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目次と設定
第三部
第三部第一話 プロローグ ~旅立ち~
靄の漂う中、深い森を切り開いた一角にある家の扉が開いた。一人の少年が顔を出す。外に出ると音を立てないようにそっと扉を閉め、家から離れる。通りへと抜ける小路に出る前に、一度少年は家を振り返った。 #twnovels
2015-07-12 13:47:00(父さん、母さん、姉さん、さようなら。生きてたらたまには帰ってくるから) そして前を向き、決然とした足取りで歩き出す。そのとき、 「クロス!」 その背に彼の名を呼ぶ声が、その歩みを止めさせた。 #twnovels
2015-07-12 13:47:33「父さん・・・」 振り返らずとも、彼──クロスには声の主が父──エクスであることは解った。 「父さん、止めても無駄だよ。俺は自分の力がどこまで通用するか、世界で確かめたいんだ」 #twnovels
2015-07-12 13:48:06「止めやしないさ」 「え?」 意外な言葉に、クロスは振り返った。扉から出てきたエクスはゆっくりと近付いてきた。その手には彼の愛剣が握られている。 #twnovels
2015-07-12 13:48:38「お前の性格は解っているよ。その前に、一太刀くらい俺に入れてみないか?」 そう言うとエクスは鞘から剣を抜き、鞘を投げ捨てた。 「・・・できなけりゃ諦めろってことか?・・・やってやるさ」 #twnovels
2015-07-12 13:49:11クロスも背負ったバッグを降ろし、腰に下げた鞘から剣を抜いた。対する相手は王国一との名声も高いクラシスにも勝ったという、正に最強の剣士。これまでに何度も稽古をつけてもらっているが、クロスは一太刀も入れられたことがない。 #twnovels
2015-07-12 13:49:42そんな相手に小細工は意味がない。クロスは息を整え、剣を構えた。対するエクスは、剣を持った右手を下げ、まったく無防備に見える。けれど、それが見せかけにすぎないことはクロスもよく知っている。 「いくぞ!」 #twnovels
2015-07-12 13:50:12クロスは間合いを一息に詰め、エクスに思い切り切りかかった。エクスは右腕を上げ、苦も無くその剣を受ける。間髪を入れず、クロスは次の手を繰り出す。誰も見る者も無い早朝に、剣戟が響き渡る。 #twnovels
2015-07-12 13:50:44「なかなか強くなったじゃないか」 クロスの全力の攻撃を受け流しながら、エクスにはまだ会話をする余裕がある。対して、クロスはそんな父の言葉を聞いている余裕もなく、次々と剣を繰り出す。 #twnovels
2015-07-12 13:51:14けれど、その状態はそれほど長くは続かなかった。 「はっ!」 クロスの一瞬の隙を突いてエクスの気合が迸り、手にした剣がクロスの剣を跳ね上げた。吹き飛ばされた剣は離れた地面に突き刺さる。 #twnovels
2015-07-12 13:51:41「くっ」 クロスは素早く後ろへ飛び退き、間合いを取った。 (くそ。・・・剣を取っている間は・・・ないか。その間に倒されるな。ならば・・・!) エクスと対峙しながら、クロスは左手に魔力を集めた。 #twnovels
2015-07-12 13:52:14一瞬、跳ね飛ばされた剣に目をやり、 「はっ」 左手を前に突き出して炎球をエクスに向かって放つと同時に脚に力を込めて力一杯跳んだ。 #twnovels
2015-07-12 13:59:56クロスの跳んだ方向は剣ではなかった。炎を飛ばした方向、エクスに向かって飛び込んでいった。右手で鞘を取り、その鞘でエクスを攻撃する。 対するエクスは、手にした剣の一振りで炎を消し去ると、続いて襲い掛かってきたクロスの鞘を受け止めた。 #twnovels
2015-07-12 14:00:36「強くなったな」 ふっと笑ってエクスはそう言うと剣を引いた。 「え?」 虚を突かれてクロスは一瞬呆然とする。エクスは背を向けて自分が投げ捨てた鞘を拾うと、剣を納めた。 #twnovels
2015-07-12 14:01:12「餞別だ。持っていけ」 エクスは鞘に納めた自分の剣を、クロスに放って寄こした。クロスは投げられた剣を左手で受け取りながら、疑問を口にした。 「俺、一太刀も入れられていないけど、止めないの?」 #twnovels
2015-07-12 14:01:57「止めるつもりはない、と言ったはずだぞ。それとも止めて欲しいか?」 「いや、そういうわけじゃ」 「今ので、勝負の形に拘らないことは解ったからな。それなら、まず大丈夫だろ」 「何言ってんだよ」 #twnovels
2015-07-12 14:02:36エクスはふっと笑ってそれから真剣な顔でクロスに言った。 「いいか、死ぬなよ。どんなに恰好悪くてもいい、何が何でも生き延びろ。その気概があれば、そうそう負けることはないさ」 それがエクスなりの最後の教えだと、クロスは理解した。 #twnovels
2015-07-12 14:03:13「でも、この剣、父さんにしか抜けないんじゃないのか?」 「今はな」 少し言葉を区切ってから、エクスは言葉を続けた。 「俺はもう、そんなに長くない」 「え?」 「剣を観察していれば、それは解る。そのとき、お前次第で剣は抜けるさ」 #twnovels
2015-07-12 14:03:49「それより、父さんが長くないって、どういうことだよ」 「剣に魂を喰われたからな。お前はそうなるなよ」 「魂を喰われたって・・・」 「お前が剣を使いこなせれば、大丈夫さ。俺には使いこなせなかったということだ」 「・・・」 #twnovels
2015-07-12 14:04:21「クロス」 突然、家の方から声がかけられた。玄関を見ると、母が外に出てきていた。隣には姉もいる。 「これを持って行きなさい」 母──メルフィアはクロスに近寄ると、一冊のノートを手渡した。 #twnovels
2015-07-12 14:05:20「・・・これは?」 「魔力の使い方を私なりに纏めたの。あなたはあまり魔力を使わないと思うけれど、その父さんの剣を使いこなすつもりなら、知っておかないと無理よ」 クロスは手渡されたノートと、父から渡された神器・レクリウスの剣を見比べた。 #twnovels
2015-07-12 14:06:09「・・・わかった。肝に銘じておくよ」 クロスは、父の剣を背にかけ、バッグを拾うと母のノートをしまって背負い、地面に刺さった自分の剣を引き抜くと土を掃って鞘に落とし込んだ。 「それじゃ、父さん、母さん、姉さん、行ってくる」 #twnovels
2015-07-12 14:06:48それだけ言うと、クロスは家族に背を向け、もうすっかり靄の晴れた中を歩き出した。 「気をつけて! 死んじゃ駄目よ!」 心配する姉の声に振り返らずに手を上げて答え、クロスはこれまでの生活に別れを告げた。 #twnovels
2015-07-12 14:07:35