悠久なる世界の欠片 第三部

クロスとウィナーの物語。 不定期 & 虫食い 連載
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夢乃 @iamdreamers

「僕がサールに合図を送れば、この国の歴史はここで終わる。みんな、僕と一緒にあの世にいくんだ!」 狂気の笑みを浮かべた国王の言葉を聞いて、騒いでいた人々はその場から逃げ始めた。兵士は止めようとしたが、彼らにも群集に同調するものが現れ、無駄なことだった。 #twnovels

2015-07-25 20:18:35
夢乃 @iamdreamers

そんな中、シャスタは演台の上で笑っていた。 「今から逃げたって無駄だ!国全体がなくなるんだから!もう遅いんだよ!サール、やれ!」 最後の言葉は、魔鉱石の結晶の上に立ち、その時を待っていた魔術師に向けられていた。 #twnovels

2015-07-25 20:19:50

夢乃 @iamdreamers

魔鉱石の上の広い平面の中央で、開けられた六つの穴の上に剣を浮かせて、サールはシャスタの合図を待っていた。待つ必要もないが、折角だ、最後まで思い通りに計画が進んでいると思わせておくのもいいだろう。もうすぐ力が手に入る。それを思ってサールはほくそ笑んだ。 #twnovels

2015-07-25 20:21:10
夢乃 @iamdreamers

「サール、やれ!」 シャスタの合図と共に、サールは中に浮かせていた六振りの剣を魔鉱石に開けられたそれぞれの穴に差し込んだ。魔鉱石が振動し、魔鉱石を取り巻くように魔力障壁が形成される。 「フフフ。フハハハ。やったぞ。遂に神にも匹敵する力を手に入れた!」 #twnovels

2015-07-25 20:22:11

夢乃 @iamdreamers

シャスタが合図すると、シャスタの後ろにそびえる魔鉱石の周りに、魔力の弱いものでも分かるほどに強力な魔力の壁が出来た。支えていた足場が崩れ落ちる。 「これで終わりだ!」 シャスタは叫んだ。・・・1ミール・・・2ミール・・・しかし、終わりがくる様子はなかった。 #twnovels

2015-07-25 20:23:33
夢乃 @iamdreamers

逃げ惑っていた人々も少し落ち着きを取り戻した。シャスタは、演台の上で狼狽の表情を浮かべている。 「なぜ何も起きない!? シャーラン!サールと連絡を取れるか?」 「その必要はありませんよ」 演台のシャスタとシャーランの前に、サールが出現した。 #twnovels

2015-07-25 20:24:11
夢乃 @iamdreamers

「どういうことだ?」 シャスタが詰め寄る。 「私が言ったこの国を滅ぼす計画、あれは嘘です」 「何?」 「本当の計画は、ファースレイヴの六神剣の力を手に入れることだった。けれど、人間の身体に神の力は入りきらない。だから、巨大魔鉱石が必要だったんですよ」 #twnovels

2015-07-25 20:24:48
夢乃 @iamdreamers

「騙したな」 「いくら私でも、個人の力であんな巨大な魔鉱石を精製するのは無理ですからね。あなたはよく働いてくれましたよ。これでもう用済みです。それでは、さようなら」 サールの前に出した手から雷撃が迸る。けれど、それはシャスタには届かなかった。 #twnovels

2015-07-25 20:25:22
夢乃 @iamdreamers

「シャーラン!」 「陛下!お逃げください!」 シャスタとサールの間に瞬間移動して雷撃を防いだシャーランは、若き主君に顔だけ振り向き、最後の挨拶をした。 「お元気で」 次の瞬間、シャスタの姿が消えた。 #twnovels

2015-07-25 20:26:02
夢乃 @iamdreamers

「フン」 サールは、腕に魔力を込め、雷撃を強めた。その強力な力をシャーランは防ぎきれず、全身を雷に打たれて、その身体は灰と化した。 「最後の力を使って主を逃がしたか。まあいい。目的は果たした」 そう言うと、サールは演台から姿を消した。 #twnovels

2015-07-25 20:26:50

第三部 外伝より

夢乃 @iamdreamers

道を行く馬車の中から、御者台に声がかけられた。 「カーナス、次の角を左に曲がったところに青果店があったわね。予定と違うけれど、その店の前に着けてちょうだい」 「かしこまりました」 #twnovels

