空想の街・冬の目覚め 2017・期間外

twitter上の創作企画「空想の街」の花の目覚め・海の目覚めの期間外まとめです。 漏れや不備等あれば主催まで。
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うらはら @ura_saraha

カツン、カツン、と足音をさせて窓也は夜の街を歩く。地下から上がったばかりの目には、真っ暗な夜空の星も冴えて眩しいような。「眩しい、は言い過ぎか」小さく笑って、窓也はゆっくりと街の外を目指す。灯りの消えた街並みの静かな眠り。「どの方々も、よい春を」 #空想の街 #原料屋

2017-02-07 00:09:39
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

小雨はふと顔を上げた。夜風は随分冷たく、きっと体は冷え切ってしまっているだろう。もう感覚もない指先を、しかし小雨はあまり不愉快には思わなかった。なんだか内側ががらんどうになったように体が軽い。寒いからだろうか、と愉快な気持ちで立ち上がる。 #空想の街 #夕闇俳句帳

2017-02-07 00:15:11
はなまめ @gp_c_

大水槽は、番台に設えた表口から通りの街灯の影を食んで薄明るい。波留はその上に渡した吊り板の上で、水が真珠みたいだと思った。仄かな光の波を受けて、しゃがみ込んだ彼の顔からその下に続く安いシャツにも青緑のぼんやりとした影が浮かぶ。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:39:17
はなまめ @gp_c_

今夜を年に何回もない浜の錦湯の休店日として、月が真上に登る頃には母屋の中にも明かりはなくなっていた。 「――今日はお疲れ様」 水槽の姫は、うしおは今寝ている。 両腕も鰭も寝巻きの裾も、あられもないの例えのように投げ出して白い肌を濡らしている。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:39:45
はなまめ @gp_c_

赤い髪を珊瑚のように水中へ広げ胸も腹も水面に浮かべていると、生物と暮らした者は多少の不安を掻き立てられるだろう。 「……寝相、悪いなぁ」 魚だったら死んでるなって思うよ。 くすくすと、暖かな感情の形をとって口元を緩ませ、意味もない寝巻きの裾を直してやる。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:40:01
はなまめ @gp_c_

自分の息より静かな、耳を澄まさないと見失う音が愛しい。 人魚は眠ると夢を見る。心が体の形をとったような生物、だから人魚姫は嘘をつかぬ様声を差出し、うしおは感情の嵐に出会うとこうして夢を求める。瞼の裏の闇に波留が追い付けない程深く深く潜って、波留を置いて。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:40:13
はなまめ @gp_c_

暮らし始めのうしおはよく寝た。波留のいない事に酷く怯える様になっていた。視界から消えると不安気に探し回り、風邪を引こうなら枕元から離れなかった。実は時折波留の寝息を確かめているのも、知っている。あれだけドタバタと動く鰭、音で目が覚めないはずはないのだ。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:41:06
はなまめ @gp_c_

そうやって心配される度、波留の心に悪い事をしている幸福感が桃色の淡雪を降らせた。命の有限さだけを嫌という程思い知った彼女には人間というものはひどく傷つけてくる癖にひどく脆い、氷の切っ先なのだ。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:41:13
はなまめ @gp_c_

大事な宝物が今日も壊れやしないかと、何度も何度も指を滑らせて傷の痛みで確かめるのだろう。うしおは波留に知られている事を知らないし、波留もこうやって自分の寝息を確かめているなんて終ぞ思わないだろう。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:41:34
はなまめ @gp_c_

温かな水が揺れる水槽から、うしおの左手を掬い上げる。乾いていた指先のささくれももう治って、白く細い絵に書いたような指先だ。どんな魔法でこの指は治っていくのか、分からない。そう、うしおにもわからない。 昼間の男への物言いは流石に波留には可哀想だった。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:42:03
はなまめ @gp_c_

愛しい人に値段がついてその胎を利用される事実でも腸が煮え繰り返るのに、よもやそれをする側に見られたなんて。いや、可哀想なんていう他人行儀はやめよう。あの怒りは波留の怒りだ。無念だ。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:43:03
はなまめ @gp_c_

何を言っても自分達の価値は肉なのだと頑なに思ううしおへの、うしおをそうした奴等への呪いめいた怒りだ、それを本人に謝られる悲しみも含めて。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:43:08
はなまめ @gp_c_

頭のいいうしおはこちらの心持ちも、説明すれば理解するだろう。波留が説明の必要性を感じないからしないその理由はわからなくとも。 掬いあげた手の先から滴がぽたぽたと水面へ落ちる。それでも、波留は低い水音に瞼を伏せながら、あの人はいいなと思う自分を見据えていた。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:44:18
はなまめ @gp_c_

