-GC after ある流星の10年後-

有志7期『Ten Years After』には多忙のため参加していませんが、冷やかし程度にTYA参加者(主にロイエさんやカテーナさん周辺)に10年後オリオン・レムノスでちょっかい出しに行ってました。 また、TYA有志レイド企画『バルレアの冥獄』には参加済。 #一矢流星   十年前、七度時を廻り己が未来を変えた弓兵君主。今ではアトラタン大陸連合領の一角で穏やかに妻子と暮らす彼の下へ、旧知の仲である研師が訪ねてくる。 続きを読む
0
前へ 1 2 3 ・・ 36 次へ
おやすむ💤ウニ @lv100uni

「一人で行くのか」 自室から引っ張り出してきた長剣を投げ渡し、己の装備や聖印の調子を確かめるオリオンを見て文月は問う。 「あ?当たり前だろ。お前の口振りじゃあパンドラ側も大人数じゃなさそうだし、まぁ、これくらいは君主一人で片付けなきゃな」 さも当然のように、彼は言う。 #一矢流星

2017-02-19 01:16:58
おやすむ💤ウニ @lv100uni

「それはそうだが……」 ふと、不安が過る。彼が言うことは真っ当だ。文化の違う文月には理解しがたいが、そういった英雄精神がこの世界の君主には求められることも知っている。まして、オリオンはその英雄精神の体現を貫き通した男だ。 「剣の研ぎはどれくらいかかる?」 #一矢流星

2017-02-19 01:22:01
おやすむ💤ウニ @lv100uni

「一週間もあれば」 「よし。頼んだぜ。この一週間で聞き込みして、一週間後に直接対面といこうか」 一週間。彼がそう言ったなら、きっと本当に一週間で彼はパンドラの手の者を見つけ出すだろう。 誰かを探すということに関してなら、オリオンより得意な奴はいるはずがないのだから。 #一矢流星

2017-02-19 01:26:08
おやすむ💤ウニ @lv100uni

なにせ彼は、誰にでも何にでも化け人を惑わす稀代のミラージュを、その執念と根気と気合いだけで見つけ出した男だ。彼にはその偶然を手繰り寄せる力があるに違いない。 「せめてアコニでも連れていけばいいものを」 「アコニなら二ヶ月前から領を出てるぞ」 「は、」 #一矢流星

2017-02-19 01:30:02
おやすむ💤ウニ @lv100uni

なんでまた、と驚きを隠さず呟けば、オリオンは苦笑をする。 「あの人は根無し草……根無し花だからなぁ。まぁ、そのうち戻ってくんだろ」 聞けばよくあることらしい。彼女らしいといえばその通りかもしれない。 「……それとも、お前が一緒に来るか?」 悪戯っぽく弓兵が微笑む。 #一矢流星

2017-02-19 01:33:43
おやすむ💤ウニ @lv100uni

目が合った。存外真剣な目をしている。オリオンは本気だ。 「……はは、冗談が過ぎますよ、領主様」 視線を伏せ、手の中にある剣の柄を、握る。 「一介の研師が、もはやお前の前に立って共に戦えるわけがないだろう。からかうなよ」 ――かつて。 かつて、シズノだった頃。 #一矢流星

2017-02-19 01:38:30
おやすむ💤ウニ @lv100uni

己の存在が『フミヅキ』ではなく『シズノ』で、『人』ではなく『刀』であった頃。 シズノは、オリオンの前に立って戦った。時に彼の盾となり、時に彼の刃となって、共に時間が廻る戦場を走り抜けた。 もう十年。あれから十年経つ。人と刀の主従から人と人の対等の友となって十年経った。 #一矢流星

2017-02-19 01:42:42
おやすむ💤ウニ @lv100uni

シズノは、文月は、戦士ではない。武人でもない。ただの研師だ。戦士や武人が握る武器を鋭く研ぐだけが生業の男だった。それがどういうわけか、その身に受けた呪詛と祝福によって束の間戦士の真似事を可能にしていた。 それら全てを剥ぎ取り、シズノを刀から人へ戻したのはオリオンだ。 #一矢流星

2017-02-19 01:47:00
おやすむ💤ウニ @lv100uni

結果、フミヅキは己が異能の殆どを失いただの研師に戻った。 喜ばしく思わないわけではない。それはずっと望んでいたことで、むしろそうしなければ文月は早々に正気を失っていたに違いなかった。 けれども、こうして彼に請われると、今はもう無力になってしまった己を悔やむ瞬間はある。 #一矢流星

2017-02-19 01:50:47
おやすむ💤ウニ @lv100uni

自分はもう彼の盾にはなれない。斬られれば死ぬ、ただの人。彼に守られる存在になった。 「お前も意地が悪い。またロス・ヴィリエが悪い入れ知恵でもしたか?」 「ははは、すまんすまん」 己に出来ることはただ一つ。刀を、剣を研ぐ事だけだ。 「ま、そういうわけで。よろしくな」 #一矢流星