2014-10-18 16:12:14
夢乃 @iamdreamers

青果店の前では大柄な店主が貧相ななりをした子供の手首を掴んで罵声を浴びせていた。子供の手には大きなリンカの実が握られており、その目は一度手に入れたものを話すものか、とばかりに店主を睨んでいる。 #twnovels

2014-10-18 16:12:46
夢乃 @iamdreamers

と、店主の目の前の空間が強く発光した。 「うおっ」 店主は空いた手で顔を覆ったものの、子供を握った手は離さなかった。 「このクソ餓鬼、結構強力な魔力を使いやがる。しかし残念だったな。俺はこの程度の目くらましにゃやられないぜ。素直にそいつを返しな」 #twnovels

2014-10-18 16:14:33
夢乃 @iamdreamers

そこへ先ほどの馬車が止まり、一人の婦人が日傘を差して降りてきた。 「どうしました?」 婦人から店主に声がかけられる。 「あ、これはタリーシア様。いや、この坊主が店の商品をひったくろうとしたんで、とっ捕まえたんですよ」 #twnovels

2014-10-18 16:14:55
夢乃 @iamdreamers

タリーシアと呼ばれた婦人は少しの間子供を見つめると、 「いいわ。そのリンカの代金は私が支払います。カーナス、支払いをお願い。ついでに、リンカを一篭分いただこうかしら」 「かしこまりました」 御者も馬車から降りてきて、懐から財布を取り出す。 #twnovels

2014-10-18 16:15:16
夢乃 @iamdreamers

「いいんですかい?俺は構いませんが」 店主が戸惑ったように言う。 「いいのよ」 「そう仰るのなら・・・」 と店主が手を離したとたん、子供は走り去ろうとする。が、できなかった。何かにぶつかって尻餅をついてしまう。 いつの間にか、タリーシアがそこに立っていた。 #twnovels

2014-10-18 16:15:40
夢乃 @iamdreamers

「この街で私から逃げようとしても、無駄よ。さあ、私と一緒にいらっしゃい」 そう言葉をかけて腰を屈め、優しく子供の手を取る。子供は反抗的な目で見上げていたが、観念したのか、暴れること無く立ち上がった。 「さ、行きましょう」 そのまま手を引いて、馬車へと歩き出す。 #twnovels

2014-10-18 16:16:20
夢乃 @iamdreamers

子供を馬車に乗せ、自分も乗り込もうとするとき、ふと思い出したように店主を見て、 「あ、そうそう、女の子に“坊主”なんて言っちゃだめよ」 と悪戯っぽく言って馬車の中に消えた。 「え、女の子だったんですかい?」 店主が言ったときにはもう馬車は動き出していた。 #twnovels

2014-10-18 16:16:43
夢乃 @iamdreamers

馬車の中でタリーシアは御者に、 「予定変更ね。屋敷に戻って頂戴」 と言っておいて、自分を見つめている少女と相対した。 「どうしたの?そのリンカはもうあなたのものよ。遠慮なく食べていいのよ」 手にしていたリンカに今気付いたように、少女は大きな実にかぶりついた。 #twnovels

2014-10-18 16:17:04
夢乃 @iamdreamers

あっという間に食べ終わった少女に 「あら、ずいぶんとお腹がすいていたのね。もう一つどう?」 袋から、先ほど買ったリンカの実を取り出し、少女に差し出す。少女は引っ手繰るようにその実を取ると、それでも先ほどよりは落ち着いて食べ始めた。 #twnovels

2014-10-18 16:17:32
夢乃 @iamdreamers

その様子を、タリーシアは隣で静かに見ながら考えていた。 (どこから来たのかしら。昨日までは街にはいなかったと思うけれど・・・見落としていたかしら。さすがに、何日も見落とすことはないはず。こんなに目立つ子なんだから。この後、どうしようかしら・・・) #twnovels

2014-10-18 16:17:57
夢乃 @iamdreamers

そんなことを考えているうちに、馬車は屋敷へと戻ってきた。車寄せの前に馬車が止まると、自ら扉を開けて馬車を降り、 「さ、降りましょう」 少女に手を貸す。 #twnovels

2014-10-18 16:18:22