出会った頃からずっとうしおは波留の命を何よりも慈しんだ。うしおが望むなら、となるべく危ない事はしないようにした。うしおを叱ってまで車椅子のターボを外させた、それこそ可哀想だったがうしおの希望を叶えるためには仕方ない。けれど。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:45:16
はなまめ @gp_c_

そうして必死に生きて必死に死んで、それでもうしおは生きていってしまう。波留の声を忘れて、波留を思い出さなくなる時がきて。 …いいなぁ。あの男は選んでもらえたのだ。エゴを、一方的な刻印を、これは未来永劫死には肉の一片たりとてやらないと言ってもらえたのだ。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:45:36
はなまめ @gp_c_

どれ程の苦しみがあったのだろう、それをどうやって耐えてきたのだろう。 徐に波留は、濡れそぼるその左手の、薬指を口に含む。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:47:13
はなまめ @gp_c_

血が出る程でもなくけれど確かに強く噛み締める。意識のないうしおの顎がひくり、と揺れたのは波によるものだろう。 ……日をみて、あの人に謝りにいこう。謝って、話を聞こう。例えば、例えば、いない朝の起き方とか。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:47:22
はなまめ @gp_c_

数分して唇から離された指には、朝になる前に消えてなくなる程度の歯形が輪になって残っていた。左手をそっと水に放し、空いた手で顔に張り付いた髪を整えてやる。 「…おやすみ、うしお」 海の底では酸素はないんだろうな、と眠気の波に揺れる頭で波留はその暗さを思った。 #空想の街 #浜の錦湯

2017-02-06 23:47:41
こみや@空想の街 @Ne2_co

目覚めの二日を終えて。あゆ子は『目覚に寄する条々』の最後の頁を読み終わった。最後の一話は「耳無」の一条。花を咲かせず、蕾のままで長い時を過ごす花を、耳を両手で覆ったまま花になった娘の化身に例えた物語だった。最後の頁を捲る――と、その奥付に。 #空想の街 #はなのえ文庫

2017-02-07 00:15:23
うらはら @ura_saraha

次の目的地は砂漠の予定で、だからかふと気まぐれを起こした窓也の足が東区へと向いた。最後に海を、海の目覚めが終わってから聞こえるようになった波音を聞いてから去ろうと思ったのだ。誰もいないだろうと思った浜辺に人がいて窓也は驚いた。 @hrsrh_a #空想の街 #原料屋 #夕闇俳句帳

2017-02-07 00:18:49
うらはら @ura_saraha

奥の方に夜空、その下に黒々と広がる海を背にぽつぽつと連なる街灯の合間、人影が一つ立っていた。「驚いたな」窓也の言葉にその誰かがびくりと肩を揺らした。「…私も、驚きました」返って来たのは女の声だ。「こんな時間に散歩かい」 @hrsrh_a #空想の街 #原料屋 #夕闇俳句帳

2017-02-07 00:21:22
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

声をかけてきたのは男だった。この街には多い、奇抜な格好の歩き売り商売人だ。「そちらもお散歩ですか?それとも帰るところなのかな。花の目覚めと海の目覚めで商売繁盛でしょう」いつになく饒舌な自分を自覚しながらふらりと歩み寄る。 @ura_saraha #空想の街 #原料屋 #夕闇俳句帳

2017-02-07 00:25:21
うらはら @ura_saraha

ふわふわとした口調と足取りに密かに窓也は眉を潜めた。もしかして酔っているのだろうか。面倒だと思ったところで、ふ、と誰かの吐息。目の前の彼女ではない。腰の山茶花が何か言おうとしているのに気づいて驚く。初対面の人間の前とは珍しい。 @hrsrh_a #空想の街 #原料屋 #夕闇俳句帳

2017-02-07 00:30:18
うらはら @ura_saraha

どうした、と囁いた窓也の声を無視して、まどみがすうっと息を吸って、言葉を吐く。「あんた、影が無いのね」 @hrsrh_a #空想の街 #原料屋 #夕闇俳句帳 ハッとして窓也が振り向く。まどみの言葉に、女が凍り付いたように足を止める。街灯に照らされた体の下に、影は、無い。

2017-02-07 00:32:39
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「あんた、影が無いのね」ふいに言ったのは少女の声で、そこに満ちた嫌悪が小雨の体を凍り付かせた。ひゅっと吸った息が喉を裂く。咄嗟に見下ろした地面には街灯の細い影だけだ。「あんた」青年の声が言う。「あんた、影を捨てたのか」 @ura_saraha #空想の街 #原料屋 #夕闇俳句帳

2017-02-07 00:36:57
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