「でも他のスタッフさんからあの日以来店長が全く店に顔見せなくなったって聞いて、電話やメールも一切連絡が取れないと」

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「俺も馬鹿だからさ、そこで縁を切りゃあいいものを変に義侠心働かしちゃってさ。女の子一人死んでるのに自分は雲隠れとは何事かってなっちゃって」「裏の書類漁って店長の住所探り当てて、そのままアポ無しで殴り込みかけちゃったのよ」

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「電車とバス乗り繋いで家まで行ってさ、独身だって言ってたのにやけに立派な一軒家だなぁと思いながらインターフォン押して」「『はあい』って言いながら玄関からあの男が出て来て、俺の顔を見るなりすぐに家の中に逃げ込もうとするから、ドアノブを握る腕を掴んで無理矢理中に入って」

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「それで『あの白い男はいったいなんなんだよ』って聞いたんだよ。『人一人死んでんだぞ』って。でもあいつは何も言わなくて。仕方ないからいざという時のために持ってきた自衛用のナイフを取り出して」

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「あいつがメチャクチャ怯えた目で俺を見て、それでも何も答えそうにないから腹に思い切り蹴りをくらわせて、店長が床に倒れて、部屋の奥で花瓶か何かが落ちて割れる音がして」

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「それでもう一度ナイフをあいつの目の前に突き出したんだよ。そうすると店長は『俺は悪くない』『俺は悪くない』って涙目で。それで俺もうカチンと来ちゃって、手首を思いっきり踏んづけてやってさ」「痛みで根負けしたのかあいつは『死んだ人間。名前も知らないあいつが殺した』って』

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「『どういうことだよ』って俺が聞くと」

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「『親父のせいだよ。ボケて悪かった頭が更に悪くなって、俺を殴り始めて、世話しきれなくなって』って」

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「『直接手を下さずに始末出来るってあいつが言うから。でも親父の他にもたくさん死んで、妻も娘もいなくなって』って」

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「『そいつらが全員俺に、呪いがどんどん、どんどん強くなって。クソ、全部台無しだ』って」

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「店長の返答があまりに要領を得ない感じだったから俺一人で呆然としていると、奥から何かさらさら流れてくる音がして。次は一体なんだよと思いながら視線を映すと、さっき割れた花瓶の破片がひとりでに動いていて、そいつらが何か図像のようなものを描き始めて」

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「不気味なことにそれに見覚えがあって、何だろうなーと考えていると」

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「そういえば警察の人に女子高生の腹の中のお札の写真見せてもらったんだったって思い出して」