空想の街・花と海の目覚め'17 三日目 #赤風車

#空想の街 花の目覚め・海の目覚めの期間外そのいち(17/02/06) #赤風車 纏め。 この次が終局。 過去本編など→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権は それぞれの作者に帰属します。画像はこちらから→http://catinthedeath.web.fc2.com/ 続きを読む
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不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

瞠目して柘榴の言葉を聞いている徒華に、柘榴がはにかんで話しかけてくる。徒華は――柘榴の今にも消えそうな声を追っている。 「ごきげんよう、あたらしい女中さんかしら――ながい黒髪がきれいね。わたしとおそろいだわ――ね、おなまえ、なんておっしゃるの。おしえてちょうだいな」 #赤風車

2017-02-06 22:59:06
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「私――」 ――もう、柘榴にとって、後輩で友人だった皆代徒華はいないのだろう。目の前でこうして手をとり柘榴を支える徒華は、見知らぬ娘でしかないのだ。それでも―― 「徒華です。私は――私は皆代徒華です」 顔を上げて顎を引き、やさしく名乗る。 #赤風車

2017-02-06 23:01:10
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

柘榴のことも、櫻子のことも、二人とも失いたくなかった。平和を守るための沈黙だった。 併し、結局徒華は柘榴と同じ性であることに甘えていたに他ならない。同性だから許される、そんな距離が確かにあり、その思いが強ければ強いほど、「だからこそ恋は許されない」と責める羽目になった。 #赤風車

2017-02-06 23:02:26
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

――忘れていない。一番最初に話しかけられたときのことを――やがて柘榴はあの時と同じように、花が綻ぶように笑ってきた。 「とうかさん。いいおなまえね。わたし、とおかんやざくろ、っていうの。ほら、とうか、とおか、で音がちょっと似てる、すてきだわ。――なかよくしましょうね」 #赤風車

2017-02-06 23:03:46
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

徒華の瞼が下りる。 合歓の花を思わせる、しっとりと俯く長い睫毛が頬をこする。 そうして、――はい、と徒華は微笑んだ。もう一度強く、しっかりと手を握り、それから、あどけない柘榴へと緩やかに頷きかける。 #赤風車

2017-02-06 23:05:30
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

何故このひとがこんな目に遭わねばならなかったのだろう。親を敬い、学に励み、恋を夢見て――柘榴もまた、自由を目指していただけだ。真面目に、深く、そして軽やかに。 神や仏のようにはなってしまってほしくないと徒華が痛切に願っていた存在は、今、その領域へ一歩踏み出してしまった。 #赤風車

2017-02-06 23:07:24
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

きっと徒華の走馬燈はもう出来上がっている。出会った図書室のひかり、教えてもらった御衣黄、喫茶店、好きだと笑っていたレコード、貸し借りした本、観にいった活動――もらった言葉。 実のならない花、ふたり、 それでも徒華は笑顔で全てを振り切るように首を振って柘榴へと跪く。 #赤風車

2017-02-06 23:08:49
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

「もうお独りになどいたしません。貴女がゆるしてくださる限り――ずっとおそばにおります。 貴女を、」 #赤風車

2017-02-06 23:09:46
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

――お慕いしております。 忍ばせる言葉に嘘はなかった。 柘榴が今後どうなろうと、永遠にもとに戻らないとしても、徒華は誰のことも独りにしない。 この想いも変わらない。 #赤風車

2017-02-06 23:10:43
不可村天晴・ネプリ12/6の15:00まで @nowhere_7

果たして柘榴は、淡く花開くようにほほえんだだけだった。 ――目を伏せて、相手を包み込む敬虔な笑みを絶やさずに柘榴の手を握り締める徒華の背後、ばらばらに飛び散った蜻蛉玉の破片と風車の残骸を、一文字が拾っている。 #赤風車

2017-02-06 23:12:15

三日目・終
→四日目(終幕)

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