2017-02-19 01:54:56
おやすむ💤ウニ @lv100uni

「ああ。一週間後にまた来るよ。……嫁さんを泣かせるような様にはなるんじゃないぞ」 「う、わかってるよ」 用件は済んだ。文月はオリオンの身を守る剣を袋に包み、館を出る。 近くの工房に戻ればすぐ作業に取りかかれるだろう。研師は足早に道を急いだ。 #一矢流星

2017-02-19 01:59:09
おやすむ💤ウニ @lv100uni

なぜだか胸騒ぎがする。そしてこういう時のそれはよく当たることも知っている。 「……はぁ。あいつ、どうせまた大怪我とか、しそうだな」 溜め息。聴く者はなく。 夕陽が沈んだ後の薄明るい紫の空に、星がちらちらと瞬き始めていた。 #一矢流星

2017-02-19 02:01:50
おやすむ💤ウニ @lv100uni

きっかり一週間で仕上げられた長剣が文月から届けられた。あれでやはり根は職人である。いつも通り、一切の手抜きの無い仕事ぶりだ。 彼に研ぎを頼むと、どんな剣でもいつも恐ろしいほどよく斬れる剣になって返ってくる。彼の職人気質によるものか、あるいは当人の性質によるものか。 #一矢流星

2017-02-19 14:16:30
おやすむ💤ウニ @lv100uni

何にせよ、剣は万が一にしか抜く気のないオリオンにとってはやや過剰とも取れる斬れ味のそれは、光に当てるとうっすらと刃の表面がうすら白く光る。確か文月はこれを刃文だとか何とか言っていた。こちらの世界の剣ではあまり見ない工夫だ。 #一矢流星

2017-02-19 14:19:58
おやすむ💤ウニ @lv100uni

聞けば、見た目の美しさと斬れ味の両立を図るために、彼の故郷の国で発達した創意工夫であるらしい。 文月の研ぐ剣はよく斬れる。よく斬れる剣は同時に、斬れれば斬れるほどその扱いに熟練を必要とする。彼の剣を持つ、そのためにオリオンは尋常でない剣の鍛練を強いられることとなった。 #一矢流星

2017-02-19 14:26:05
おやすむ💤ウニ @lv100uni

彼の剣の師は稀代の剣士であった。剣の作り手にも師匠にも恵まれていた環境ではあったが、当時の鍛練の厳しさたるや、今でも思い出すだけでオリオンは背中に震えが来るほどだ。 「だがまぁ、強くなるのは、悪くない」 かつて今より若かった頃、己の未熟さ故に辛酸を舐めたことがある。 #一矢流星

2017-02-19 14:29:31
おやすむ💤ウニ @lv100uni

その苦しみに比べれば、どうということはない。 「ん?」 剣を包んでいた袋から何かが転がり落ちた。続いてひらりと紙が一枚。 拾い上げると、転がり落ちた物は掌サイズの小さな布の包み袋だった。無地の布で、口の部分を紐で縛ってある。 紙は文月の書き置きのようだ。 #一矢流星

2017-02-19 14:33:36
おやすむ💤ウニ @lv100uni

『それは御守りのようなものだから持っておけ。といっても、実際に何か術式をかけてあるわけではない。俺がやると全て呪いになってしまうからな。だから、願掛け程度の代物だ。』 達筆なアトラタン語の文字が並んでいる。この10年で彼もアトラタンの言葉にすっかり馴染んだようだ。 #一矢流星

2017-02-19 14:37:02
おやすむ💤ウニ @lv100uni

「御守り、ねぇ」 実際の効能は何も無いらしい。確かに魔力は一切感じられない。 だが、こういった願掛けはオリオンも信じる方だ。有り難く胸ポケットにしまうことにする。 「あいつも心配性だな」 剣を鞘に収め、腰に付ける。 頭を切り替える。 #一矢流星

2017-02-19 14:40:16
おやすむ💤ウニ @lv100uni

この一週間で情報は掴めた。断片的だが、とりあえず居場所が掴めただけ上々だ。真意は会って聞けばいい。 黒いフードに、赤十字の仮面の男。 パンドラとして暗躍している。少なくとも、善良な市民、というわけではなさそうだ。 「話して分かる奴ならいいんだが……会ってみるか」 #一矢流星

2017-02-19 14:46:05
おやすむ💤ウニ @lv100uni

上着の裾を翻し、男は屋敷を出る。 目指すは領地の西。森林地帯の一角。 #一矢流星

2017-02-19 14:48:01

かつての……

おやすむ💤ウニ @lv100uni

@Malice_GC4 この地の森は海に近い。ともすれば、ほぼ接していると言ってもいい。 昼下がり。木漏れ日差す森の中。木々や土の香りに混じり、微かに潮の気配がする。 中央の舗装された道でなく、少し外れた獣道を行くロイエの背後を、追う影がある。 →

2017-02-19 15:32:42
おやすむ💤ウニ @lv100uni

@Malice_GC4 気配は隠していない。足取りは悠々と。まるで、己の庭だと言うように。 いい加減鬱陶しく思ったか、ロイエが漸く足を止めると、少し距離を空けた後方で男も歩みを止めた。 先に男が声を掛ける。 「なぁ」 振り返った先には、ロイエにも覚えのある顔。 →

2017-02-19 15:36:33
前へ 1 2 3 ・・ 36 次へ